第23話 鉄路迷宮

ビルの崩壊という、思いも寄らぬ事態が起きた。

その時、俺は一瞬にして気絶し、無惨にもその崩壊に巻き込まれてしまったのだ。

その崩壊の余波に巻き込まれた時、全く見知らぬ暗黒の世界ともいえる場所に落とされていた。


ポタポタ。

水滴が落ちる音が耳の内部を揺らす、特に耳障りではなかった。

だが俺の気絶を起こして、暗闇の彼方までぶっ飛んでいた意識を叩き起こすのには、最適な音だった。


「う、ん……」


その水滴の落下音で、閉じていた瞳がほぼ無理やりにこじ開けられた。

だがその視点は、ぼやけていてまるで、真冬の水滴だらけのレンズみたいだ。


その次に、首に氷水にも匹敵するほどの冷たさが、首裏を通じて脳に電撃や光速にすら匹敵するともわせるほどの速度で、意識を再起動させた。


「ひ、ああ!!」


変な声をあげてしまった。

その音は、真っ黒なよくわからない空間に、一瞬にして波及したのだった。

それと共に大きく目を見開き、俺は自分がいる場所が崩壊によって落とされた場所だと、理解できた。


「え、あ、ここは? どこに落ちた?」


自身に起きた状況が理解できずに、真っ黒なよくわからない空間を見渡す。

この場所がどんな施設なのか、俺の記憶には該当するものがない。


真っ黒な空間を掴むように、俺は空間に対して手を伸ばし左右に動かし続ける。

だが手に触れる、もしくは逆に触れてくるものなど全くない。

それでも何かを期待しながら、意味など考えずに、ただ手を動かし続けた。


それによって手に走る感触など、期待を裏切るかのように暗い空間によって作られた、冷く絶対零度の如く冷酷な、感触だけであった。


感触の次に、全く遅れることなく、次の感覚がやってきた。

その感覚は間違いなく、ここの世界に入ってよく感じるようになった、どう足掻いて嫌悪しても絶対に、離れてくれることのない感覚。

“痛み”であった。


その発生源は最初は手の指先と、さっきまで雷撃の矢を放っていた、右腕の肘であった。

その痛みは、骨が折れた時の痛みに非常に……いや、骨が折れた時の感覚そのものであった。


異界アナザー……幻像ファントム、きど……」


異界幻像アナザー・ファントムを起動して、原因の部位を修復しようとした。

だがその願いはねじ伏せられた、実行しようとした途端、声が詰まりそれ以上先の言葉が出なくなり、息も同時に出ることすらをやめていた。


その間にも発生源は、全く痛みの規模を減少を起こして全く痛みの規模を変えようとせず、健在である。


「クソ———あ」


自身の負った傷を少しだけでも治せずに、憤怒などが惜しみなく詰め込まれ、言葉を虚空に漏らす。

あまりよろしくないことだが、俺の身体で起こっている痛みは声すら出せない、今はこの痛みは厄介なことこの上ない。


これ以外のことを考えようにも、もしこの空間に敵対してくる生き物がいると考えれば、俺に残された時間はない。

もし居ないとして、この空間で声を大にしても返ってくるのは、俺の声に非常に似たか真似したかのような、木霊が返ってくるだけである。


この状況、どうしようもない。

今までこの異常な世界に入っていくつか、絶望的な状況に追い込まれたことはある。

その時はほぼ毎回と言っていいほど、誰かが近くにいるとか、相手を対処できるぐらいの武器が絶対にあった。


だが今回に限ってか、もしくは必然だったのだろうか。

俺には今、自分から動くこともできないかつ、誰かに助けを求めることすらできない。


「……はぁ」


自分の状況に呆れてため息が出る。

これを誰かに見られて大ごとにされるのも困る、それでも誰にも見つけられないのも、俺にとっては非常に困る。


どうやったら……。

どうしようもない状況に、精神が追い詰められそうになる。

暗闇が一層深くなり、俺をこの空間から脱出させないようにしている、気がしてきた。


誰か来てほしい、ただの一般人でも俺はいい。

ただ助けてくれる人だけが、俺のところに来てくれるだけでいい。

それだけで、俺は救われそうな気がしてくる。


「だ、れか」


その状況を想像すると耐えれなくなり、俺は口から声を漏らした。

伸ばすことができない手を、伸ばそうと手を動かそうとする。

だがそんな簡単に、現実が思い通りに、動いてくれるはずなど全くない。


「はぁはぁ……」


声が一切出ないもう意識も、どこかへ飛んでいきそうだ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         


「起動」


最後の力を振り絞って、意味のない言葉をまた口走ったのである。

何をしているのか、どういう意味があるのかなんて、意識の途絶えかけている、俺にはどうでも良かったのである。

ただ、誰かの助けを求めようとしたのを、別の言葉に変換しただけかもしれない。


そしてもう目の前が、真っ暗になりそうになっていった。

目の前がほとんど黒色に染まっていく、それで俺の命は途絶えると確定していた。


それでも、最後はマトモじゃない。



———やっぱり、俺にはカエデを守ることも、世界に反逆することなんて絶対に無理だった。



これで終わる。


「あ、え?」


そう思った時だった。

俺にとっては不可思議かつ奇天烈で、そして非常に摩訶不思議だった。


俺の身に起きたことは、俺の体に宿っていた最悪で最高に嫌悪すべき痛みが消滅した。

痛みが消滅したのは、本当に一瞬というべき刹那すら、時間すら空間すら……俺の体をぶち壊して体を灰燼に帰す速度だった。


だが、これは気まぐれだったのかもしれない。

ただの一時期の幻想が巻き起こしたのか、あるいは俺の意思が起こした謎の、超常現象オカルトに近い何かだったのか。


あるいは———世界が、俺に与えたもう一度の人生だったのか。


「起きれる? や、痛い……ん? 痛くない?」


痛みは情緒を制御できないらしく、強烈な痛みと全く痛くない状態を繰り返すのだ……と、想像していたが違ったらしい。

全く痛くなかった。

俺に宿っていた痛みの、情緒は完全に停止していたみたいだった。


俺は地下世界のどこかを、支えにして立ちあがろうとした。

だが、その想定は叶うはずがなかった、その立ちあがろうとした途端、手が全く動かないことに気づいたのである。


「何でだ? 痛みも無くなったのに、何で立てないんだ?」


今起こったことに、純粋な疑問を脳内で、駆け巡らせ抱えた。

俺はその純粋な疑問を解決するべく、俺はその手を覗いたのである。


「う、ああ、あああああああああああああああああああああああ!!!?」


必然ではあったが、俺はその単純な:選択を後悔した。

俺の目に飛び込んできたのは、非常にショッキングなモノであった。

一言で表すならば、指の骨が折れていたのである。

さっき骨が折れていると言ったが、それを絶するほどの衝撃だった。

絶対に向かないような方向に、歪に曲がっていた指を見た。

俺はすぐに、ソレを根絶するかのように、自身の異能を使用した。


「あ、ア、ア、異界幻像アナザー・ファントム、起動!」


異能を使用して、俺は指の怪我を治した。

その到底受け入れられない、現実を見て逃げた。


異界幻像アナザー・ファントムは俺の怪我を、一瞬で修復した。

本当に自然的に、俺の傷を苦労もせずに一瞬にして修復した。


「ははあ、何だよ……これ」


いきなり大きな声を出して、正常だった呼吸が異常なほど乱れる。

また意識がぶっ飛ぶかと俺は思った、正直めちゃくちゃグロかった。


俺は少しクラクラして、またもや地面に手をつこうとした。

正常を保とうと、意識のエンジンを無理やり動かして、立とうとした。

だがその望みは叶わず、そのまま地面に倒れ込んだのである。


さがそれは正解だったと、俺は感じたのである。


「ん? ちょっとまて、何か冷たいものが……」


地面には硬く冷たく、横に少し太く真っ直ぐ伸びているものがあった。

それを触った時は何かわからなかった、だが……この地下空間で硬いかつ、冷たいものなど一つしかない。


「まさか……地下鉄か? なら、脱出できる可能性が高いな!」


俺は期待に胸を膨らませる。

未知のものが解決でき、脱出の糸口が見つかった事実に喜ぶ。


「ここが本当に地下鉄なら、出口があるはずだけど」


それがわかった途端、俺の意識は唐突に再起の息吹を上げた。

それはまるで突風のように、唐突に俺を奮い立たせたのだった。


俺はそれを以って立ち上がった、再起した意識はそう簡単に崩れるほど脆くない。

先ほどはただの気の緩み。

そう考えて、俺はこの世界への反逆のための地味な、脱出を再開した。


「とりあえず、出口に行けるといったら、ホームしかないよな……ここが線路の上なら、大体予想はついているけど」


真上を向くと、そこには今にでも落ちてきそうな蛍光灯が見えた。

それが確認できると、俺は後ろにあった壁に体全身を向ける、そして壁に触れ擦らせながら、見えない場所に手を伸ばす。


「やっぱり」


壁を伝ってその目的のものを、すぐに見つけることができた。

まぁ、駅のホームにある段差だ。


段差に手をかけて、ホームによじ登ろうとする。


「てっ、うおっ!!」


段差に手をかけ、よじ登るところまでは良かったのだ、だがその先に行こうとすると、最悪な問題が生じた。


「あぁ、あぶな……次は、背骨まで無くすところだった」


その段差は湿っており、俺に怪我を与えようとしたのは、まるで狙っていたかのようだった。

だがそれにすぐ対応し、緊急で防いだ。


「よし、行くか」


それを言い、段差をよじ登った。

次は特に障害も生じず、普通に登ることができた。


「さて、登れたのはいいけど……うーん」


上がった途端、凄惨すぎるものが目に入ってきた。

ひどいくらいに崩壊した椅子、いくつか落ちた蛍光灯。

そして長年放置されすぎて、汚れがこれでもかと言うほど付着し、原型も留めてない駅広告。


見るに耐えない、過去の物たちが、その場に取り残されていた。


「まぁ、そんなことはどうでもいい、俺は出口に向かわないと」


過去のものを一瞬だけ目に入れ、その場を離れようとする。


「おっと、人間は久々に見るかな」


その時、誰もいない地下の世界に、声が響いたのである。

その声の特徴は、かなり低く、少し聞いただけで男性だとわかった。


それを聞いた時、俺の背骨は揺れたかのように、疼いた。


「まぁ、見つけたら……逃すわけないだろ、だって……お前は”帝国“の国民だろ?」


その声は俺の耳を凍らすかのように、耳元に触れてくる。

ものすごく嫌な予感が、俺の脳内をよぎって巡る。


それと同時に、俺は体の違和感に気づいた。

その違和感の正体は、すごく最悪な結果で目に入ってきた。


「え、あっ……」


腕が何かで貫かれていた、だが痛みなど全くなかった。

だがそこには、違和感だけはしっかりと健在していた。


「あ、ああああ!!」


俺は左手に、いつも戦闘に使用している、ハンドガンを出した。

それを、俺は四方八方に、威嚇するような考えで空砲を撃ち放った。


「それ、喰らわないぞ?」


声が物理的に、真横から聞こえた。


その時、俺は壁に叩きつけられ、激痛に包まれその場に倒れ伏した。

あが、それでも意識は消えなかった。



第23話 終

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