第22話 激戦再来

謎の強制退院が俺に、戦艦から撃ち放たれる砲弾のように全身に叩きつけられた。

干上がった脳内を整理しながら、気絶していた間に運ばれた病院を後にした。


病院の入り口にある、コンクリートの庇の下を通る。

その時、陽の差す青空が顔を出す……と思っていたが、なぜか気づかぬ間に金属のように灰色の雲が青い天空の海を隠している。


「……よく分かりませんね」


「うん、私もよく分からなかった」


「私もだよ」


俺が対応に愚痴を口から、嫌味の言霊を纏わせながら溢れ落とした。

その口に続くかのように、二人の美少女も共感してくれた。

それを言いながら、大きな駐車場を車を避け、当たらないように足を進める。


そして駐車場の入り口に差し掛かった。

入口から出ようとすると、一つの大きく見覚えのある影が見えた。

その影は俺の影を侵食するほどの大きさを持っており、逆に俺の影の存在が、ひと時だけ消滅したかのように思えた。


だが先ほども言ったように、俺はこの影に見覚えがある。

途端一秒で、その影の存在をこの世に作り出している、人物から声をかけられたのである。


「久しぶりだな」


短い言葉だった。

単調でほぼ挨拶のような、ただその役割を持っているだけだ。


「え?」


俺は喉の奥から口から声を漏らし、その影の上を見た。

そこには俺が知る人物がいた。

出会ったのは少し前、一ヶ月にも満たない期間の内に出会った人物。

俺はよく知らない人物だが、俺と共に出てきた二人の少女は知っているらしい。


その人物の名前は、鐘下 祐輔ゆうすけだ。


180cmの高身長、見た目だけで言えば正直めちゃくちゃ怖い。

初見ならば誰でも、子ウサギのように怯えて恐怖で腰を抜かしそうになる。

当然、俺も初見では同じようなことに、なりかけた。


だが……案外、性格が良かったので結構安心した。

確かに言動も少し荒々しいような、雰囲気を漂わせてくる。

とは言え結構、女子にもモテており場合によれば予定さえあれば、デートとかに誘われそうな気もしてくる。


「昨日のことは聞いてる、確か相当強いやつと戦ったらしいな」


当たり前だがその言葉を聞いて、俺の昨日の戦歴を知っているのだと理解した。

それ以外には俺の怪我などについても、情報を“誰か”から受け取っていたみたいだ。

その誰かは、大体予想はついている、というか予想してない方が無理がある。


「まぁ、とりあえず行くか、郊外アレに行きたいということは、マフユさんから聞いているからな」


遠慮せずに祐輔が口を動かし、あの戦場へ行くように催促させる。

それから俺たち四人は、忘れ去られた機甲兵器が蠢く場所へと向かったのである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



病院の入口から離れて、軽く10分ぐらいが経過した。

それまでは何も話さず、誰一人も呼吸と歩行以外の行動を起こさなかった。

その無機質な雰囲気と空気が俺たちを包む。

外部から見れば、異質な集団にしか見えないだろう、だって"一人だけ"身長おかしいから。


白と灰色で舗装された、チェッカー柄の歩行者路を歩く。

街路樹が一定間隔で植えられている。

高さが様々なまるで防壁のように、雑居ビルや廃ビルなどが建てられる、それは跨いだ世界を見せないかのように視界に制限を掛ける。


当然歩いていると、人とすれ違う。

だがその顔は、まるで灰色の雲のようにどんよりとした暗い顔をしている。

空気もジメジメしてくる、肌にベタついて不快感を増加させる。


これ以上、増大すれば身体にも影響が出始めそうになりそうだ。


だがそれでも、行動で示さずに想像の中に留める。


足を進めると、雑居ビルがほとんど無くなっていくのが感覚でもわかるほどになる。

ガラスがところどころ割れ、建物の一部が放置によって老朽化を起こし無惨にも倒壊している。

最悪のものに関しては、建物の錆びれた鉄骨の部分が露わになって、今にでも建物自体が完全に崩壊してもおかしくない。


さらに異常の地へと、自身の足を使って突き進む。

なぜか夏なのに肌が寒く、痛く悴んで手の震えがさっきからずっと止まらない。

何か本能的にここが非常に危険な場所だと、示しているみたいだ。


すると奥にさっき出した最悪の例すら、余裕で超えてしまうほどの例が出てきた。

救いようがないほどに、コンクリートが跡形もなく崩れ落ち、唯一の鉄骨さえ錆びれて地震などの大きな揺れが今この瞬間か未来で起きれば、鉄骨も完全に瓦礫となり地に落ちる。


「前より、損傷がひどいな」


祐輔が声を上げる。

それは独白のようにも聞こえ、もしくは過去のことを思い出して振り返っているようにも思えた。

前よりも損傷がひどいか……俺は特に気にしていなかったが、ここら辺をよく見ている人たちはここら辺がおかしいらしい。


郊外アレの周辺は瓦礫とかが大量に落ちているのは、前から知っているので全くもって初見ではない。

だがそこまでの、事実は知らないと言うことだけだ。


「錆?」


カエデが言霊を動員させ、世界へと放つ。

確かに目の前で起きているのは、ただの単なる酸化だ。

酸化したら鉄は酸化して錆びる、当たり前だ。

いくら子供でも、高校生レベルになれば学んでるだろう。


「錆ですね、ですがここまで早く進むとは思えない、来る前にここら辺を調査しましたが、ここまでの損傷は見受けられませんでした、だとしたら……」


祐輔が顔を歪ませる。

何かを考え込み、すごく悩んでいるように俺は見える。

最悪の事態を想定したくないと……心の底から思っていうように感じた。


「やっぱり、誰かの仕業ってことだよね?」


カエデが顔を歪ませ、悩んでいる祐輔に言葉を投げかける。


その言葉という痛みない攻撃を食らった、当事者。

それに図星を突かれたかのように、その場でもっと顔を歪ませた。

その上、遂には右手を動かし、自身の唇を完全に隠したのである。


「ええ……」


すると彼は、彼女に行動を示さなかった。

だがその声は、彼女の言ったたった一つの言葉を、正解じじつだと認めたのである。


「じゃあ、その誰かはわかってるの?」


「いえ、まだわかっていません」


彼は紳士的な対応をとり、彼女の敬意を払った。

その光景はまるで、高身長強面の執事とお嬢様の関係みたいだった。


会話はそれ以上続かず、また全員で崩壊した繁栄の残り香を残す地を踏み、竦みそうな足を進ませた。

気をつけるというのならば、今さっき言った異常な速度の酸化を起こした、姿すら現さない謎すぎる正体不明の“何か”だけだ。


「そろそろ……あ、見えてきた」


「やっと、か」


「常に、ここの空気は……やっぱり」


始めにカエデが口を開き、祐輔、マフユが続けて口を開く。

俺以外の三人は、正常に声を出した。

俺はこの時、再度圧倒的な実力差と圧倒的な経験の差を直視させられる結末となった。


目と鼻の先には、巨大な都市があった。

かつての繁栄と栄華が都市街かたちだけを残して、俺たちの目の前に現れた。

崩壊したビル、デコボコでビルの瓦礫がめり込んで道が塞がれた道路。

その巨大な都市は、まるで巨人のように俺たちが進むごとに見上げるほどの、大きさを世界に体現させた。


「なあ七星、ひとつ聞きたいことがあるんだが」


「え?」


祐輔が俺に質問を投げる。

咄嗟に返事を返した、どちらかというと驚きと返事の意味を込めた一文字だけだが。

何やら俺に聞きたいことがある みたいだが、俺は質問される筋合いなど全くもって保持していない。


「聞きたいことっていうのは、まぁ昨日の戦いのことだ……その戦いってのは郊外でのことなんだ」


それを聞いて思い当たる節は、2つほどあった。

1つ目は、機械兵ロボットとの防戦一方の戦い。

2つ目は、郊外の奥にあった全く崩壊の痕跡すら見られない、多くの人々が住んでいたであろう郊外すら越す謎ぞの巨大な都市。

そして、そこでほぼ手も足も出せず最終的にはカエデの大叔母様と言われる人から、助けられた白露 国幡というやつとのものか……。


まあ、どちらにせよ前者から順に、彼に言ってみることにしよう。


「「えっと、その戦いっていうのは機械ロボットとの戦いですかね?」


「ん、まあそれもあるが一番は、それから逃げた後に戦ったとかいう奴のことだよ」


俺は後者のことについて聞かれ、咄嗟に思考を再変更する。

昨日のことをまた思い出そうと、頭の膨大な記憶の回路を思いっきり働かせる。

そしててあの戦い思い出した。


カエデと戦い、まともなダメージすら与えられずに敗北しそうになった。

両方とも白い”何か“で貫かれ、大量の出血で意識が消滅しそうになったことも。

全てを思い出し、身がすくみそうになる。


「おい? 大丈夫か?」


「あ、あ」


正気からかけ離れそうな意識を、無理やり体に結びつける。

その結びつけた意思も、壊れかけの吊り橋の縄ぐらいの強度しかない。

だけど、今の俺からしたらこんな弱い力でも、意識をつなげられるのならどうでもよかった。


「い、あう」


少しずつ戻ってくる、それでも完全には程遠い。

あの光景が頭の中をよぎる、正直思い出したくもないものだ。

だけど、決して辛くても忘れてはいけないモノだと俺は確信していた。


「大丈夫か? 聞いてほしくなかったよな……どうする? 郊外ココから帰るか?」


そう言いながら、祐輔は俺の背中をゆっくりとさすってくる。


「はあ、はあ」


正気へと戻る、それはとてもゆっくりで微細な変化だが確実に、俺は戻っているとしっかりわかった。


「よし……」


俺は小さく呟いた、誰にも聞こえないほど小さな声をその口から漏らした。

心臓を抑え目の前を見る、俺は郊外にいるという現実を直視し直す。

この時、俺はこの現実から目を背けないと誓った。


どう足掻いても逃げれない現実を、不満ありげに受け入れたわけじゃない。

ただ自身の目的と、託された願いを背負って、俺は現実を歩むという決心を、今kの時に決めたのだ。


「行こう」


「うん」


俺がそう呟くと、他の三人も言葉をもって頷いた。

これが俺にできる正しい判断、今の俺にできるただ一つの判断。

それがこの三人にも、少しの改変もなく伝わってほしいと俺は願った。

それは、この世界にだ。


唯一の移動法である足を使って、俺たちは崩壊した繁栄の残り香へと、その身体を動かした。


そしておよそ、数十メートルという範囲内まで、崩壊の残り香との距離が差し掛かった。

後戻りはもうできない、

あとはこの現実を受け入れるということだけだ。


「行け」


俺はこう言って、自身を奮い立たせようと試みた。

これを言っても効果が薄いことなんてわかっている、だが今の俺にできることはこれだけだった。


そして、俺たちは郊外に足を踏み込んだ。

踏み込んでもアスファルトの、コツコツやゴツゴツとした感覚は俺が住んでいる、ハビタブル・シティと何も変わらない。


そして最初に目についたのは、人々が確立していたであろう、俺たちの住んでいる場所では使われないであろう“旧式”のガソリン車。

ガソリン車なんて、俺たちから見たら歴史遺産にも匹敵するほど、世界には電気自動車が溢れかえっている。


それを見て見ぬ振りをするかのように、俺たちは郊外を歩き続けた。

寂れた都市、誰も復旧させることなく、ただそこにあるだけの存在と確立されてしまった。

それ以上でもなく、それ以下の存在でもない。


「ハビタブル・シティ……なんだろう、すごく似てる気がする、今までは観光とか見学程度でしか来たことなかった……」


「まぁここは、多分だけどハビタブル・シティの原型だと思うよ」


カエデが俺の台詞の答えを出した。

それはどこか、俺の病室に来た美少女である、マフユにも通ずるところがあったような気がした。


そんな小話を挟んで俺たちは、またアスファルトの道を歩いた。

コツコツなんて音をずっと鳴らし、希望なき地を歩いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それを数十分間続けると、大きな交差点にたどり着いた。

それは俺が見た中でかなり大きな部類には、入ると直感で予想できた。


だがそこは、ものすごいと言わせるほど、嫌な空気が立ち込めていたのだった。


「……この空気、正直なところ最悪だな、多分ここには俺たちと敵対する存在がいるだろうな」


祐輔が声を上げる。


「ま、ここら辺の機械兵は数になれば、私単独でも流石に攻略不可能だね……」


「なら、こっちも数でやるしかないか」


その次にマフユとカエデが、順に話し始めた。


それが終わると同時に、鼓膜にかすかな感触が走るのが理解できた。

その感触の正体は、一瞬で理解できた。


金属が擦れるような駆動音、ソニックブームすら引き起こしそうなほど走行音。

その二つの情報が、俺の耳に一気に押し寄せた。

耳を塞ぐことなどせず、ただその現実と俺は向き合った。


「来た、やっぱり私嫌いだ、この“機械音”」


その正体は数秒の時間も使わずに、一瞬というべき速度で、俺たちの前に顕現した。


それは交差点を取り囲む、巨大なビル群の中にある一つのビルの影から現れた。


巨大な機体を無人で器用に動かしながら、俺たちの前に立ちはだかった。


その正体は、機械兵ロボット


それは現れると同時に、俺たちにその腕に武装されている、明らかに人間用ではないアサルトライフルを撃ち込んでくる。


「消えてもらうか、もうこの世には必要ないんだからなぁ!!」


祐輔が攻撃体制をとる、手から俺にも引火しそうなほど巨大な火の玉を出す。

その火の玉が現れると同時に、機械兵へとそれを放った。


その火の玉は、爆発を引き起こし、機械兵を見るも無惨な見た目に変貌させた。


「俺も!」


俺はポケットに隠し持っていた、ハンドガンを取り出した。

出した途端、機械兵に対ししっかりと、照準を合わせた。


「飛んでけ!」


俺はハンドガンのレバーを引き、電気の矢を作り出した。

一瞬で、電気の矢を放つ。


その矢は、機械兵を貫き、その後ろにそびえ立っていたビルに直撃した。


「じゃあ、私も」


カエデガカラミティアを、無の虚空から取り出した。

そして彼女の背後まで接近してきた、一機の機械兵を真っ二つに切り落とした。


「あまり、こういうことはしちゃいけないけど、今回は特別で!」


マフユがどこから出したかわからない、一振りの刀を取り出した。

それをカエデと同じように、前方まで接近していた機械兵を“何処か”へと消し去った。

だがこの時の俺は、全く気にすることができず、ただの攻撃だと認識した



そんな戦闘を数分間、止まることも全くなく、れたちは巻き起こし続けた。


すると、その状況を一発で壊すかのように、大きな揺れが巻き起こったのである。


「なんだ!?」


「なに、これ!?」


俺とカエデが声を上げる。

その時、俺の背後に立っていた、巨大なビルが倒壊を始めた。

これは確実に長らくの、老朽化が影響だ。


^なっ!?」


俺は体が動かすことができずに、その倒壊を始めたビルを閲覧することしかできなかった。


「七星クン!」


「七星っ!」


「神崎君!」


三人が俺の名を叫ぶ、だがそれにすら視線を向けることができないほどビルの倒壊は俺を、固定したのである。


「あぁ……」


俺は最後の余力を引き出して、カエデの方を見た。


そこにはただ俺に手を伸ばし、届くはずのない希望を抱く彼女だけだった。



第22話 終

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