第18話 戦闘終了/情報収集


銀色のトリガーを身を任せるがままに引いた。

硝煙特有の匂いが鼻をつく、それは戦いの終了を意味していたと気づく。

目を瞑っていたので、ゆっくりと目を開いた。

目を開けた先には暗い空間なんてなかった、あったのはさっきまで彼女といた、特に何も変哲のないアスファルトの道だった。


空に浮かぶ煌々とオレンジに輝く夕陽が、暑く容赦なく俺の頬を照らした。

ふぁが、それには該当しないもう一つの熱を、着用している服に感じる。

そっと顔を下に下ろすと、さっきまで激闘を繰り広げていた者が、もたれかかるように倒れていたのである。


「やったのか? コレで終わりでいいのか?」


口からはこの言葉以外、口から出なかった、戦闘が終わって感悪なんてほぼない。

空を飛んでいるような感覚になる。

フワフワしていると言った方が、わかりやすく的確な表現だろうか。


夏の虫が鳴いて、哀愁すら感じさせる。

この戦闘が終わったことは、すごく良いことだというのに、俺は全く嬉しさすら感じなかった。


「ああ、あ……」


もたれかかった者から声が漏れる、苦痛を無理やり押し殺しているようにも見えた。

それに対して俺は何をしようかなど考えもしない、ただその倒れている姿を見ているだけであった。


「なん……で、俺が負けるんだよ!」


「なっ!?」


その時、もたれかかっている者は唐突に、俺を突き放した。

それは最後の抵抗をする猛獣の如く、憎悪に近いものが混ざっていたのである。


だがその人物の顔も、同時に見えたのである。


一番目につくもので言えば左目を覆う眼帯、だがそれを打ち消すほどの整った顔、夕陽の光が反射して一部が白髪のように白くなっている黒髪。


だが口からは、銃弾が心臓に直撃したことによって、されたことによる喀血かっけつ


「殺してや———」


殺害宣言を行おうとした時、やつは唐突に崩れ落ちた。

それと同時に、口から先ほどの喀血を起こした。


それは非常に苦しそうである、だが俺はその怨嗟に少し体が動揺した。

俺にはなぜそこまで殺そうとする執念がわからない、それ以上戦って何の意味があるのか。

そして、俺がここで刃物でも取り出してやつを刺せば、戦いは完全に終幕を下ろす。


でも。

その執念は偽物にも見えてしまった、確かによく作られている。

それでも、その執念は造られたもの。

例えるなら……”誰かの恨みを代行しているようだ“。


「お██殺さないと、████が███」


声がよく聞こえない。

別に聞こえないと言っても声が小さいとかじゃない、声を掻き消すほどの鼓膜を大きく揺れ動かすほどのノイズが走っている。

ジリジリという少し聞くだけで、嫌になってしまいそうなほどしつこい音。


「くっ」


口から声が出る、その一言は到底ノイズを数秒だけ消すほどの、大きな音は出すことはできない。

異界幻像アナザー・ファントムを使って、日本刀を作り出した。

そして、耳を片腕を使って力を込めながら、耳が手の圧力で潰れそうなほど強く塞ぐ。


「まだ、まだ負けてない」


赤色の光が再度世界に顕現する、真っ黒空間じゃなくともやはり目立つほど強く輝いている。

もしその光が夕陽と重なったら、オレンジの夕陽を綺麗に二つに分断しているように見えるのだろう。


そしてその真っ赤な光も、やはり偽物の恨みを強く増強しているように見えた。

目に見えるものではない、でもやつが偽の恨みを出している。

それはやつに纏わり包み込むように、泳いでいる。

それでも決して目で認識できるような、██《モノ》ではないのである。


「殺す、██、█す……!!」


ノイズだけになってしまった、ような声を短く放つ。

ただの怒りの言葉だというのに、なぜこんな背筋が強張るのだろう。


「ここで終わらせる、誰の恨みかは知らない。だがそこまで恨みを持たれる理由は、俺には無い」


そうやってこの恨みを断ち切ることを、俺は完全に決断した。

俺に恨みを抱いているやつは、きっとどこかにいるだろう。


ましてや俺を恨むことになった理由や、俺を恨むように促したなんて全くわからない。


———そんな本当か偽物かわからない推測を考えながら、俺は刀を構えた。

本当の決着として。

これがこの時最後の、戦いになることを祈りながら相対している敵に刃を向ける。


「はぁぁぁぁっ!!!」


「らあああァァァァァァァァっっっ!!!」 


赤の逆光を避けながら、俺は手に持っている刃を振った。

俺が鉄の塊を振ると、やつも赤色の光を振る。

だがその速度は今までと比にならないほど遅い、俺が刃を振る速度は、やつがの攻撃速度を明らかに上回っていた。


「これで、終わりだァァ!!」


鋼鉄の塊を振るう、圧倒的な攻撃速度。

それは、確実に目の前の人間を殺せるほどの速度は有していた。

俺が振るった鉄の塊は、残虐にやつの体を一撃で貫いた。


「ギガァァッ!」


人間とは思えない断末魔を上げる、獣と言われても全く違和感がない。

寧ろ最初から獣と、殺し合いをしていたのではないか。

ただただ敵を殺すだけの、恨みを持って目の前のソレを殺す。

これは、生きる意味を無くした獣の末路みたいだ。


「手応え、有りだ」


これにて本当に終わった、ただの恨みをぶつけられた、よくわからない意味すらわからない戦いはこれにて終わった。

あとは、敵の短い数秒間の生命を、俺は待つだけであった。

手を出す必要はない。

俺は相手がこの世界から、消えるまで待つだけでいいのである。


「はぁはぁ、はぁ」


白から吐息が聞こえる、息はあるのに動くとは思えない。

それは今にでも途切れそうだ、まるで壊れる寸前の洗濯機みたいだ。


「はぁはぁ……うっ!!」


俺も戦闘が終了し、過呼吸と深呼吸を交互に行った。

それが仇となったのか、もしくは先程まで繰り広げた戦いの疲れが一気に回ってきたのか。

だがこれを総じても、体に大きな負担をかけているのは明らかだ。


意識が朦朧とする、まるで全身が折れかけの棒になったみたいだ。

脳から体へ意識を失わないように、指示を何度も何度も繰り返し出す。

意識を保つのことすら辛い、この場から動けない。


声も出ない上に、足も動かない。

ただこの道の上で、立つことしかできないのである。

ここでもしやつの執念がまた復活したら、俺は確実に殺されるだろう。


「早く、逃げないと、本当にここで死ぬ」


住宅街に迷宮の如く張り巡らされている石垣を、伝って道を歩く。

それでもギリギリの意識である、意識の淵から落ちないようにアスファルトの上を歩き続ける。

石垣を蜘蛛が這うかの如く、石垣に付けた手を必死に動かす。


だがそのようなことをしても、距離は立ったの数メートルしか進めない。

自分の限界を出していても、それは全く意味をなさないということが今この目の前で起こっている、残酷な現実を見て理解できた。


「やばい、まってこれは、死ぬ、助けて」


悲痛の声を誰も聞こえないような声量で口から出す、だがこれをしたところで意味を成すはずがない。


足はもう限界を迎えている、骨も砕けているのが理解できる。

痛みはない、痛覚が機能していないか。

もしくは痛みが感じることができないほど、足の崩壊が始まっているのか。


「カエデ、来てくれ、お願い……来てください」


言葉も支離滅裂になる、もう何が何だかわからない。

目もほとんど見えない、瞼が塞がって星空よりも暗い空間が目の全体をほとんど覆っている。


「お、い———」


背筋が凍る。

足も完全に停止する、酷いくらい足が停止する。

さっきの声が聞こえる、俺を殺す者の声だ。

耳は塞げない、吐き気がする。

耳に声が残留する、それは接着剤で塗られたかのように耳から全く離れてくれない。


「俺の負けだ、だからこの話くらい聞いてくれないか」


すると縮こまった、俺の肩を思いきって、その人を何人も殺してきたであろう手で触れてくる。

さらに背筋は凍る、体がガタガタとミキサーのように震える。


「あ、ああ」


声にもならない、生き物とは思えないのような声が出る。

脳は今この後ろの何かに対して、尋常もない恐怖を体全体に送っている。


「おい、変な声を出すなこのままじゃ、悔いもなしに冥土にも行けねぇ」


相手には敵対的な感情は、声からも全く感じることはできない。


「なあ、お前らのことについて少しだけ教えてくれないか? さっきは、俺も冷静さが欠けていたからな」


だがその声も吐息混じりに聞こえる、聞こえる部分だけを抜粋すると、非常に短い言葉なのだろう。

もしも吐息を入れたとするのならば、1分以上かけて話している。


「わ、かった、だから、、手を、離してくれないか?」


カタコトの声で要望を投げると、ずるりと非常にゆっくり手を離される。

そして「逃げるなよ」と、少し圧のかかった声で口づけをしてくる。

その言葉に俺は律儀に頷いた。


「じゃあ、ゆっくりでもいいから話してくれ」


俺は許可をもらうと、今後の目的について、包み隠さず話す。

軽く数分間でまとめることができた。

俺は彼女と共に、この理不尽な世界に抵抗するということ。


そのために何人かと協力しているということ、そして今日、対策局の処理員と戦ったということ。

その全てを、口から出した。

だが、俺の言っていることに激昂や怒りを口にすることはない。

ただ、長寿の樹齢を迎えた木のようにただ聞いてくれた。


「なるほどな、お前ら二人の目的もよくわかった、そういうことならあそこまで本気になるのもよくわかる……」


相変わらず、死にかけの吐息が混じって聞こえる。

言葉を出すのも辛いのに、ここまで聞いてくれるという。

なんとも、親切に聞いてくれるなと俺は“初めて”、この耳を通じて感じた。


「じゃ、俺から一つだけ提案させてもらおう……そういうことなら、郊外に行けばいい……俺の仲間が何人かいる、確かに今聞いた話ならば結構危険な目にあっていたのは理解できた、だがお前ら二人がこの世界をぶち壊したいというのなら、これぐらいしないといけない……」


俺は先ほどの話を聞いてきた、”影の中の人物“のように何も言わず聞いた。

その言葉は、憎しみなどではなくただのアドバイスだということ。


「ありがとう」


この一言しか出なかった、他にも出るはずの言葉はあっただろうに。

それでも俺はこの言葉が出ただけで、俺はすごく満足した。


すると、影の人物が唐突に声を上げる。


「グアっ」


俺はその言葉を聞いて、最悪の事態を脳内で一瞬にして構築した。

声の方向を唇を震わせながら、ゆっくり首を動かして確認した。

それを見た瞬間、俺を口を広げて絶句した。


「おい、大丈夫か!?」


飛びそうになった意識が、一瞬にして体に戻る。

影の中の人物は、地面に倒れ込みそうになった。

だが俺はそれを見逃さず、少ししか入らない力でしっかりと支えた。


「俺もここまでか、なるほどなかなかクソな人生だったな」


独白を口から漏れ出させた、俺はその言葉を聞いてもっと最悪な事態を予測した。

その事態の名を、俺は口から出した。


「おい! 死ぬな! お前は仲間のとこに帰りたくないのか!!」


怒りと必至を混ぜながら、俺は支え声をかけ続けた。

だがその願いは、全く通用するはずがないのだ。

まるで、この理不尽な世界に押し潰されたかのように。


「なあ、俺はもう死ぬ、だから最後に名前だけでも教えてくれないか?」


俺は口を開きたくなかった。

だが、別れはすぐにくるのは必然である。


俺はそのことを理解して、その要望に応えた。


「神崎 七星」


「そうか、なら俺も名前を名乗る、俺の名前は

エクトス・ユグダミラだそして、俺の仲間に会ったら、この名前を言えばいい」


俺は少し涙を流しながら、言葉を一文一句逃さずにしっかりと聞いた。


「————あとは頼んだ、俺の武器は持っていてくれ、御目たちの旅路に幸あらんことを」


完全に独壇場にされた。

完全に置いてけぼりにされ、ただ最後を見届けてあげるしかなかった。





第18話 終




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