特別編 先駆者



……ははは、今回は僕の視点ってことかな。

そう……みたいだね。

……じゃあ話そうか、僕が……したことをね。



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そこは帝国全ての医療技術を収束させた、世界屈指の医療技術も誇っている、まさに最高峰と言う言葉でしか表せることができない場所。

エステリア帝国国立病院、それがこの場所の名前。

病院の役割を持ちながら、もう一つの役割も担う…巨大な庭園でもある………。


ーー病院内部ーー


「カエデちゃん…大丈夫かな……」


そこには一人の男性がいた、名前は神崎 明隆という、この男性の説明をするならばこの病院の医師と言ったところである。

その男性は蛍光灯が当分の間隔で配置された天井を見ていた、虚ろな目で溢れんばかりの蛍光灯の光を見ている。


「…あの時はどうなるかと思ったなーー、だって運ばれてきた時は全身の骨が折れてて、生死を彷徨っていたからね…もしいあのまま助かっていなかったと考えたら…いや、こんなこと考えないようにしよう…」


すると男性は青色の革製の長椅子から立ち上がった、背伸びをして白一色でコーティングされた、廊下をあゆみ始める。


コツコツという靴の音を廊下中に響かせながら歩く、その音は反響している上に廊下には人一人どころかこの男性以外、全く見当たらないのでそれの影響で、靴が発する音は大きく聞こえる。


「さてさて…カエデちゃんの様子を確認するとしようか、昨日は少しだけ体調が悪そうだったけっど……解熱剤を飲ませたら良くなったけど…大丈夫かな……」


医師は悲しそうな…哀愁あいしゅうが漂う声で言う、一方で…声の大きさも今にでも消え失せそうな声であった。


そして医師は、現在この病院に入院している1人の少女のことを心配する、この少女は先日自宅…とは言っても屋敷のような場所が全焼してしまって、その後の後日調査で見つかった唯一と言ってもいいほどの、生存者である。


「…あ、もう部屋の前か…ちょっと声とかを整えて行こうか…」


医師は木製の扉の前に立った、木製の扉であるため他の病室とは全く雰囲気が、違うのは明らかであった。

誰もが分かる通り、この病室は特別室という

分類に分けられる。


…実際は一人しか患者が入院できない、何もない広い空間なんだけどね。

その時はそれを特別室だという上層部に、僕は少しだけ違和感を覚えたよ。


「さて…行こうか…と、その前に…服のシワを直しておかないとね」


パサパサと音を鳴らして、白衣を整える。

そして、勢いよく扉を開いた…。


「おはようカエデちゃん、昨日はよく眠れたかな?」


いつもの定型文を少女に投げかける。

だが、先ほど勢いよく扉を開け…その音にびっくりしたらしく、少しだけ少女の体が震えていた。


そのことを今この瞬間理解して、彼女に反省の言葉を投げかけないと察して、その言葉の内容を脳内で瞬時に構成した。


口を開けて言おうとした途端、少女の方が先手を打ってきた。

その言葉を聞いて、僕は安堵することになる。


「大丈夫ですよ、明隆先生…おはようございます、昨日はよく眠れましたよ…熱とかも下がってますし」


すると少女はいつもの笑顔を取り戻し、その穢れることのない表情を露わにする。

その顔には幼さに合わない、美貌を有していると言える。


少女は数秒間その笑顔を露わにすると、すぐにいつもの表情に戻り…あることを質問してきた。

その質問の内容は年相応の質問ではなかった、少女がどれほど大人びているのかこの瞬間、、更に理解できることになる。


「今日は何があるのでしょうか?最近は検査ばかりでしたが………」


「あ、ああ………今日は、検査とかはないよ…今日は外出許可が出ているから…たまには外に出てきるといいよ……」


その発言を聞いて「はい」という2文字を口から発して、再度…穢れなき笑顔を見せてくる。

その笑顔を見た時、僕は彼女に罪悪感を抱いてしまった。


「じゃあまたね、それと無理はしちゃダメだよ?カエデちゃんはまだ完全には治りきっていないからね……」


僕はついネガティブな時に出す声を、彼女に向けて放ってしまった。

それでも、彼女の感情がブレることは全くなかった。

むしろ彼女の笑顔の根源を、ヒートアップしてしまう結果になる結果が作られた。


「はい、分かりました!先生も、気おつけてくださいね!!」


彼女は僕の気持ちを察してくれたのか、大きな声で励声れいせいを逆に放ってくる。

その声に僕のネガティブな感情は、一瞬にして浄化させることになる。

結局ネガティブな感情は、彼女にとってはアリと全く変わらないと理解させられた。


───なら僕ができることは…彼女の期待に応えることだろう。


その結果が出ると僕は後ろを向いて、病室のベッドで座っている彼女を見た。

彼女は僕が後ろを向くと彼女はキョトンと首を傾げた、困惑している彼女に対して感謝の言葉を投げかけた。


「ありがとう───カエデちゃん…」


彼女は大きく目を見開くと、首を傾げるのを一瞬でやめた。

そして…彼女もこう言い返してきた。


「はい……先生…!」


また笑顔を見せつけてくる、だが…今回は全く罪悪感など感じなかった。

その逆で彼女から勇気…のようなものをもらった気がした。

それでもまだ……彼女のことが心配である。


俺はその笑顔を見ながら、彼女のいる病室のドアをゆっくりと閉めた。

その時は……少しの悲しみを覚えてしまった…。

その副産物か…僕は…少し憂鬱ゆううつな気分におちいってしまった。


「…今日も元気にやっていこうか…こうやって後ろばかり見ていちゃだめだよね……今は、僕ができることをやっていくしかないよね…」


こう自分に言い聞かせる、自己暗示に近い何かだということは理解している。

…本当は不安な気持ちでいっぱいなのに、彼女のことを守らないといけないという、使命感の方が…この不安感を凌駕りょうがしている。


だから…僕は、彼女を守るという使命が今の僕にある…。


「さて…今日も、仕事をやりますかね…」


踵を返して、真っ白な廊下を歩く。

それは…悲しさを周囲に撒きながら、歩いているようであった。


———そして…この後の悲劇を起こす…前哨ぜんしょうの様ものだったのかもしれない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「よし…今日もできる仕事は…まぁ終わったかな、午後からもあるだろうし…頑張らないとね」


医師は背伸びをして、少しだけ自身が使用している真っ白なデスクトップを確認する。

その中のデータなどを整理し終えると、真っ白で無機質な天井を仰いだ。


その状態で数秒間、待機していると、自身の携帯電話に着信を知らせる、振動が起きているのがわかった。


「…誰だろう?院長からかな?」


すぐさま携帯電話を取り出し、その着信に応答した。

その声の主は僕の事を一番知る人であり、生きる希望を与えてくれた人でもある。

そして…僕が愛している人でもあった。


「…ねぇ、明隆くん?今日は、帰ってくる遅れるかな?」


「今日は…いや、いつもより早く帰れるよ…やっと大変な仕事が終わったから…ね」


「そう…それならよかったけど、今日は夜どうする?」


「…うーん、夜ご飯は”七星“に決めさせたらいいんじゃない?いつもたいにさ…!」


声を少し張り上げて言う、それは声がいつもより小さいと感じたので、相手に悟られないようにした。


「そうだよね…あ、あと最近仕事が多くて七星にあまり会えてないでしょ?だから今日は話してあげてね」


「ああ、そうするよ…じゃあ、電話切るね、今から昼食を取るから」


「うん…じゃあ、頑張ってね…大好き」


「僕も大好きだよ」


そう言って電話を切った、最後の言葉は電話をするときに毎回言ってしまうので、ほぼ常套句じょうとうくのようなものになっている。


「じゃあ行こうかな…と、その前に…」


携帯電話の電源を落として、机の上を整理した。

ノートやらファイルやらが乱雑に置かれ、消しけしかすなどが、少々散りばめられている。


正直あまり綺麗とは言い難いものであった、一言で言うなら”汚い“これ以外に表せるものはない。


そして、椅子から立ち上がり食堂へ向かう。

廊下へ出ると患者さんと数多医の師や看護師などが、たくさん集まっている場所…エントランスに出た。


この病院は、エントランスのすぐ横に食堂がある。

かなり行きやすい仕組みになっているため、僕はよくここの食堂を利用する。

まぁこの病院は人工島の上にあるから、レストランに行くのに片道1時間以上はかかる。


「行っても良いけど…片道1時間はかなり考えようだからね…」


「そうだな、この敷地内はこの病院以外、何も無いからな…早く、レストラン程度なら建設してくれたって良いと思うがな………」


「そうだよな…え……!?」


その瞬間横から声が聞こえた、その声は全く違和感なく空気に溶け込んでいた。

その声が完全に自身に言っていると気づくのは、少し時間がかかった。


「て、アレイシア…君かよ!いきなり言わないでくれ…普通に驚いてしまうから……」


そこには明隆と同じ白衣を着ている男性の医師だった、見た目としては黒髪であり、約180センチの身長だった、肌の色は“雪のように白い”。


「ああ、それはすまなかった、それはそれとして…今から昼食か?」


「そうだけどさ…え、一緒に食べる?」


「良いのなら、ついて行くが…」


「よし!行こう!」


と言って、コツコツという靴の音を鳴らしながら廊下を歩く。

食堂に入るとすぐさま自身が食べるものを選び、座る座席を時間をかけないように選ぶ。


「はああ…なんとか間に合った…ここ、すぐ埋まるから、早く選ばないとだよねぇ〜…と、思わないか?アレイシアくん!」


机には魚、味噌汁、白米という典型的な和食と、グラタンなどの洋食が並べられていた。


言った本人明隆は「そうだな」と、いつものように肯定してくれるかと思ったが、帰ってきた返答は期待していたものとは全く反対のものであった。


「ため息をつくな…行儀が悪いぞ」


「え〜〜…少しくらい共感してくれても良いでしょ…何が嫌なんだい!」


そう言うと、彼からはこのような返答が返ってきたのである。

口調はかなり無機質な声であり…まるで機械のようだった。

だが、その解答はほぼ完璧に的を得ているかつ、論理的なものであると感じた。


「私は別にどうだって良い、だがお前の言うことにも少しだけ共感はできる、この病院は選りすぐりのプロを一斉に集めたところだからな、足りなくなるのはわかっていた話だろうが、建設費や敷地等の影響で小さくするしか他になかったのだろう」


「…………何も言えません…」


「…そうか…」


…と言う内容であった、明隆はここで完全にぐうの音も出なかったのである。

そもそも出す勇気すら全くないと、言った方がいいであろう…。

すると、今度は明隆のほうからではなく…アレイシアの方から聞いてきたのである。


「あと、お前が担当している患者はどうだ、良い関係は築けているかのか?まぁ、お前の性格なら問題なく築けていけそうな気もするが…」


「大丈夫だよ!!いつもみたいに…良い関係は築けているから…」


「それなら良かった、今後も安定した関係を築けるように努力しろ…」


すると追い打ちをかけるように、僕へ質問を投げかけてくる。


「……お前の担当している患者は搬送されてきた時は、かなりの致命傷だったらしいな」


「そうだね…なんで、こんな…まだ未来のある子供がこんなことに巻き込まれちゃうんだろうね………」


「さあな…だがこれだけは言える……」


その時、アレイシアは衝撃的な事を口走った。

その言葉を聞いた医師は、少しの絶望感に浸ることとなった。

それは…あの日を思い出させるものと全く変わらなかった。


「………この火災は完全に人為的であり、確実に誰かを殺そうとしているのは確実だろう」


「…え?」


だが、アレイシアが明隆の言葉を待つことは全くなかった。

疑問を提示することは、まず間違いだったかもしれない。


「その対象は…有宮 カエデだ」






回想 終







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