11話 白月/白露

11話 白月/白露



…私は何をしてしまったのか、あんなことを想定すらできなかった……私は…。

本当に…失敗だらけだね……もしそうならさ…このまま…ね?



ーーー-------------------



───同日 対策局・封印区ロスト・ホール


帝国の中心部心臓にして、この国随一の大きさを誇る塔。

高さは、650メートルという、最新科学の賜物の建造物である。


「本当に…私はなんて…どう謝ればいいか…」


その空間には一人の少女がいた、白色の部屋着を着用している。


少女は暗黒が広がった少し大きな部屋の中で1人、自身の愚かさを知り、絶望に浸る。

変えようもない事実だった。


───その空間にある、少しの小窓から…天に浮く月の光が一筋だけが、部屋に差し込んでるだけだった。

この小さな光は到底、救済の光と呼べるものではない。


「もう少し…私が……私が何かしておけばよかった…」


絶望に打たれた彼女はこのような言葉以外、口から出すことしできなかった。

自身が許されないことをしたと理解している。

理解しているからこそ、自身を絶望に打ち込むことしかできなかった。


「ねえ…どうしたらいいと思う?先生?」


彼女は自身の横にある一振りの刀に問いかける。

それは───彼女の愛剣であり“魔剣”の中でも刀という、かなり異質な形状をしている。


魔剣・幽閉世界、それは彼女しか扱えない剣である。


『……………む…どうしたんだマフユ、そんな悲しい顔をしているが』


その瞬間、刀から声が聞こえた。

常人から見れば刀が唐突に話しだすという、なんとも訳のわからない状態である。

だが…この世界には魔術や魔法などという、法則からかけ離れたものが存在している。


それ故、魔術師などからしたら、剣が意志を持っているというのは、人間が話すということと、同じくらいごく一般的なことなのである。


「先生…私どうしらいいんですか?」


『…あのことかね?』


「はい……カエデと神崎君を怪我させてしまって……」


少女はその刀に問いかけ続ける、刀はその少女の罪を聞き続ける。

そして少女はその刀を、手に取り始めた。


『確かにマフユは、許されないことをしたのは確かだが………それは、仕方ないとしか片付けられない……君の生殺与奪の権は、国幡が常に握っていからね』


刀は少女に対して、怒りの言葉か慈悲の言葉かわからない言葉を浴びせる。

だが、少女はその言葉に反論などはせずに、ただただ耳を貸すだけであった。


その時、暗黒に包まれた少女の部屋の扉が開けられる。

扉の間から入ってくる一筋の光に、人影が映し出される。


『構えるんだ!』


刀が言葉を発した。

言葉を発した刀を構えた途端、少女の耳に声が響く。


「相変わらず、血の気が走ってんな…イラついてんのか?」


その言葉を聞いた少女は…体を震わせ、構えた体勢から全く動くことができなくなった。

先生と呼ばれた刀も、全く言葉を発することはなかった。


「よおマフユ、お前の大好きな国幡が帰ってきたぞー」


「………ッ!」


少女は鞘から刀を引き抜き、国幡という青年に対し力強く振りかざした。

銀色の刀身が、完全に露わになった。

だが、その一振りが青年に届くことが全くなかった…そもそも、届くはなどが全くなかった。


「当たるわけねえだろ?もし当たるのなら…それは何年後になるのかね?」


「ねえ、今言ったこと……もうやめてって言ったよね?もう昔のことなのに……今更…話さなくていいでしょ…もう忘れてよ…」


「いや、俺は忘れることはないぞ?なんたって……」


先ほど放った少女の怒りの一撃は、白色の物体によって防がれてしまった。

その瞬間、少女の体は宙に浮かされる、高さは2メートル程度だろうか。


『マフユ……受け身を!』


今気づいたかのように刀が声を上げる、その声は少女の罪を聞く時の穏やかな口調ではなく。

戦闘を指揮する、指揮官そのものだった。


指示に従い、受け身の態勢をとる。

が、その行動にも…また意味はなかったのである。

国幡は空中に浮いて、受け身を取る体制に入った少女を嘲笑いながら…少女に対して自身の武器で

体を貫こうとしていた。


その時、少女の愛剣が大きく声を張り上げ、少女の身の安全を確保しようとする。


『………ッ!?ここまで予想されていたとは…』


「うるせェェな!!お前は少しぐらい黙ってろ!!!」


青年は自身の武器で、少女が持っている刀を撃ち落とそうと、行動に移した。

だが…激昂していた状態からの攻撃だったので、少女に見切られるのは目に見えていた……。


「させるわけ…!ないでしょ!!」


接近してきた何かを撃ち落とした、一太刀で一気に6本も…。


「チッ……!クソが…」


少女が攻撃できるのはこのわずかな瞬間だけである、無論…少女も青年に対して斬撃を喰らわせようと試みる。


「やあああっ!!」


空中から、勢いを付けて青年に急接近する…1秒も経たずに刀身の命中範囲以内に入った。

ここまでは良い…だが、この青年は白い何かが消滅しても、すぐに自身の武器を再生させることができる。


────少女はそのことを知らなかったが…少女が持つ刀はそのことすら見抜いている。


『……背中、特に肩甲骨の部分を狙って切るんだ……』


コンマ1秒で攻略法を思いつく、まさに歴戦の猛者しかできない所業である。

少女は指示を聞きながら、青年に対して攻撃を加えようとする。


「…………ッ!まさか……!!」


青年は攻略法を見抜かれ、焦りが表情に出てくる。

1秒でも早く自身の武器である、白色の武器を出現させようとする。

だが……少女の方が少しだけ早かった。


「はああああっ………!!!」


青年の肩甲骨に、刀による斬撃が走る。

その威力は鉄骨すら、切断してしまうと思わせるほどであった。

それほどの威力を叩き出せる威力の斬撃をモロに受けたならば…一筋縄ではいかないだろう……。


「があああああッ!!?クソがぁぁぁ!!」


痛みとそれに対する怒りを言葉にして、口から吐き出した。

少女の部屋着に、血が付いた。


『マフユ、今のうちに』


「はい…!」


声に呼応するように、刀身からから水色の煙のようなものが発生する。

少女は煙を纏った刀を、先ほど切った肩甲骨を再び切り裂いた。


「あああああッッ!!!」


『これで…魔術式起動!』


少女が切り裂くと同時に刀自身が声を出す、言葉の内容によると魔術式を起動したらしい。

すると青年の傷口から全身にかけて、氷が張っていく。


氷はみるみる広がっていき、遂には身体全身を凍り付かせる寸前までに至った。

その氷は生きていると言っても、過言ではないほどの広がりようだった。


「これ…で…倒せた?」


青年を倒せたと確信した、この場面で……ほとんどの体力を消耗したように感じた。


『ああお疲れ様、マフユ』


「やっと…はぁ…先生お疲れ様です」


互いに安堵の声をあげ合う、唐突な戦闘で体が一気に疲弊した。

力が抜け……体が地面に落ちる。

力が抜けた影響なのか、意識が遠のき、膨大な量の睡魔が波のように襲ってくる。

睡魔に負けそうになり地面へ、落下した途端ドンッと衝撃の音が鳴り、体全身が痛くなった。

その衝撃で…睡魔が跡形もなく吹き飛び、眠気から覚めた。


その眠気から覚めたのは、的確な判断だったとこの後…実感することになった。

とは言え、眠気から覚めた……と言ったが、意識は完全に戻りきってはいなかった。

目の前がぼやけて見える……何かが動いているように見える。


─────あれは、まさか。


私は自身の手前にある、先生と呼んでいる刀を取ろうとした。

だが、意識が遠のいているせいで…どこに手を当てればいいかわからず困惑した。

緊急事態で、額から汗が出て、全身の毛穴が開いた感覚がした。


「あれだけで、本当に死ぬと思ったか?まだまだ、かすり傷と変わらない…あまり、異界魔術アナザー・マジックを舐めないほうがいいぞ?」


「マフユ…いや、今はこの名前で言おうか…」


「そうだろ?対策局・処理員…マフユ・シラツキ?」




第11話 終















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る