───回想3

───回想3




私は、ベッドで寝ていた。

かなり熟睡していたように思える。

相変わらず心電図特有の、電子音が響いているだけだけど。

正直暇潰しができない。

いや、確かに明隆先生と話すときは楽しいけど、それ以外はただ白い部屋を見つめてるだけ。

そんな日常が軽く五日ぐらい経った。

そろそろ暇潰しできるものぐらい、持ってきてほしい。

さすがに暇すぎて、そろそろ倒れそうだ。

暇すぎて倒れるなんて話も珍しいがね……。


「おはようカエデちゃん、昨日はよく眠れたかな?」


「あ、おはようございます…明隆先生」


そこにいたのは私の主治医である人物が、そこには立っていた。

私を見るその視線は、優しさが溢れていた。


「それは、よかった…」


彼はいつものように、私の頭を撫でる。

私は片目だけを瞑った。そして片方の目で下を見る。


「七星…いつか会わせてやりたいな」


「?」


キョトンと首を傾げた。

彼には子供がいると聞いたが、名前を聞くのはこれが初めてだ。

私はそのことを聞くために、明隆先生の白衣の裾をクイクイと引っ張った。


「…ん?カエデちゃんどうした?」


「………七星って…先生の子供ですか?」


すると一瞬の間も無く、先生は答えてくれた。


「そうだよ、ちょうどカエデちゃんと同じくらいの、年齢だから会わせてやりたいなって思ってね」


ほうほう…私と同じくらいの年齢ということは、話が合う可能性が極めて高いのか。

少し気になる…いや話してみたいな、ちょっと先生に会えるか聞いてみよう。


「その子には…今、会うことはできますかね?」


「一応…やっぱり、気になるのかな?」


私は小さく頷いた、ここ《病院》に来てからはろくに人と話していない。

強いて言えば明隆先生としか、全くまともな会話はしてなかった気がする。

ならばいい機会と思って、聞いてみるのも悪くないと思った。


「はい…できれば、誰かと話したいなって思って………」


「…なるほどね、じゃあ少し待っててね」


そう言うと、明隆先生は着ていた白衣を整えた。

手に持っていたメモパッドに何かを書いて、私に背を向けて部屋を後にした。


「5分間だけ待っててね、七星は少しだけ恥ずかしがり屋だから」


なんだろう……少し予想ができた。

恥ずかしがり屋ということは、話が進みづらいのかな?

まだ思考が幼稚なので、そう考える他なかった。

病院に入院してから他の人と、接する機会が少なかったからである。


「七星…クン?どんな人なんだろ…私と同じとしらしいけど…無性に気になるな…」


私は窓を通して外を見つめながら、一人で呟いていた、相変わらず外には青色の空が広がっていて、空中に墨を撒き散らしたかのように雲が点々と空を留まることなく優雅に浮遊している。


そうやって、七星という人物のことを考えていると、やはり無性に気になって仕方ない。

気になることは、人間のさがだから仕方ないと思うけどね。


ー数分後ー


数分後…正確に言ったら2、3分しか経ってないけど。

この数分間やはり七星という人への、関心が薄れることは全くなかった…これは初めての感覚だった。

ほとんどの事象や出来事の対して、無関心な私を

ここまで魅了した人物はなかなかいない。


そろそろ待ち遠しくなってくると、部屋の前から靴で歩く音が聞こえてきた。

その時、心臓が締め付けられるような感覚に襲われた…体温も高くなって、心拍数も多くなった。

緊張するというよりか、嬉しさに近い感覚に襲われた。


「ごめんねカエデちゃん、少し待たせてしまったかも」


思いっきり上半身を動かして、扉の方を確認した。

扉が開き歩いてきた人物の正体が理解できた。

明隆先生がそこには立っていた。

───そして明隆先生に密着して、離れないように立っている人物が立っていた。


それは紛れもなく、私の頭の中から離れない少年だった。


「ほら七星、挨拶して」


少年の見た目は黒い髪をしており、身長は目視のみならば私よりか、ほんの少しだけ低いというだけだった。


「こんにちは……………神崎 七星です……よろしくお願いします」


すると明隆先生が少しだけ、微笑んでいたように見えた。

少年は微笑んでいる先生を見て、顔を赤らめていたように見えた、その顔は悔しがっているのかなと私は感じた。



それを見て───私はこんな日々が続いたらいいのにと思ってしまった。





───回想3 終

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