第九話 静寂都市/処刑者《エクスキューショナー》



その都市には…何もなかった。人すらいない本来の目的を失った都市。

そこには…何も残るものが無かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「今どれくらい歩いたんですかね?」


「うーーん……軽く1時間と数十分ぐらいかな?」


現在、市街地を調査している、調べたところで何も意味はなかった。

はっきり言って、ここには何もない。

今までバカ正直に市街地を調査したが…。

誰が人を消したかも、もし消したとして…調査しても消した者の正体は全く掴めなかった。

いや、そもそもマトモな情報すら入手できなかった。


「これ…意味なくないですか?だって、ここの調査をしても何も見つかりませんでしたし」


「……絶対ある。ただ私たちが気づいていないだけで、重要な情報が絶対あるはずだよ」


「そうですかね…」


それからというものの、ずっと街を歩き回った。

途中、看板を見つけたが…未知の文章で書かれていたので……何を書いているのか検討もつかなかった。


そして…街の中心部のような場所にたどり着いた。

中心部は交差点があった、周りにはハビタブル・シティと遜色ないほどの大きさをした、高層ビルが林立していた。

交差点を歩き、数多の高層ビルの間を歩き続けた。

誰もいないのに、なぜか誰も彼もが歩いているという日常を思い出す。


なにもない、路地裏、雑居ビル…。

どれもこれもなにもなかった。

ここ自体が空っぽな世界、人がいないから都市としての機能を持っていない。

もう──ここから出ようかと思った。


「七星クン……ここ変な空気がする、気持ち悪いというか……」


彼女からの声を聞いた俺は、相槌しか打つことができなかった。

多分感覚が少しおかしくなっていたと思う。

気持ち悪いか…正直なところ俺は気持ち悪いというよりも、この虚無すぎる感覚をどうにかして欲しかった。


「…自分は特に…そんな感覚はありませんが、カエデさんには何か分かるんですか?」


彼女に聞いてみると、少し頷き──気持ち悪いと言っていたことについて聞いてみた。


「信じてもらえないだろうけど…ここには絶対誰かがいる…というか今現在どこかから私たちのことを監視している」


理由を聞いた瞬間、体の重の毛穴が開いた。

得体の知れない恐怖が、脳内を駆け巡る。

汗も吹き出してきた、心拍数も上昇した。

そして恐怖をできるだけ隠して、彼女に今考えれることを聞いた。


「──今、監視している人物がどこにいるか分かりますか?」


「一応おおよその位置は特定できてる」


「──じゃあ、どこか教えてください」


「いいよ……」


「そうでしょ?さっきから私たちのことを、隠れて追いかけ回している…追跡者…いや、処刑者さん──」


…なにを言っているんだ?

誰もいない虚空に向かって、彼女が言葉を投げかけた。


彼女が言葉を発してから数秒間たっただろうか。

なにも変わらなかった、当然誰も出てくるはずがない。

そして、少し呆れた途端。


嫌な音が耳に入ってきた、それは──コンクリートが削れる音だった。

その嫌な音は少しずつ大きさを増した。

ふと…横の雑居ビルを見てみると、亀裂が入っているのが確認できた。

亀裂は最初は小さな大きさだったが、音を増すと共に亀裂の大きさも同時に大きくなる。


「これは……!?まさか!」


すぐさま異界幻像を起動し、銃を構える。

その銃とは先日、アレイシアから届いたハンドガンのことである。

ハンドガンを構え、これから相対する敵に向けていつでも鉛の銃弾を発砲できる体勢になった。

その間も亀裂の大きさは規模を増す。

そして、限界に達した瞬間───。


引き金を引いた────。


発射された凶弾は止まることなく、破壊され爆散したコンクリートの間を突き抜ける。

そして、銃弾はコンクリートの間を突き抜けて暗闇に消えていった。

彼女がその時、声を上げた。


「───来るよ」


それは、これからどれほど強大な脅威が来るにも関わらず全く焦りや恐怖は感じず、ただただ冷静としか表せない声だ。


そんなことを感じながらも、再びハンドガンを構える、深呼吸をしてブレがないように落ち着かせる。


「──────フフッ」


暗闇から一つの影が現れた、その影に俺は異常な程の恐怖を感じた。

その影は笑い声を発していた。

精神が乱れそうになる、すり減った精神を無理やり冷静な状態に戻す。


「おいおい、せっかく会いにきてやったというのによお、鉛玉を撃つ思考が理解できねえ」


あまりにも、人を軽蔑するような声が聞こえた。

でも明らかに殺意が、こもっているということは直感で理解できた。

コツコツというブーツの音を鳴らしながら、暗闇から出てきた影が正体を表した。

正体は銀髪の好青年だった、学生服ともタキシードとも取れない服を着ていた。


「はは、マジかよ…本当に二人じゃねえか……

てか、なんでこんな奴らのために俺が出ることになったんだよ」


あたりを見渡しながら、自身の服についた汚れを拭き取っていた。

目の前に敵がいるのに、随分と余裕があるのが見受けられる。

つまり───相当な手練れであるということ。


「てか…大体、少数相手に俺が駆り出される………つまり、お前らは"反逆者"なんだろ?」


固唾を飲みあいてから湧き出てくる、殺意と恐怖から精神を防御することに尽力を注いだ。

言葉を聞いた時から逃げ出したくなり、微量の涙も出ていた。


「ええそうだけど?で、あなたは誰なの?」


彼女は全く恐怖を感じていないのか、相手に質問を投げかけていた。

その精神力に俺は驚かされた。

そして、その青年は笑い混じりに語り出した。


「ああ、そうだったな……俺は対策局の処理員っていうやつだけど、お前ら知ってるか?聞いたことないとか言わせないがな」


その瞬間、脳裏にあの日の事がよぎった。

それは──カエデの家に一晩泊まった日、火災などを引き起こした奴らが言っていた、「今回はここで失礼致します、あと……対策局の処理員には気をつけてください」だっけか。


「…やっぱり、薄々勘づいてはいたけど…本当に来るって……」


彼女は目を細めながら言った。

正直その表情には殺意とか、怨念とかが浮かび上がっていた気がする。

その時…俺は彼女と付き合い始めた日のことを思い出した。

彼女を初めて怒らせた時と、同じ感情だったと予測した。


「まあ、そんなんことで──俺は今からお前ら二人を殺す…だが、有宮 カエデだっけ?お前だけは確保しないといけないらしいが──」


その言葉に俺はこの前あった、出来事が脳内の記憶の中から溢れ出る。

確か…カエデを殺すと言っていたはずだけど…。

今度は、確保ということになったのか?

沢山の考えが脳内を駆け巡った、なぜ殺さないのか、なぜ確保という路線に切り替えたのか。

その全てを無理やり理解しようとした。


「ま、とりあえずお前ら二人は、倒させてもらうぞ」


青年が開戦の狼煙を上げた、その声は少し狂気じみていたような気がした。


すると背中から白色の糸状…いや、ゼリー状?

どう表せばいいかわからない、物体のような…

“何か”が青年の背中から六本出現した。

その何かはウネウネと触手のように蠢いている。

直感で。

───何かがくると確信した。


「落ちろ」


その瞬間、六本の内の一つの白い何かは、こちら目がけて向かってくる。

それを避けようと、体を捻らせる。

だが……それは体を捻らせることを、想定してたかのように追尾する。

そして白い何かは俺の体を、一撃で貫いた。


「ガァ、ァァァ!」


「一発か…やっぱり、俺が出る幕はなかったな」


カチャッ!……音を鳴らし、手に持っていたハンドガンが落下する。

痛みが襲ってくる、痛みだけではなく熱さも同時に痛みに紛れて襲ってくる。

地面に倒れこみ立つことすら、できない状態に陥った。

そして青年は、痛みに苦しむ俺を嘲笑っていた。

その嘲笑う顔を、じっと見つめることしかできなかった。


すると、もう一本がこちらを捕捉する。

───これは…避けられないか。

内臓にも損傷がある、激痛で動くことすら困難。

もし動ける上に避けれるとしても、あの追尾性能から逃れることは不可能。

───詰み。


「さて、殺すとするか。俺の手を煩わせてくれたな……」


そしてその一本は、先程と同じ速度でこちらへ飛んでくる。

終わったと確信して、彼女のことを思い出す。

目を瞑り、この世界から消え去る準備をする。


「なっ!?」


青年が声を上げる、かなり取り乱したようだった。

何が起こったかわからなかったので、閉じた目を力強く開いた。

────そこには…彼女の後ろ姿があった。

だが…その体には、真紅の血がべっとりと付いている。

手には彼女がよく使っている剣…カラミティアが握られている。

当たり前だが傷ができている彼女は、苦しそうな声をあげている。

はあはあ……と痛みに耐えながら、過呼吸を発していた。


「七星クンに、手を出すなあああああああーーーーーー!!!!」


彼女がこれまで出したことのない声を出す、彼女の喉は裂けていたと思う。

痛くて痛くてたまらないのに、俺を助けている。

俺はただ負けて、ただ大きな傷を負って、地面にうずくまって涙を流している。

側から見たら致命傷を負っている、少女が男性を守っているだけである。

───なんとも、情けない光景シーンである。

できるなら……彼女を治療したい。

でも───俺の異界幻像では、人を治すことは到底不可能だ………。


「クっ…これならどうだ!!」


すると六本全てが、彼女に向かって降り注ぐ。

俺はすかさず銃を青年に向ける。


「はぁ!」


彼女が降り注ぐ何かを切る。

一、ニ本切り落とす。

続く三、四本を打ち落とす。

───そして、最後の五本目が彼女を貫こうとする。

既に三本目を打ち落とすとき、既に迎えていた彼女は、撃ち落とそうとするも体を貫かれたことによって、腕が思うように動いていなかった。


「これで終わりだ!早く、なしくなりやがれ!!!」


「───ッ!」


言葉が全く出なかった、手に持っていたハンドガンの照準を何かに合わせる。

やはり、痛みで手は震える。

仰向けの状態であるため、体を少し捻らせる必要があった。

そして捻らせる時も、当然強烈な痛みが走る。

そして照準が、もっとずれる。

震える手で引き金を引く。

引き金を引くときは、かなり力を入れた。


「終わりだーー!!」


青年から咆哮が発せられる。

その声を打ち消すように、ハンドガンから発砲音が響く。

銃口から一つの銃弾が高速で空に飛ぶ。

銃弾が出た瞬間とき、銃口から白色の煙が出た。

薬莢やっきょうが、カラン……と音を鳴らし地面へ落下する。


「……チッ、まだ動けるのかよ!?」


驚愕したような声をあげ、目を見開き倒れている俺を直視していた。

銃弾は青年の背中から、発生した何かを貫いた。

貫かれた何かは空を舞って、地面へ落下する直前に塵のように消えていった。

───銀髪の好青年は、完全に攻撃手段を失った。


「クソが……なら………!!これでどうだッ!!」


すると背中から再度、白色の何かが再出現した。

……だが数は先ほどよりも多く、十本以上は生成されていた。

青年は口角を上げ、嘲笑うような表情に変化した。

───絶対勝ったという顔だ。

俺はその表情を見て、少々怒りを覚えた……。

────とは言っても、抵抗しようにも満身創痍の俺と彼女は、ここで死亡することはほぼ確実だと想定した。

いや、死亡するのは俺だけだな。


「さて……お嬢さん、彼氏が死んでしまうが…抵抗しないのか?」


「抵抗するに決まってるでしょ大体、彼に手を出した時点で、私はあなたを敵だと認識しているから」


すると彼女は傷口が開いているにも関わらず、剣を構えた、その姿を見るだけでも、俺は非常に強い罪悪感を覚える。

凄いよな、自分の命よりも恋人の命を優先するって…。


「さてさて、殺すか…楽しみだな、断末魔がどんな感じなのか……」


白い何かはゆっくりと伸びてきた、青年の趣味が完全に露わになっている。

それは………死神そのものだ。


「──終わった」


ここで俺の人生は終わる。

すまなかった。



───カエデ。





第九話 終


























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