無慈悲な理不尽【後編】

第六話


少しの時間しかない、休み時間がチャイムと共に終了する。


そしていつものように、退屈な授業が始まった。


まあ退屈に思っているのは、俺だけかもしれないけど。


カチカチと、シャープペンシル特有の音を鳴らしながら、ノートに文字の羅列を書き進める。


何も考えず、ただただ頭を空っぽにして書いた。


「……ふーん…」


ふと天井を見た、天井のデザインはトラバーチン模様だった。


「おい、神崎!」


ビクッと、体が一瞬震えた。


その震えた際に発生した少しの衝撃で、ガチャンッと椅子から音が出た。


「ボーッとするな、授業中だ」


怒られたぁ……急に言われたから、心臓がどうにかなりそうだ……。


「はい……すみません」


咄嗟に返答した、クラス中がクスクスと笑いをこぼしている。


相変わらず馬鹿にされているな……理由は俺がただ悪いだけなんだけど。


「はは…」


自身から気味の悪い笑いが出てきた。


正直、気持ち悪かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから、午前の授業が一通り終了して、昼休みになった。


クラスにいる人は全員、友人と食事をしたり、外に出たり、はたまた寝ていたり、などの個性豊かな休みを過ごしていた……。


「よし…なんとか、午前の授業も切り抜けられたな」


独り言を呟いた。


安堵に浸った俺は、学校に行くときに購入した、パンを口にしていた。


ちなみに、そのパンの名前はコッペパァンという名前だ…。


いや、本当にこんな名前だったんだよ。


ちなみに、コレの横に[コッペパンッ]という名前のやつも売ってた……。


包装された服を破り、中に入ったものを取り出して、口に入れる。


「味無いなこれ…もうちょっと美味しいやつ買えばよかった」


無味だった。


もしゃもしゃ……


こんな効果音はならないが、気分的にはこんな感じだった。


「あ、これカフェオレと一緒に食べるやつだ」


程よい甘さのカフェオレを飲みながら、味のしないパァン(パン)を全て食べた。


「さて、昼休み暇だな……」


天井を向いて、いいアイデアが見つかるまで、脳の引き出しを開けていた。


よし、ならばやることは一つ……彼女に会いに行こう。


考え着いた途端、教室から飛び出していた。


多分…ここ一週間で一番、アドレナリンが出ていたと思う。


出すぎて、この時は脳が壊れていたと思う。


「……居ない…だとっ!?」


彼女がほぼ毎日いる場所に来たが、居なかった…。


先ほどまで、脳を破壊できるぐらいのアドレナリンが、一気に出なくなった。


「はああ、帰ろ……」


少し悲しみがあった、訂正しよう…少しどころではない、午後の授業のモチベーションが崩れそうだ。


トボトボと歩いていると、女子から声をかけられた。


「ねえ、そこの君!」


「誰…?」


死にそうな声で応え、虚な目をして振り向いた。


多分…相手から見たら、死体が動いているように見えていたと思う。


「君、カエデちゃんのこと探してる?」


なんで知ってるんだ?


いや普通に考えてみたら、俺とカエデが付き合っている噂は学校中に広まってるか。


「はい、そうですが」


悲しみをかき消しながら、自身に話しかけてきた人物に返答をする。


「やっぱり!ちょうどいいから来てくれないかな?」


「あ、いいですけど…」


すごく元気な声だったので、そのままある場所まで連れていかれた。


「こっちだよ〜」


言われるがままに、その子について行った、かなり足が速かったと思う、カエデほどではないが…。


あれぐらい速かったら、異常な域だ。


「ここだよ!」


すると、その女子高生が止まり、こちらに向けて声を放ってきた。


「ここ…どこだ?」


連れていかれると、そこは校内にある教室の前だった。


「さ、入って入ってー」


グイグイと背中を押されて、教室に入れられた。


「連れてきたよ、カエデちゃん♪」


その言葉で、また気分が高揚した。


「カエデ…さん?」


何も考えていなかった、教室まで歩いた記憶が全くない。


入って、すぐに教室を見渡した、雰囲気は特に言うようなことはなかった。


いくつかのグループができていた、ざっと二つ、三つぐらいだ。


その中にある一つのグループに、俺は釘付けになった。


そうだ、その中に彼女がいたのだ。


すると…自身の体が勝手に動き出した、止めようと思っても全く体の制御が効かなかった。


「おお、これがカップルってやつか…なんだかドキドキしちゃうね♪」


俺を連れてきた女子生徒が口を開いた、その言葉に耳は全く傾かなかった。


そして、彼女との距離が約三メートルに、縮んだ時に意識が急激に元に戻った。


「……あ」


その瞬間に口の中から声が出た、その時はなぜか禁忌を犯してしまった様な気分になった。


「さーて、帰るかー……」


震える声で言った、精神を落ち着かせる目的で言葉を言い放ったと思った。


そして、小さな歩幅でその場から逃げようとしたが……。


ガシッ…!!


小さくても、力強い何かに裾を掴まれた。


その正体は明らかに人の手だった、その時俺は察した。


ガタガタと体を震わせながら、周囲の目を確認した。


「あのーカエデさん?これってぇ」


彼女の名前を口ずさんだ。


すると、後ろから声が聞こえた…。


「なんで逃げようとしてるの?」


ははは…詰んだなこれ、完全にこの声は怒ってますね。


さて、どんな罰が待ち受けているのでしょうか。


「さて、こっちに来てもらっていい?」


Tシャツを引っ張られて、廊下に出た…そのまま彼女の意のままに連れて行かれた。


出る間に何人かの、女子生徒と男子生徒が注目していた、ついでにヒソヒソと声も聞こえていた。


「今どこ行っているんですか?」


「…………」


無言を貫き通していた、それから何分間も彼女は何も会話をせずにただ俺の、裾を引っ張って歩き続けた。


すると、とある一つの部屋に辿りついた。


「(名前が無いな…なにをする部屋なんだろう…というか…少し木の香りがするんだが)」


部屋の前は真っ白でコーティングされた比較的新しいドアだ。


だが、そのドアに明らかに合わない匂いがする。


「開けるよ、来て」


すると一瞬だけ彼女が裾を離したが、すぐに裾ではなく手を繋ぎ直した。


「入りまーす!」


彼女が大きな声で挨拶をした。


ギギギっ…と、明らかに新しいドアから鳴るとは想像もつかない音が鳴った。


すると、自身の眼前に和風の部屋が出てきた……内装は草庵のようだった。


「来たか…」


中は少し暗かったが、ひとつの声が聞こえた。


「マフユ、遅れてごめん」


声の根源がわかった、それは昨日知り合ったマフユという人物だった。


そして鼻をさっきから、突く木の匂いが非常に強くなり、もう悪臭としか表せなくなっていた。


「うっ…匂いが…」


「ああ、ごめんこの部屋しか開いていなかったから」


声に出したのは申し訳ないと思っているが、これほどの強烈な匂いを嗅いで、普通でいられる人を見てみたいものだ。


「さて、話に入るとしようか……カエデやっぱり、匂い消してくれないか?ここに呼んだ私もキツいんだ」


「はいはーい」


彼女が手を畳につける、するとさっきまで鼻を突いていた、木の匂いが途端に消えていった。


「ああ、これって異界幻像のやつですか?」


「察しがいいね」


彼女がいつもの小悪魔にも近い、口調で言葉を放つ。


そして俺は、異界幻像の凄さを再度実感した。


「さて、本題に入ろうか…」


一回呼吸をして、口を開き語り出す。


「君たち二人には、やってもらわないといけないことがある」


畳に正座して話を聞いた、周りの音を忘れるくらい話に集中した。


「その、やってもらわないといけないことは、二つある」


「一つ目は、君たちの情報は対策局に伝わっている可能性が高い、それに対抗する手段を入手してほしい」


対策局という言葉はよく聞いた、そしてその組織に対抗する手段を見つけるということか……。


「その対抗する手段とは?」


「このハビタブル・シティの、外れにあるビルに行ってほしいんだ」


「そして、そのビルの中に置いてある、あるモノを持ってきてくれないかな」


聞く限りでは、この街の郊外…確か廃ビル群が立ち並んでいる所だった気がする。


少し前まで、現在のハビタブル・シティの前座という扱いだと聞いたが、技術者と別の国の魔術師が共謀して、街の七割を破壊したと聞いた。


「そして、二つ目は…」


するとマフユが俺に近づいてきた。


そして、勢いよく肩を掴んだ。


「神崎君……君に強くなってほしい、そしてカエデを助けてくれ!」


その言葉は力強かった、その言葉は俺の中にある“心”を刺激した。


「分かりました……」


その言葉に圧倒されて、俺は衝動的に答えてしまった。

「わかった、ありがとう」と、マフユが言った

少々自身の答えを後悔しているが、その言葉を取り消すことはできない。


「よし!神崎君からも、確認が取れたから、私も教室に戻るとしますか!」


打って変わってマフユの気分が明るくなり、それと同時に集中が切れて一気に疲れが襲ってくる。


ものすごい眠気がした。


「はあ、はあ」


疲れからか過呼吸になる。


「大丈夫?七星クン?」


「いや…大丈夫で…す」


無理やり深呼吸をして、呼吸を整える。


「ふうぅー」


呼吸が安定した、それと共に眠気も消滅した。


「じゃあ、私たちも戻ろうか」


草庵のような部屋から出る、出る瞬間あの鼻を突くような木の匂いがした。 


「でも、七星クンが協力してくれて嬉しいよ」


「いえいえ、あと何日かで夏休みですから、協力しますよ。」


実際、今は七月なのでほとんどの学生が、夏休みに胸を高鳴らせている。


だが……俺はあまり、期待していない。


理由……簡単に言えば、彼女に絶対振り回されると想定しているからだ。


いや、想定じゃないな…確定だ。


「じゃあ、また放課後に会おうね!」


無邪気な顔と声で言った、俺はそれを見るだけで疲れきった精神が癒やされる。


その声に応えるかのように、彼女の顔を見ながら頷いた。


やっぱり、彼女の笑顔は可愛かった。



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「やっと、終わったぁぁ……」


午後の授業はかなりしんどかった、マフユの話を聞いて眠くなったのが一番の原因だと思う。


「では、皆さん!あと5日で夏休みです!安全に過ごしましょうね!」


相変わらず騒がしいが…教室の喜びの歓声がその騒がしさをかき消した。


「やったぜえ!」


「よっしゃー!」


その歓声は数十秒間、教室中に響き渡った。


「皆さん静かにしてくださーい!!」


すると、さっきまでの歓声がまるで最初からなかったかのように、静寂へと回帰した。


「では皆さん、さようなら!」


そして、学校も順調に終わった。


玄関から出て、彼女が来るまで待機した。


「相変わらず早いね…」


カエデが待機していた場所に来た、そしていつもの口調で彼女を迎える。


「自分は、あまりやることがないので…結構早いんです」


それを聞いて、彼女が少し微笑んだ。


そこから帰り道を歩いた、途中で首輪を付けた黒猫がついてきたが、それ以外に語ることは特にない。


「よし……ただいまー!1」


誰からも返事がこない…当たり前だ、だって一人暮らしだから。


「虚しいな……ま!こういうことを言っておけば、気持ちが少し楽になるからね!」


偽りの明るさで、この感情を塗りつぶした。


「ふう、今日は特に何もなかったな…落ち着くために…自販機で何か買おうかな…」


必要最低限のお金を所持して、アパートの下にある、自販機に向かう。


「今日は…お茶…いや、カフェオレ一択だな」


そして、自販機のボタンに触れようとした時…。


自身の左側から、声が響いた。


「おお、ここにいたのか…!」


「はは、やっとだよ…俺たちが頑張った甲斐があったな!」


正直無視しようとしたが、周りを見渡しても人がまたくいなかったので、これは確実に自分に言っているのだなと理解した。


それは、二人組だと理解した。


「………誰ですか?」


相手の顔を確認した。


一人はいかにも、戦闘能力だけは高そな男大男だった、それ以外外見的特徴は見られない。


二人目は少し小柄だったが、その身長に似合わないくらいの大きさをし大剣を背負っている。


「なに言ってんだ、お前が敵だと思っている、組織の人間だよ!」


……大体理解した、こいつらは完全に。


”対策局“から来た奴らだ。


「何の用だ…お前たちは何をしたくてここに来たんだ?」


「それも既にわかってんだろ?一々聞かなくても」


そのことを聞いて、一気に腹の底から殺意と怒りが漏れ出てきた。


そして唐突に強い風が吹き始めた、周りの木々などが風によってゆらゆら揺れている。


「ああ、理解しているさ…お前らは、俺とカエデを殺したいだけなんだろ?」


途端にもう一人の人物が、大きな笑い声を響かせる。


「ハハハハ!!…よくわかってんじゃねえか!お前と有宮の血族を、をこの世から無くすために俺らは今ここに居る」


もう一人の小柄の男が声を出した。


その時…頭の中で何かが切れた気がする、それは痛みなどは全くなかった。


そうか…そういうことなんだな……ならここで、こいつらを…。


この世界から───消してやる。


そのことが頭に思い浮かぶと同時に、その二人組に視線を移す。


二人組は俺の顔を覗き見るように、俺のことを見た。


「どうしたんだ?まさか…彼女を殺すって言われてキレてんのか?」


すると、両者が大笑いしだした。


「でもよコイツ自体は弱いらしいから、苦戦はしないんじゃねえか?」


「そうだよな…でも…なんかコイツ自体は弱いよな?」


大男が少し畏怖したような調子で、小柄の男に対して言っていた。


そして、両者が戦闘体制に入った。


「死ねええ!!」


小柄の男が大剣を持って、突進した瞬間…俺に振りかざしてきた。


ガンッ!


「……ッ!?」


その大剣を自身の手で受け止める、その受け止めた音が周囲に響いた。


「なんだよッ!コイツ…普通に強えじゃねえか!!」


俺は大剣を手から離したすると男はもう一度、大剣を振りかざした、だが次の一撃は先ほどよりも速かった。


大剣が一瞬、剣閃を発した。


「実力以下」


高速で飛んできた、大剣の刀身を足で蹴った。


すると大剣は一撃に耐えられなかったのか、その刀身が砕け…地面に崩れ落ちた。


「おい!おかしいだろ!聞いた情報と全く違う…どうするんだよこれ!」


大剣を破壊された小柄の男が叫びだした、大男は瞬時に俺と男の元へ走って来た。


その手には剣が握られていた、大剣と言える大きさではないが、片手で持てるような代物ではないと考えた。


「オラああ!!!」


まるで獣の咆哮と変わらないぐらいの、大声をその口から上げる。


「咆哮を上げて、相手を威圧しても…それが伝わらなかったら意味がないぞ」


三本のナイフを作り出した…。


三本のうち、一本のナイフを大男に対して投擲する。


「グガッァ!?」


投擲されたナイフが腹部に刺さった。


大男はそれでも突進してきた、だが…その行動の原動力は、仲間思いという感情から来ているモノではないとすぐにわかった。


そして、ハンドガンを作り出した。


「うるさいから消えてくれ」


大男に銃口を向ける。


ゆっくりとトリガーを引いた。


「がアッ…」


銃声と硝煙と共に一発の凶弾が大男に向けて、放たれる。


だがそれでも止まらなかった。


「拘束しろ…」


すると地面のアスファルトが小さく隆起しだした。


アスファルトが、急激に鎖の形へと変化し出した。


そして、男を拘束した。


「じゃあな」


拘束した男に向けて、凶弾を撃ち放った。


「…………」


一発の凶弾で、男の天命を完全に絶った。


そして冷静な態度で、ハンドガンをリロードした。


「チッ……!」


すると小柄の男が自身の懐から、剣を取り出した。


「うわァァァ!神崎ぃぃ!」


剣を持って一心不乱に駆け出す。


「一太刀で終わらせる…」


無感情な言葉を口から漏らした、ハンドガンを消滅させ日本刀を作り出した。


「やァァァっ!」


男は飛び上がり宙に舞った。


「はぁっ…」


その男が日本刀の命中圏内に入った。


そして斬撃を喰らわせる、沈みそうな夕日に照らされた、刀身は三日月のような剣閃を解き放った。


「ガッ……ガァァ!」


壁すら切り落とせるほどの斬撃が命中した途端、男が断末魔を発した。


刀を鞘に収めて、空を見た。


「これで終わりか…」


すると……先ほどの静寂が周囲に戻ってきた。



第六話 終























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