第三話
それは、一人の願いだった。
無垢で純粋な…だれにも汚されない、優しい願いだった。
だから叶えてやろう。
この無慈悲で理不尽な世界に反逆してやる。
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「カエデさんの願いなら……」
返答した願いを叶えようと考えた。
「あ、ありがとう…七星クン……」
彼女がそれと共に地面に崩れ落ちる、少し汗もかいていた。
「カエデさん!?どうしたんですか!」
はあはあと息が上がっている、体を壊したのかと思った。
「とりあえず休んでください…」
彼女自体は軽かったのでそこまで苦労せずに、先ほどまで寝ていたベッドまで運べた。
「無理しないでください」
それから数秒して息の上がりが止まると、いつもの口調で話した。
「心配してくれてありがとう…あと、七星クンは帰っていいよ」
「ダメですって、自分はカエデさんの体調を心配してますから」
トロンとした目でこちらを見つめる、表情は今にでも眠りにつきそうだった。
「寝てください、眠いのなら」
頭を撫でる、少し熱かった気がする。
「………おやすみなさい」
そう呟くと、赤い瞳を閉じた。
雪と思えるほどの白い肌が、体温上昇の影響で赤くなっていた。
「トイレに行くか」
椅子から立ちドアに近づく、ドアは引き戸なので自分に当たらないように開ける。
「暗いな、電気のスイッチはないか?」
探るように壁を触る、スイッチらしき感触は手に感じなかった。
そして廊下は少しの月明かりのみだったので橋が見えない、七月だというのに空気が冷たい、ちょうど冬と同じくらい冷たかった。
「寒ッ、今夏だよな…」
寒さに震えていると、生暖かい風がこちらに吹く
外の空気が入ってきたのだろうか。
「……少し暑くなってる?」
暑くなった気がした、その時から廊下も少し明るくなった。
何秒かしたら、全身で感じれるほどの暑さに様変わりした。
生暖かい風が熱風に変わろうとした。
「おかしいだろ、なんだよこの暑さは!?」
体感的に風呂と同じ40℃と想定した、白いシャツに汗が滲み出る。
「クッ!」
滲み出る汗を拭くと、一瞬赤色の動くモノが見えた。
「まさか!?」
その正体はすぐにわかった、それは燃え盛る炎だった。
その炎は生きているように、こちらに向かってくる。
「なんだよこれ、スプリンクラーか何かはないのか!?」
現代技術の産物の名を叫ぶ、天井を見てもそれらしき物はない。
「うわっ!急に勢いが激しくなった?」
明らかに炎の勢いが強くなる、それに伴って温度も上がった気がする。
そして、その炎は俺に到達しようとした時……
その炎は、取り囲むような形に変わった。
「チッ…囲まれたか、どうにか抜け出す方法は」
その時ある出来事が、脳裏によぎった。
それは唯一の解決策だと、いっても過言ではなかった。
「そうだ、こうしたら」
俺はその炎に手を向ける、そしてあるものを想像した。
「召喚!」
すると、次の瞬間に何もない空間から水が生成された。
「やっぱり、こういう使い方で合ってるんだな」
空間から溢れ出た水はいつしか、生き物のように動く炎を片っ端から消していった。
「消化完了ってことでいいのか?だけど、なんで急に火が出てきたんだ?」
原因を解明させるために、脳にある記憶を引き出した。
明確な理由は全くなかった、科学的に証明はできそうだが…
「いやいや、ここまでやるとは」
「チッ、だから氷魔術で凍結させろってた言っただろうが」
刹那、声が聞こえた。
それは廊下中に響く声であった、人数は……二人だと予想できた。
「………ッ!?」
咄嗟に警戒体制へ移行する、体が震えだした。
震えは、得体の知れない何かを見た時の感覚に近かった。
「おっ、コイツが有宮のガキか?女だと聞いていたんだがなぁ」
二人組の中でかなり軽率な態度をとる者が、カエデの苗字を口から流す。
同時に二人組の姿が認識できた。
姿を一言で表すならば、黒いローブを見に纏って
少しだが口の部分が目視できた。
「誰ですかあなた方は、もしかして火をつけたのもあなたたちの仕業ですか?」
すると歩いていた、二人組は足を止めた。
「へぇよく分かってるじゃねえか、まっこんな怪しすぎる格好したらすぐバレるだろうがな」
「ええ、私たちですよ」
すると、二人組の足元に赤色の魔法陣が展開された。
「今度は仕留めるぞ」
「次は逃げられませんよ」
直感で攻撃が来ると感じ、一瞬で距離を取る。
その回避もかなりギリギリな、瞬間で行っていた。
「なっ!?」
赤色の魔法陣から炎が出現する、その炎は先ほどとは違い竜のような形をとっていた。
「チッ、召喚!」
先ほどのように水を出す……
だがその水は炎に近づくたびに、蒸発していった。
するとローブを羽織った者が口を開いた。
「逃げられませんよと言ったはずですよ、水で消せるのなら水が蒸発する温度に、上昇させればいいじゃないですか」
「二度も同じ手は効かないぜ」
その炎の竜は大きく口を開け、まさに捕食しようとしたその瞬間。
高速で誰かが横を通過した。
そして、俺の前で止まった。
「やっ!」
声とともに炎の竜が消滅した、廊下の明かりがまた月明かりのみになる。
「えっ?」
その"誰か"は、カエデだった。
だが、その服装に似合わないものを手に持っていた。
それは映画で見るような黒塗りのハンドガンだった。
「魔術を使用して、炎にダメージを与えたのですかね」
「そうだけど、貴方達の目的は知ってる……貴方達は対策局の人でしょ?」
対策局……聞いたことのない単語だ…どこかの組織の名称か?
「察しがいいことで、そうですよ私達は対策局から来た者です、有宮のお嬢さん」
少しローブを羽織った者の、口角が上がったのが見えた。
「ここで死んでもらいますよ」
二人のローブの懐から、銀色に輝く金属的な光が見えた。
懐から出した瞬間に金属的な光の正体を理解したそれは完全に剣だった、月の光に照らされ、宝石の如く光を反射していた。
「貴女をここで抹消します……」
「あぁそうだった、この場面を見たお前にも死んでもらうぞ、一般人には見られたくないモノだからな」
もう一人が俺に向かって言葉をぶつける、それは逃げ道はないと言っているようなものだった。
「じゃあ私も少し俺に応えないとダメだよね、いいよ今ここで貴方達を倒すから」
彼女は空間に手を翳した、紫色の光が出てきたその光は剣の形を取っていた。
「魔剣、カラミティア…」
彼女が呟くと、禍々しい見た目をした剣が彼女の掌に出現した。
その剣は光すら寄せつけないのではと思うほど真っ黒だった。
「魔剣…ですか」
「へぇよくもまあそんな忌々しいモノが扱えるのか、俺からしたら理解できねぇな」
少し両者が睨み合った。
数十秒経つと、両者が剣を構える。
コンマ1秒で、両者が剣を交えた。
「はぁッ!」
カエデが振り下ろした剣から、紫色の剣閃が走る。
その剣閃を、銀色の鉄製の剣が一振りで止める。
「ぐっ、なかなかやるじゃないですか……」
ローブの中の人物が、少々苦悶の声を上げながら、口を開き微小な評価をした。
「そういう貴方も、かなり強い方じゃないの?」
一方カエデも足に力を入れながら、地面を踏んでいる。
若干、カエデの方が追い詰められている気がした。
「ではこれなら、どうですか!」
すると銀色の刀身が、青色に光る。
「うっ……!?」
彼女が声を上げた、驚きに溢れていた気がする。
「はっ!」
青色に発光した刀身が、カエデ目掛けて直進する。
「やあっ!」
その刀身を、なんと自身の腕で撃ち落とした。
「おい、お前は有宮のガキに何された?」
その非日常な光景を夢中で見ていると、もう一人のローブを羽織った人物から声をかけられた。
「なにって………恋人ですけど…………」
素直に答えてしまった、本当は答えてはいけないと知っていながらも。
「随分と気にいられてるみたいだが…ん、単純な質問をするが、お前はそもそも何者だ?」
するとローブの人物は疑問を押し付けてくる。
何者だと言われても、普通の高校生である。
実際こんなことに巻き込まれている時点で、普通というものはもうなくなったのだが。
「えっと高校生ですが…」
「じゃあ名前も教えろ」
個人情報を洗いざらい聞いてくる、そして最後に名前を教えた。
「名前は…神崎 七星です」
その瞬間ローブの人物が声を上げる、かなり驚愕しているように聞こえた。
「お前ッ!今なんて言った!?」
するお勢いよく胸ぐらを掴んでくる、その掴む勢いで服が破れそうになった。
「だから、神崎 七星って名前ですって!!」
そして言ったあと、地面に投げつけられた。
「ゲホッ…」
投げられた影響で咳をしてしまった。
「おいおい、どうすんだよ!さすがに殺すこともできねえ、でも連れていかなかったら…」
かなり焦っている様子だった、するとカエデと戦闘をしている人物に声をかけた。
「おい!一回戦いをやめろ!マズイことが起きた!」
目線をやると、カエデと戦闘をしていたローブを羽織った人物の動きが止まった。
「なんですか?そんな緊急事態が起きたような声を出して」
「いいから!来い!」
すると、カエデが口を開いた。
「ちょっと、七星クンに近寄らないで!」
彼女がハンドガンを取り出し、発砲しようとするが止めに入る。
「待って、カエデさん…ゲホッ…」
叩きつけられて治っていない咳を、堪えながら彼女を止める。
「でも!」
「いいから…」
すると不満げな顔をしながらも、彼女は銃を下ろす。
「で、話とは?」
「こいつ、神崎の…………神崎の生き残りだ」
もう一人のローブの人物も、予想通りの反応をした。
「そうですか……神崎の…」
深刻な声を出す、最初の時の威圧的な雰囲気が皆無になっていた。
「…………今回は撤退した方がいいかも知れません」
カエデと戦いを繰り広げた者が言った、そして相槌を打つように、もう一人も口を開いた。
「そうだな……撤退した方がいいな、本部には伝えるか?」
「それはやめておきましょう…何しろ、神崎 秋隆[あきたか]の、実の子の可能性がありますからね………」
神崎 秋隆……俺の父親の名前か?
そこから数分ぐらいだろうか、二人が話し合っている。
そして、話がまとまったのか立ち上がると、こう発言した。
「今回はここで失礼致します、あと……対策局の処理員には気をつけてください」
「お前ら、コイツが言ったみたいに処理員とかいう、自身の目に入ったら、死ぬまで追いかけるっていう奴らだからな」
その言葉を言い終えると、ローブの中から球体の硝子を取り出した。
「では、これで……私たちは、最低でもこの国…ロドネウス帝国の、対策局の人間だということをお忘れなく」
淡く硝子の球体が発光すると、ローブの二人組の姿は消失した。
「あのカエデさん、対策局って何ですか?」
咄嗟に質問するが、彼女はすぐに答えてくれた。
「対策局…この国にある、政府直属の戦闘集団の名前だよ…軍事力全てを自分達の手の内に入れている、それほど強い集団だってこと」
彼女の息が少し上がっていた、そして動きもかなりふらついていた。
「とりあえず寝ましょう…」
彼女を支えながら、歩き始める。
歩いていると彼女が話しかけてきた。
「ねぇ七星クンは、私と会って後悔してない?」
「いえ、後悔もなにも俺は嬉しいですけど…」
そして部屋の扉を開ける、部屋を歩き彼女をベッドに置く。
「あの、俺って帰ったらダメですかね?」
普通に考えて体調が悪い人の前で、聞いたらダメだとわかっている。
「いやだ」
当然の結果である
すると彼女がベッドから、手を出して無理やり俺を引きずった。
「うわっ!ちょっ!?」
俺がベッドに倒れ込むと、後ろから抱きついた。
「お願いだから、今日は一緒にいて…」
抵抗しようとも思ったが、無理だと気づいた。
自身が実質敗北したとも、言ってもいい台詞を口から出した。
「…………いいですよ」
第三話 終
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