第3話

 実際、大工仕事は過酷を極めました。しかし、青年はめげませんでした。父親からは、自分が結婚を認めるまでは、娘とは一切接触してはいけない、と命じられていましたが、二人はこっそり会っていました。場所は……「悪魔の巨岩」といわれる場所。そう、全能だったときに作った岩の陰でした。どんなに頑張っても動かすことができず(そう作ったのですから)、下に穴もあって崩落の危機にあるとあって、誰も寄り付かない場所になっていたのです。

 彼女は、現場で負った傷があれば丁寧に手当てをしてくれたし、体力がないときは、特別に体力のつく料理を家からこっそり持ち出して、食べさせたりもしてくれました。それはとても嬉しかったのですし、彼女のおかげで過酷な大工仕事を乗り切れていることもわかっていました。しかし、一つ気にあることがあって、彼女に率直に聞いてみました。 

「男を陰で支えるようなことはしたくない、と言ってなかったか?」

「大丈夫よ……あなたのためだもの」

 そうは言ってくれてましたが、彼女はどことなく煮え切らない表情だったことに、青年は心を痛めました。


 そんなある日、大工の間で諍いが起きました。依頼主から受け取った報酬と、大工が受け取った報酬の合計金額が合っていないというのです。これまで、大工たちの誰かが、依頼主から直接報酬を受け取って、それを親方に納め、給料が均等に大工に分けられていました。その過程で誰かが横領したのでは、という噂が広まり、大工の間で犯人捜しが始まりました。そうなると、真っ先に疑われるのは、新入りの青年でした。

 しかし、程なく彼の疑いが晴れました。「依頼主から受け取った報酬と、大工が受け取った報酬の合計金額が合っていない」と言い出した者が、実は計算を間違えていたのです。彼らは力はあっても、計算は大の苦手でした。その間違いを指摘したのは、彼女でした。

 そこで青年は彼女に提案をしました。大工仕事のお金の管理をしてはどうかと。彼女は最初、そんなことが務まるかと思ったのですが、これがまさに彼女にぴったりの仕事でした。それ以降、依頼主とのやりとりもスムーズになり、彼女は大工の間で信頼を得ました。彼女はこの仕事に誇りをもっていたのです。

 彼女はもはや自分を陰で支えるだけの存在ではなくなった。青年もそのことでとても勇気づけられ、過酷な大工仕事を見事にこなしました。

 青年と彼女の働きぶりに、さすがの父も舌を巻き、結婚を認めないわけにはいかなくなりました。

「俺はな、もともと俺の大工の中から娘にふさわしい旦那を見つけるつもりだったから、これでいい。私の計画通りだ」

 と、照れながら言うのでした。


 こうして、2人は皆から祝福を受けて、晴れて夫婦になったのです。その喜びは何にも代えがたく、青年は自分が全能でないことを嘆くこともなくなりました。そんなとき、ふとこんなことを思ったのです。

「全能でないはずの自分が、父親の態度を変えた……?」


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