第11話 キィドの戦い

サナーガ軍は国境の戦いでリョーブ軍を破り進軍したものの 華桃かとう華烈団かれつだんの妨害で大幅に進軍を遅らせ、赤い派手な鎧をまとった男はイライラをつのらせていた。


「速さこそが真骨頂の我が軍が ここまで5日もかかるとは!!何と忌々いまいましい!!速攻でキィドを落とさねば腹の虫が収まらん!!」


ご機嫌斜めの指揮官を余所よそに、羽根付き三角帽を被り銀髪で目つきの鋭い副官は 冷静に部下の報告を聞いていた。


沙阿しゃあ様 キィドの北は大河で西は断崖絶壁、南は硬い門と高い城壁ですがどうしますか?」

羅裸亜ららあよ!!南門は捨て置け!!目の前の東門を速攻で攻める!!手負いの連中など残らずたたき潰す!!」


散々さんざん進軍を遅らされ すっかり頭に血が上る沙阿しゃあ羅裸亜ららあも手が付けられずヤレヤレとあきれていたが、物見からの追加報告が届いた。


「申し上げます!!南門は老朽化が激しくもろいとの情報が…」

「え?南門がもろい…妙ね…キィドの南門は特に城壁が高く門は立派で硬いと聞くけど……」


報告を聞き 羅裸亜ららあは三角帽に付けた羽根をいじりながら深く思案したが、沙阿しゃあが苦笑しながら言った。


「フフフフ、守りの硬さに慢心まんしんして整備をおこたった結果だな」

「本当にそうなのでしょうか?」


キィド南東の森では3千のリョーブ兵がひそみ、踊り子風の衣装をまとう美女が サナーガ軍の動きを見てほくそ笑んでいた。


「ウフフフ、あの人が見破るかもって思ってたけど、あの派手な鎧の大将はよほど私達に腹を立ててたみたいね?」

華桃かとうお姉さん、サナーガは全軍を南門に移動させたと燕姫えんきさんが言ってたよ?計算通りって奴ですか?」

「その通りよせい 派手な鎧の大将は私達に振り回されて相当頭に来てるから、南門が弱いって知ればそこから攻めるって訳よ」


金髪色黒の美女(大人しくしていれば)が 仲間の一人がいない事に気づいた。


「あれ!?呉鋭ごえいがいないけど誰か知らない?」


その話を聞き ハゲの大男が憤慨ふんがいした。


「本当か!?紀礼女きれいじょ!?あの野郎!!さては土壇場で逃げやがったな!!??」

超風ちょうふう 心配無いわよ、呉鋭ごえいならキィドにいるわ」

「え?そうなんすか?ねえさん?そうか…だったら……」


超風ちょうふうは森の入り口まで歩き出し、あろう事かキィドの方角に向かって大声でさけんだ。


「疑ってすまねえ〜!!!!呉鋭ごえい!!!!!」


「ゲッ!!??何やってんの!?伏兵がバレるわよ!?紀礼女きれいじょ!!早く取り押さえなさい!!」

「ったく!!あのハゲが!!」


商業都市キィドの南門 城壁の上では左腕を三角巾で固定した美しく長い髪の美女が、その大声を耳にし怪訝けでんな顔をしていた。


「今の声は…あれも華桃かとうさんの作戦?」


目が見えているのか疑問なほど長い前髪の男が、あきれ顔で答えた。


「いやいや〜傾国廉けいこくれんの姫さん、ウチの馬鹿がちょっとですね〜気にせんで下さい」

「貴方は?」

華桃姐かとうあねさんの命令で来ましたよ〜俺ちゃん呉鋭ごえい、弓が得意なんすよね〜」

「そ…そうなの……ですか…グッ…」

「ありゃりゃ〜姫さん大丈夫〜?」


手負いで城壁に立つ傾国廉けいこくれんを心配し、無駄に髭の立派な将軍がオロオロしながら気遣った。


「ひ…姫!?や…やはりお加減が…少々休まれては?この陸汎りくはんいくさの指揮をります……」

「へ…平気よ…敵が来るわ…戦いの準備を……」

「あの戦人いくさびとの小娘め!!失敗したらただでは済まさんぞ!!」


サナーガ軍は キィドの南門付近に全部隊を配置し、攻城兵器を先鋒にゆっくりと部隊が動き出していた。


沙阿しゃあ様 攻城部隊が動き出しました」

「あの門の状態では 取り付きさえすれば簡単に門は破壊出来るな?」

「確かに……」


沙阿しゃあは 副官の羅裸亜ららあ怪訝けげんな顔をしているのが気になった。


「何だ?羅裸亜ららあよ?何を迷っている?」

「いえ 何者かに誘導された感が…」

「気のせいだろう?勝利への誘導だ」


戦いが始まりキィド南東の森では、華桃かとうが全身黒ずくめの衣装で猫耳フードをかぶる女の子より戦況報告を受けていた。


「攻城兵器…第二波…次来たら…門破壊……」

燕姫えんき オタウ方面の動きはどう?」

「軍…来てる…もうすぐ……」


華桃かとうは ニヤリと笑うと剣を抜いた。


「じきに策は成る!!皆!!戦いの準備よ!!」

「遂にアタイらの出番ね!!」

「腕が鳴るぜ!!!!」


キィドの南門では 城外の攻城兵器を寄せ付けぬ様に必死の防戦が続いていた。第一波をなんとか退しりぞけたが 恐らく次の攻撃で間違いなく門は破壊され、後方に控える沙阿しゃあの騎馬隊が城内に殺到するであろう……


「放て!!兵器を操る者をかけなさい!!」

「姫!!ダメです!!狙いが定まりません!!」

「くっ!!ならば門を押さえなさい!敵を城に入れちゃダメよ!!」

「姫さん今日の俺ちゃん絶好調なのよ、任せてくれない?」

「貴方は…確か…呉鋭ごえい!?」


華桃かとうの命令でキィドにいた呉鋭ごえいは、攻城兵器を操る者を次々と得意の弓で射抜いぬき敵の動きを止めた。


「どうした!?何故なぜ 兵器が止まっている??」

「それが…兵器を操る者が次々と射倒しゃとうされ……」

「ならばその者らを盾で守れ!!早く動かすのだ!!」


キィド守備隊の意外な粘りに沙阿しゃあは少し焦りはしたが、城門がじき破壊されるのを見て出撃の準備を始めるも伝令が駆け込んできた。


「申し上げます!!南西から敵が現れました!!」

「南西だと!?オタウからか!?数は!?」

「およそ3千ほどかと…」

羅裸亜ららあに命じろ!!5千を率いて迎え撃てと!!私はこのまま城を攻める!!」


キィドの城壁で敵の動きを見た呉鋭ごえいは、傾国廉けいこくれん具申ぐしんした。


「姫さん、ウチのあねさんからの伝言ですよ、敵がオタウ兵の迎撃に兵を割いたら兵を率いて攻めろってさ〜ありゃ半分近くは行ってますよね?」

華桃かとうさんの伝言?私が?そう言ったのですか?」

「ええ、俺ちゃんにはそう言いましたよ〜コレ結構重要だって言ってました〜」


その具申ぐしんを聞き、陸汎りくはんは無駄に立派な髭を逆立て憤慨ふんがいした。


「ふざけるな!!姫は手負いのお体だ!!城外で戦うなんてもっての他!!」

陸汎りくはんここは勝負所、大将が手負いだなんて呑気のんきな事は言ってられません」

「え?姫!?」


傾国廉けいこくれんは城兵2千を南門付近に集結させ出撃準備をしたが、付近には心配そうに見つめる民も多数いた。


「姫さん?顔色悪いんじゃない?」

「へ…平気…です…グッ……」

「おっと危ないね〜馬から落ちたら洒落しゃれになりませんよ〜って事で…」


呉鋭ごえい傾国廉けいこくれんを支えつつ、わざとらしく大声で民に向かってさけんだ。


「おい見ろよ!!リョーブの姫さんは、こんな大怪我してるのに俺達を守る為に戦ってくれるんだってよ!!!!」

「え?」


その声を聞き民は口々に噂した。


「聞いたか?リョーブの姫様は立ってるのもやっとらしいぜ?」

「あんなお体なのに私達の為に戦うの?」

「何て慈悲深く勇気のあるお方だ…」

「皆!!姫様の為にせめて応援しようぜ!!」

「おう!!姫様!!頑張ってくだせー!!!!」

「負けないで!!!!」

「俺達のアイドルだ!!!!」

「いえ〜い!!!!」


民は歓喜して傾国廉けいこくれんを応援した。


「あ…アイドルって??」

「まあ 一部変な事言う奴もいるけど結果オーライと言う事で」

「これも華桃かとうさんの差し金?」

「俺ちゃん、言われた事をしただけなので〜」


門が破壊されるのを待ち、突撃準備に入る沙阿しゃあは城内に異様な雰囲気を感じた。


「何だ?あの歓声は?…」

沙阿しゃあ様!!門が開き敵が突撃して来ます!!」

「腹をくくったか!?引導を渡してやる!!」


キィドの南門から出てくる傾国廉けいこくれんの軍に突撃する沙阿しゃあだが、それとほぼ同時に後方でも騒ぎが起きた。


「何事だ!?」

「大変です!!我が軍の背後から敵が!!」

「敵だと!?挟み撃ちか??羅裸亜ららあを呼び戻せ!!」

「無理です!!羅裸亜ららあ様はオタウの軍と交戦中です!!」

「フッ…敵もやる……」


攻城戦に集中していた沙阿しゃあの軍は 背後を襲われ大混乱を起こしていた。


「おりゃ〜!!アタイの道をはばむんじゃ無い!!」

「ひ〜っ!!か…片手であんなデカい斧を??化け物だ!!」

「か弱い乙女に化け物って言うな!!」

「ガハハハハ〜!!暴れるぜ〜!!!!」

「か…か…怪物だ!!デカすぎる!!」

「テメーら!!こんな男前に怪物だと!!??」

「騒がしい…静かに…戦え……」


沙阿しゃあは味方が大混乱を起こしつつも 思いの他粘り戦場せんじょうに留まっていた。


沙阿しゃあ様!!危険です!!早く撤退を!!」

「馬鹿な!?私が退けば羅裸亜ららあが孤立する!!断じて退けん!!踏み留まれ!!勝利の栄光を諦めるな!!」

「は…ハッ!!」


サナーガ軍に痛撃を与えつつも 頑強がんきょうに粘る敵を見て華桃かとうは少し感心していた。


「いや〜粘るわね?あの派手な鎧の大将 ちょっと見直したわ」

華桃かとうお姉さん…敵をめてどうするんですか……」

せい 敵でも味方でもたたえるべき人はいるって事を忘れちゃダメよ」

「はあ…あの派手な鎧の人がですか?」


そうこうしているうちに 南西から敵の部隊が合流した。


「どうやらオタウの軍と交戦してた部隊ね?さてと 次の手を打ちますか」

「え?お姉さん まだ何かするの?」

「まあね 戦いの二手三手行くのが兵法って奴よ」

「へーほー?」


キィド城外の戦いはリョーブ軍の圧勝で終わったが、華桃かとうは敵の撤退経路に様々な罠を張り巡らし徹底的に追い討ちをかけ、完全にリョーブ国内から敵を追い払った。


「くっ!?この私が大敗するとは…何と無様な……」

「申し訳ありません…敵の作戦を看破かんぱ出来なかった私の責任です……」

「いや…羅裸亜ららあのせいでは無いさ、敵が我々の上だったのだ…作戦を立案したのは一体誰だ?」

「それは、恐らく……」


こうしてキィドの戦いはリョーブ軍の圧勝で幕を降ろしたが、この敗戦を聞きサナーガの王 沙馬駄しゃばだは大いに激怒し 本腰を入れてリョーブ侵攻を考え始めるのは時間の問題となった……

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