第9話 お国の事情

国境でのサナーガとの戦いに敗れ、リョーブの姫 傾国廉けいこくれんは重傷を負った。華桃かとう華烈団かれつだん戦場せんじょう傾国廉けいこくれんを救い出したものの、開戦前に侮辱された言葉が尾を引き去就に揺れていた。


「姫様にお会いしたいのですが…」

「誰にも会わぬ 立ち去れ!!」


お見舞いと様子見に、踊り子風の衣装をまとう美女の華桃かとうせいを連れ傾国廉けいこくれんに会おうとしたが天幕の前で門前払いをされた。


「あの…ご挨拶だけでも……」

「ダメだ!!」


槍を突き付け拒む門番に、おかっぱ頭を頭頂部でしばり革鎧をまとせいが再度懇願したが がんとして拒まれ、華桃かとうめ息をき諦めようとした。


「はあ……せい もういいわよ、やっぱり姫様は私達を嫌ってるのよ 戻って撤収準備をしましょう?」

「でも…お姉さん……わたし達だって必死に戦ったのに…こんなの酷いよ……」

「仕方ないのよ 世の中には相容あいいれぬ者同士って言うのもあるの」


華桃かとうは泣きそうな顔のせいの頭を優しく撫で去ろうとしたが、突然天幕が開き 美しい長い髪をした美女が出て来た。


「ま…待って……」

「え?姫様!?」

「姫!!安静にして下さい!!」


傾国廉けいこくれんは天幕から出て来て 軍医や門番が止めるのを制止して、フラフラとおぼつかない足取りで二人に近づいて来た。


「ちょっ!?姫様?そんな青い顔で??」

「わ…私……」


倒れそうになったところを間一髪 せいが支えた…しかし 細身とはいえ成人女性を支えるのは せいの体格では無理があり、華桃かとうが周囲も思わず仰天ぎょうてんする所謂いわゆる お姫様抱っこでかかえた。


「あ…あの…」

「フフフ、傭兵如ようへいごときにかかえられ不名誉でしょうが 寝所まで運んで差し上げますよ姫様」

「お…お願いします…」


そのイケメン?すぎる光景に周囲は顔を赤くし、呆気あっけに取られた。


傭兵風情ようへいふぜいが大変無礼をいたしました」


傾国廉けいこくれんを寝所まで運び 華桃かとうは改めて拝礼をしたが、抱っこされたのが余程恥ずかしかったのか バツの悪そう顔をしていた。


「いえ…こちらこそ失礼を…その…大言壮語を吐きながら、この情けない有様…合わせる顔が無く失礼を……命を救われた礼も言わず門前払いなど…」

「どうかお気になさらず。去る前にせめてご挨拶だけでもと、を連れ参りました次第です」

「ちょっ!?お姉さん?今なんて??」

「え?と…どうかしたの?せい?」

「嘘!!って言ったもん!!酷い!!」

「言う訳ないでしょう?聞き間違いよ?」

「言った!!絶対言った!!お姉さんの嘘つき!!」

「ウフフフ、私にも聞こえましたよと、こんなに可愛らしい女の子を酷いお姉さんですね?」


せいは女の子と言われ 思わず身を乗り出し 傾国廉けいこくれんの前に出た。


「お姫様はわたしを女と!?」

「ええ 可愛らしい女の子ね」

「聞きましたか!?お姉さん!?」

「良かったわね……でもこれ以上騒がしくするのも迷惑だし 私達はこれで…」

「待って!!」


傾国廉けいこくれんは 人払いをしてから寝所を降り、フラフラと華桃かとうに歩み寄り膝をついた。


「あの…姫様?」

「改めて命を救っていただき感謝いたします…先だっての無礼をどうかお許し下さい……」

「そ…それは…もう結構ですよ どうか頭をお上げ…」

「無礼を承知でどうか我が国の現状と、頼みを聞いて下さい……」

「はあ……」


華桃かとうせいは顔を見合わせ、傾国廉けいこくれんのただならぬ様子に驚き 話を聞く事にした……そして…


「私は姫様の為に戦う事に決めたわ!!」


陣営に戻り 華桃かとうは団員達に決意を告げたが、誰もが撤収だと思っていただけに騒然となった。


「本気ですか!?アタイは納得で出来ません!!」


金髪色黒の美女(大人しくしていれば)の紀礼女きれいじょは決定に納得出来ず憤慨ふんがいした。


「傭兵を毛嫌いするのには理由があったの、私達の生き方の問題でもあるのよ」

「生き方!?どう言う事ですか!?」

「たとえば紀礼女きれいじょは今日 私と一緒に戦って友情を感じたとするわよね?」

「それは…たとえじゃ無くても毎日感じてますけど……」

「でも次の日 私が敵側の傭兵として現れたらどうする?平気で殺し合える?」

「出来る訳がありませんよ…でも 仕事だし……」

「そう 私達は仕事と割り切れるけど、国の為に命を賭けてる人達にとってはどうかしら?今日の友を明日の敵として割り切れるものかしら?」

「割り切れない…と思う……」

「そうよ 国に忠誠を尽くす彼らには 特に王女である姫様にとっては、裏切り者に近い存在なのよ 私達傭兵のしている事は……」

「でも…だからと言って…今更…生き方は……」

「それを承知で依頼されたわ、助けて欲しいと……皆に強制はしないし他の団に行きたいのなら紹介状を書くわ、戻りたくなったらこころよく受け入れる。残ってくれるならリョーブの事情を話す」

「そんな…華桃姐かとうねえさん……」


華桃かとうの決意に、ハゲで大男の超風ちょうふうは大声で言った。


「俺様は戦えるなら何処でもいいぜ!!あねさんと一緒に戦う!!オメー達もそうだろう!!??」


全身黒ずくめの衣装で猫耳フードをかぶ燕姫えんきは、寡黙に小さくうなずき、目が見えてるのか疑問なほど前髪の長い 呉鋭ごえいうなずいた。


「アッシもあねさんの為に 裏方仕事を頑張りまさあ」


裏方の関単数かんたんすうまで残って戦うと言い出したので、紀礼女きれいじょは頭をボリボリきながら言った。


「わ…わかりましたよ…アタイだけ抜ける訳にはいかないですからね、どのみち華桃姐かとうねえさんに付いて行くと決めてたし……」


「皆…ありがとう……早速リョーブの事情を話すけど、くれぐれも他言無用でお願いするわ…」


華桃かとうは真剣な面持ちで語り始めた。


「まず…リョーブの王 傾国進けいこくしん様はかなりの重病よ……医者の見立てでは長くはないらしいわ…」

「え!?リョーブの王が!?それは本当なのですか!!??」

「お前…声…でかい……」

「うぐ…むむ……」


燕姫えんき紀礼女きれいじょの口を押さえた。


「一部の者しか知らない事なのよ 知られると色々と不味まずい事になるの、王家の求心力を失いかねないし サナーガの問題もあるしね…」

「王様が死んだらサナーガは ここぞとばかりに攻めて来ますね?」

「だから伏せてるのよ…後継者問題が微妙だし……」

「ふ~ん それって何で不味まずいの?俺ちゃん思うに、生きてるうちに太子なり姫さんなりに跡目を継がせりゃいいじゃんよ~」

「太子はまだ4歳なのよ 国政なんて無理だし幼すぎてサナーガには対抗出来ない 成人してる姫様が継ぐのが良いんだけど、正妻の子じゃないから周りが色々うるさいって事」

「ありゃりゃ……」

「おい 紀礼女きれいじょ?ガキだと王様は無理なのかよ?」


超風ちょうふうの問いに紀礼女きれいじょは答えた。


「考えてもみなさいよ せいが王様になるのと一緒なんだよ?華桃姐かとうねえさんが継ぐのがマシって事」

「なるほど そりゃ確かにせいじゃ無理だな」

「なっ!?それって、どう言うたとえですか!?」

「アハハハ~せいは まだまだお子ちゃまって事~」

「わたしだって そのうち大人になるもん!!」

「そのうちね~…ごふっ!!」


華桃かとう紀礼女いれいじょの脇腹に肘鉄を入れた。


「オホン!!とにかく…大臣達は姫様の国政関与に疑問を持ち始めているのよ、王の事がバレるのは時間の問題って訳」

「痛たたた…そ…それで…アタイらは何を……」

「要するに姫様が大臣達に認められ 王に相応ふさわしいくらいの実績を挙げられる様に、手助けをするって事よ いくさでね」

いくさか!?望むところだ!!暴れてやるぜ!!!!」


大声を上げる超風ちょうふうの首筋に、燕姫えんきは短剣を突き付けた。


「声…でかい…あるじ…話…聞け……」

「うぐっ…物騒な物を突き付けんなよ……」

「つまり 大臣達を黙らせて姫様の即位を認めさせるのには 戦で勝つのが手っ取り早いって事よ、その為の根回しは随分必要だけどね、フフフフ」


団員達は 華桃かとうが一瞬悪そうな顔をした様な気がした。


「あの…お姉さん 何を企んでるんですか?」

「あら?せいってば 何の事かしら?利用出来る者は、たとえ誰でも利用するのが策士ってものよ、オホホホホ~」

「利用…策士……」


せいは知っていた…姉がこの顔をしている時は、何か途方もない事を考えている時だと言う事を……凄く嫌な予感がした…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る