第6話 天下の女傑

リョーブとサナーガとの間で起きた国境での戦いは リョーブの指揮官 歩軍ほぐんが全軍に砦の防衛を命じたが、勝手に砦を出た好民氏こうみんしの援護をする為 全軍に攻撃の命令が下された。


「また…みんなとはぐれた……」


おかっぱ頭を頭頂部でしばり、革鎧に半ズボンの男の子に見えて実は女の子のせいいくさの最中 仲間達とはぐれ戦場せんじょう彷徨さまよっていた。


「大体 好民氏こうみんしって人が悪いんだよ…」


「それはすまないわね、


背後で声がして振り返ると、左肩を露出した服装に派手な髪飾りに両腕に金の腕輪をした美女が立っていた。


「え?こ…好民氏こうみんしさん!?」

「迷惑かけたおびにコレをあげるわ」


好民氏こうみんしは、せいに向かって何かを投げた。


「へ?…これって!?く…首!?ひ〜っ!!??」


その首はせいを凄まじい形相ぎょうそうで見つめている様に思え、思わず地に落とし腰を抜かした。


「アハハハ!は まだ人をあやめていないのね?」


せい!?悲鳴が!!平気!?」


悲鳴を聞きつけ、踊り子風の衣装をまとう美女が駆け付けた。


「か…華桃かとうお姉さん……」


華桃かとうせいの前に転がる首を見て驚いた。


「その首…まさか…せいが!?」

「ウフフフ、さんはとても勇猛に戦ったわよ、それはサナーガ軍の大将 惨業何ざんごうかの首 いくさの一番手柄は貴女のさんね」

「貴女は…好民氏こうみんし殿…本当なの?せい?」


せいは首を横にブンブン振った。


「悪人は成敗されたし私はこの戦場せんじょうを去るわね」

「え!?待って下さい!?どう言う意味ですか!?」


二人に背を向け その場を立ち去ろうとする好民氏こうみんし華桃かとうは呼び止めた。


「その男…惨業何ざんごうかは悪どい事をして成り上がった男なのよ、成敗してくれって民から涙ながらの依頼が来てね」

「成敗?それだけの為に戦場せんじょうに来たの?手柄まで捨てるなんて正気じゃないわ……」

「それが侠客きょうかくと言うものよ、幸いさんが腰を抜かすほど勇猛に戦ってくれてね、ウフフフ」

「え?本当にがこの首を??」

「失礼するわね、また何処どこかで会えるかもね?」


好民氏こうみんしせいの頭を撫でるとその場を去った。


「で?本当にせいがこの首を?」

「あの人…言いました……」

「え??本当にこの首を!?」

「今度はって言われました!!女なのに!!」

「あ…そっちね……」

「お姉さんも言いましたよね?」

「何の事かな?聞き間違いよ…可愛いじゃない……」

「…………」

「早く戻りましょう?皆 心配して待ってるわよ?」

「お姉さん……」

「わかったわよ、悪かったわよ」

「じゃなくて…腰が抜けて立てません……」

「やれやれ……」


華桃かとうは砦に戻り敵の大将 惨業何ざんごうかの首を指揮官の歩軍ほぐんに渡し、好民氏こうみんしった事をげた。


「やはり…あの方が……」

歩軍ほぐん殿?彼女は何者ですか?ただの侠客きょうかくとは思えないのですが…」

「彼女は天下の女傑と呼ばれた侠客きょうかく 我が王も一目置く存在なのだ」


天下の女傑、その噂は華桃かとうも聞いていた。若干19歳で侠客きょうかくとして名声を得 常に悪人と戦い続ける裏社会の英雄……


(あの人が…天下の女傑……)


大将を失ったサナーガ軍は速やかに撤退した。敵将の首を届けた事により 華桃かとうは作戦を提案する権利を与えられ敵の追撃を強く提案したものの、援軍が到着していない事を理由に却下され リョーブ軍も援軍を待たずして全軍キィドへ撤退した。


「って事で お姉さんの作戦は「そんなの認め〜ん!」って言われてさ、お姉さん凄く怒ってたんだよ」

「ふ〜ん」


華烈団かれつだんは リョーブとサナーガの国境地帯が不安定なので、次のいくさの為 しばらくキィドに滞在する事にしていた。せいは束の間の休息を友達になった美少女ヴァルと共に楽しんでいたが、ここ数日で二人は友達と言うより姉妹と呼べる様な関係になっていた。


「大体あの好民氏こうみんしって人はさ、やる事が無茶苦茶だよね?首を放り投げられた時は腰を抜かしたよ、アハハハ〜」

「ふ〜ん」


せいは ヴァルにいくさの話を聞かせたが、つまらなそうに生返事ばかりをしていた。いくらなんでも9歳の女の子にいくさの話は無いのかも知れない……


「ヴァル?この話つまんない?」

「そうじゃ無いけど 旅のお話が聞きたいな」

「旅か?そうね…じゃあ 帝都に行った時の話をするよ」

「え!?お姉ちゃん 帝都にも行ったの!?」


ヴァルは帝都と聞き目を輝かせた…と言ってもせいだって帝都センタリオには、ほんの数日滞在しただけなのだけど……


「え?あ…ま…まあね…えっと…10日くらい…だったかな?」

「いいな〜ヴァルも行きたいな〜」

「行けるよ?行こうよ 一緒に」

「うわ〜い!!約束だよ!!」

「でもキィドも多いけど 帝都も人が多かったんだよな…人に酔っちゃう……」

「じゃあ お姉ちゃん!!今から町に行って人に酔わない練習をしましょう!?」

「れ…練習??今から??…オエ〜……」

「ウフフフフ」


この後 キィドが災厄さいやくに見舞われヴァルも過酷で数奇な運命を辿たどるが、それはまだ先の話だった……

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