第5話 侠客

ナンケー地方北西部のリョーブは南東部のサナーガの侵攻を度々たびたび受け、とりわけ商業都市キィドの東側国境地帯は戦渦せんかさらされていた。今回もサナーガの侵攻を食い止める為 迎撃の軍を派遣し、華桃かとう華烈団かれつだんも そのいくさに参戦していた。


「この砦にて敵の進軍を食い止める!!じきにルーフェイからの援軍も来る手筈てはずだ!勝負はその時!!」


砦を守る主将の歩軍ほぐんが全軍に防衛指示を通達した。ここは国境地帯の要衝で背後には商業都市キィドが控えているのである。


「はなっから援軍待ちなんて何考えてるんだか…敵はまだ着陣ちゃくじんしてもいないのに呑気のんきな人達ね…私なら奇襲して一網打尽にしてやるわ……」


戦う前から悠長に構える主将の方針に、イライラを募らせているのは踊り子風の衣装をまとう美女 華桃かとうで、このいくさに参戦した傭兵団である華烈団かれつだんの団長でもある。


華桃かとうお姉さん?奇襲した方が良いの?」


機嫌の悪い姉に問いかけたのは、おかっぱ頭を頭頂部でしばり革鎧に半ズボンのパッと見は男の子だが、正真正銘?の女の子であるせいで二人は姉妹なのか?と疑いの目を向けられるほど対照的である。


「そうよせい 覚えておきなさい、敵が来る前に地の利を使って攻めた方が後々のちのち有利になるのよ」

「へ~、そう言うものなんですか?」


「同感ね……」


不意に二人に話しかける人物がいた。左肩を露出した服装に派手な髪飾りに金の腕輪をした実に美しい女性だった。


「貴女は?」

「これは失礼したわね?踊り子のお姉さん、私は好民氏こうみんし しがない侠客きょうかくよ」

「私はこんな格好してますけど傭兵で華烈団かれつだん華桃かとう、この子はせいです」

「ウフフフ、重ね重ね失礼したわね」

華桃かとうお姉さん きょうかく…って?」

「裏社会で生きる人達よ 人殺しに人助け、生きる為ならなんでもするの」

「人殺しに人助け?侠客きょうかくのお姉さんは極端ですね?」

「アハハハ~!!そうね 私達の生き方は極端かも知れない、でも一応仕事には誇りを持っているし奪う命には敬意を払い 私は悪人しか殺さない」


せいの問いに好民氏こうみんしは大笑いして答えていた。


「悪人しか殺さないって事は、サナーガの人達って皆 悪人なんですか?」

「ウフフフ、 人の命を奪う者は どんな理由を付けても悪人なのよ、何故なぜ殺さなきゃならないのか 殺す意味と殺される意味を常に自分で考えなさい、それが奪う命に敬意を払うって事よ」


そう言い残すと 好民氏こうみんしは二人の前を去ったが、せいは不思議な気を放つ彼女に見惚みとれた…


「殺す意味と殺される意味か…なかなか深い言葉ね?まあ せいには難しいかな?…せい?どうしたの?ぼーっとして?」

「あっ!?あのお姉さんに言われた!!」

「何を……って!?言葉の意味がわかるの!?」

って!!二回も言われた!!わたし女なのに!!」

「何だ…そっちか……」


数日後 サナーガ軍8千が目視出来るほどの山に布陣し砦は連日のように激しい猛攻が加えられたが、対するリョーブ軍は4千…倍以上の戦力差に防戦一方になり、ひたすら援軍を待つ状況が続いていた。


「こう言う時 光るのは俺ちゃんの弓だよね?紀礼女きれいじょちゃん?」


目が見えているのか疑問なほど前髪の長い呉鋭ごえいは 弓を構えながら、金髪色黒の美女(大人しくしていれば)の紀礼女きれいじょを前にして格好をつけていた。


「そうね…呉鋭ごえい……アンタ弓だけは得意だものね…アタイは苦手…」

「くそっ!!俺様も外に出て暴れてーぜ!!!!」


ハゲで大男の超風ちょうふうは退屈そうで今にも飛び出しそうな勢いだった。


「全く…開戦前に奇襲を加えていれば、こんな面倒な事には……」

華桃かとうお姉さん あれ見てよ!?」


敵の着陣前に手を打たなかった事に腹を立て、ブツブツとつぶや華桃かとうそでを不意にせいが引っ張り砦の門を指挿ゆびさした。


「どうしたの?せい?」

「砦の門が開くよ?」

「え?…あ…あの人って……」


防戦一方の戦況で突如とつじょ砦の門が開き敵に対する一団がいた。


「野郎共!!かかれ!!雑魚ざこを蹴散らせ!!!!」


先頭に立つ女性がさけぶと 荒くれ者と言う感じの男達が歓声を上げながら、敵に襲い掛かり自らは敵陣めがけて単騎で突進し始めた。


「誰だ!?勝手に外に出て戦う粗忽者そこつものは!?」

歩軍ほぐん様!!好民氏こうみんしとその手下達です!!」

「何だと!?……くっ…仕方ない…援護しろ!!」


全軍に砦の主将である歩軍ほぐんからの命令が伝えられた。

好民氏こうみんしに続け!援護せよ!!」と……


「やっぱり…あの人は好民氏こうみんし…こんな劣勢で何を考えてるの!?」

華桃姐かとうねえさん、どうしますか!?大将の命令ですよ!?」

「仕方ないわね…紀礼女きれいじょ、皆を集めて頂戴!!」

「わかりました!!やるよ!!超風ちょうふう!!」

「よっしゃ~!!暴れるぜ!!俺様の出番だ!!!!」


気合を入れる二人を余所よそ呉鋭ごえいはしょげていた。


「あ~あ…俺ちゃん 乱戦苦手なんだよね~」

呉鋭ごえい!!テメーは後ろで、すっこんでろ!!!!」

「そうね…俺ちゃん そうさせて貰うわ」


華桃かとうは砦の大将が気を遣うほどの侠客 好民氏こうみんしの存在がどうしても気になって仕方がなかった……

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