第4話 仕事

ナンケー地方は四つの地域に分かれていたが、北西部を治めるリョーブは北東部を治めるサナーガの侵攻に度々たびたび頭を悩ませていた。華桃かとうが率いる傭兵集団 華烈団かれつだんはリョーブが治める商業都市キィドで侵攻するサナーガ軍を迎撃する仕事を請け負った。


「あう…頭痛て~……」


身長2メートルを越えるハゲで大男の超風ちょうふうは、頭をかかえ小さくなりながら歩いていた。


超風ちょうふう!!アンタ今日から仕事だってのに調子に乗って一晩中飲むからよ!!馬鹿じゃないの!?」


金髪色黒の美女(大人しくしていれば)の紀礼女きれいじょあきれ顔で罵倒ばとうした。


「そう言うなよ…紀礼女きれいじょ…どうせ戦場いくさばに行けば飲みたくても飲めやしねーんだからよ……」


超風ちょうふうは どうやったら出来るのか知らないが眠りながら歩いていた……


「ちょっ!?寝るな!!馬鹿!!華桃姐かとうねえさんに殺されるぞ!?」

「う~ん…むにゃむにゃ……」


不意に居眠りをする超風ちょうふうの首筋に ひんやりと鋭く冷たい物が突き付けられた。


「目が…覚めたか?……」


超風ちょうふうの首筋には、全身黒ずくめの衣装で猫耳フードをかぶ燕姫えんきが短剣を突き付けていた…


「ひっ!?え…燕姫えんき!?物騒な物を突き付けんじゃねー!!」


キィド近郊にあるリョーブ、サナーガの国境に到着すると華烈団かれつだんは砦の一区画を駐屯場所として割り当てられた。正規の団員は7名 他は数名ほど仕事を請け負った場所で補充人員を雇うのは毎度の事である。


ねえさん、アッシは陣営を作りますからしばしのお時間を…」

関単数かんたんすういつもすまないわね」

「それがアッシの仕事でさあ」


垂れ目でしゃくれあごをした関単数かんたんすうと呼ばれた男は テキパキと手際よく陣営を作り始めた。彼は傭兵団を裏から支えるのが主な仕事で戦う事はほとんど無いが陣営作りの他に物資の補給 炊事や洗濯など裏方の事は何でもこなしていた。


単数たんすうさん わたし手伝いますよ」


おかっぱ頭を頭頂部で縛り革鎧に半ズボンの男の子…いや…女の子のせい関単数かんたんすうに駆け寄った。


「おや?せいさん?そいつはいけねーよ こいつはアッシの仕事でさあ」


せいは お世辞にも戦闘では役に立っていない後ろめたさから関単数かんたんすうの手助けを願い出た。


「陣営作りも炊事や洗濯だって一緒にやれば早く終わりますよ?」

「アッシは戦えねーからせいさん達が気持ち良く戦える様にするのが仕事なんでさあ それぞれ役割があるんでさあ」


役割と聞きせいは より一層に後ろめたくなった……


「わたし全然ダメで…みんなに迷惑をかけてばかり…だからせめて……」

「弱音ですかい?そう言う話を聞くのもアッシの仕事でさあ、ひとつ昔話を聞いてくだせえ」

「昔話?」

「アッシが料理人だった頃 ろくな物しか作れねー時がありましたぜ、そん時アッシの師匠がこう言ったんでさあ「人にはそれぞれ飛翔する時が必ず来る」ってね」

「飛翔!?それは わたしにも来るんですか!?」

「そいつはどうかね?」


ガタッ!!…せいは思いっきりズッこけた……


単数たんすうさん!普通そこは来るっていうでしょう!?)


「でも そん時の為に今やるべき事をやるって話ですぜ、人生100回挑戦して99回失敗しても最後の1回を成功すれば勝ちなんですぜ」

「こ…言葉の意味はわかりませんが…それって……99回も失敗するって事なんですか??」

「アッシの場合は99回食中毒を起してしまいには師匠に破門されちまいましたがね アハハハ~」


(ダメじゃん…ここの食事 大丈夫かな……)


話を聞き余計に果てしなく不安になった…団員の健康の為にも とりあえず炊事は手伝った方が良いのでは?と…せいは思った。


「おや?何処どこの傭兵かと思ったら 華桃かとうさんじゃありませんか?ウフフフ」


不意に華桃かとうに話しかけて来たのは、黒い鉄鎧の肩を外し両肩を露出した茶色い髪をした女だった。


華桃かとうお姉さん?お知り合いですか?」

「まあね…ちょっとした腐れ縁、 万示威ばんしいって言うのよ」


茶色い髪の女は ソバカスと言う言葉に反応し憤慨ふんがいした。


「キ〜ッ!!それは言わない約束でしょうが!!」

「知らないわよ 何の用?」

「むぐぐぐ…生意気な女……まあ良いわ一緒の軍で仕事をするから一応挨拶に来ただけよ」

「ふ〜ん せいぜい死なない事ね?」

「誰に向かって言ってんのよ!?」


せいは珍しく華桃かとうからむ女の傭兵を見つめていたが、確かにメイクで誤魔化してはいるがうっすらとソバカスが見えた。


「あ?本当だ!?ソバカスがある!!」

「ぬなっ!?何よ!?この子!?失礼な!!」

「ぶっ!!アハハハハ〜!!」

「笑うな!!この踊り子もどきが!!」


最も気にしている事をせいに指摘されたうえに華桃かとうに大笑いされ、憤慨ふんがいした万示威ばんしいではあるが気を取り直して精一杯大人ぶった。


「オホン!!坊や…お姉さんは大人の女だから子供に言われたくらいじゃ目くじらを立てたりはしないけど、男の子は女性にそんな事を言っちやダメよ?アンタ貧相な体してるけど顔は良いんだから…」

「ぷっ!!アハハハハ〜!!万示威ばんしいその子 女の子よ…プククククッ…」


せいが女の子だと言われて万示威ばんしいは目を丸くした。


「ま…マジで?」

「はい…マジです……」

「アハハハハ〜!!アンタ達 面白すぎよ!!」


大笑いする華桃かとうを見て万示威ばんしいは怒りを募らせた。


「むぐぐぐ…もう頭に来た!!アンタ達 姉妹に勝負を挑むわ!!」

「え!?姉妹って…わたしも入ってるのですか!?」

「あったり前よ!!まさか逃げたりはしないわよね!?」


万示威ばんしいの挑戦に華桃かとうは腕組みをしながら答えた。


「私達 に勝負を挑むなんて身のほど知らずね?良いわよ かかってらっしゃい!!」

「ん?華桃かとうお姉さん?ちょっと待って!!今確かに姉弟きょうだいと!?」

「そうよ姉妹きょうだいよ?それが何か?」

「嘘!!きょうだいはきょうだいでも、弟の方を使ったでしょう!?」

「そんな訳ないじゃ無い ちゃんと妹の方を使ったわよ?大体読み方が同じなのが悪いのよ、小さい事をいちいち気にしちゃダメよ」

「これって小さい事ですか!?」


二人の馬鹿話をそばで聞き 万示威ばんしいは腹を立て言い放った。


「勝負はこのいくさで大将首を取った方が勝ちよ!!」

「アンタそれ…考え方がセコくない?」

「うるさい!!とにかく勝負よ!!逃げたら負けよ!!」

「はいはい…わかったわよ…受けて立つわ……」


万示威ばんしい何故なぜか自信満々の表情で去って行った。


「お姉さん?どうして考え方がセコいのですか?」

「私達傭兵は基本的に戦場のど真ん中で戦うからね、敵の大将がいる本陣なんかに近づける訳が無いのよ」

「それって…つまり……」

「引き分け狙いなのよ あの子…昔から負けたくないからって勝ち負け無しの引き分け勝負ばかり挑んでくるのよ」


それってセコいのを通り越して面倒臭い女だな…ってせい思った……

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