第3話 キィドの美少女

華桃かとう率いる傭兵集団 華烈団かれつだんは帝都センタリオのかなり南に位置するナンケー地方の北西部にある国、リョーブの大都市である商業都市キィドに来ていた。


「うわ〜っ!?凄い町ですね!!??」


多くの人で行き交う町の喧騒けんそうに驚くのは、おかっぱ頭を頭頂部でしばり革鎧に半ズボンと言う パッと身は男の子だが正真正銘?の女の子 せいである。


流石さすが喉元のどもとと呼ばれた都市ね」


踊り子風衣装をまとう美女 華桃かとうが答えたが、とても姉妹とは思えない…それは周囲の男達が華桃かとうを見つめる目を見て良くわかる……


「のどもと?」


商業都市キィドは現リョーブの先王が心血を注いで作り上げた都市で、他国との取引が盛んに行われる港を中心に多くの商家がのきを連ね人口10万人と言われていた。


「ってか…人が多すぎて酔っちゃいそうです…おえ~」

「アハハハ~!せいはまだお子ちゃまでちゅね~」


金髪色黒の紀礼女きれいじょせいをからかい頭をポンポンとしたが、彼女もちょっとだけ美女だ…ただし黙っていれば……


紀礼女きれいじょさん!酷い!…って…あれ?どうしたの?超風ちょうふうさん?」


ふと隣を見ると身長2メートルはあるはずのハゲで大男の超風ちょうふうが、せいでも頭に手が届くほど小さくなっていた。


「はあ〜……俺様は人じゃなくて酒場で酔いたいぜ…戦場いくさばじゃ飲めねーもんな……」

「あ〜…そう言えば大酒飲みの超風ちょうふう戦場いくさばでは全然飲まないよね?何で?」


紀礼女きれいじょの問いに超風ちょうふうは大きくなって答えた。


「バッカ野郎!!戦場いくさばで酒なんか飲んだら、いざという時に戦えねーだろうが!!戦いは俺様の生きがいだ!!!!」

「あっ…そう……つまり脳筋って事ね…」


団長である華桃かとうは、ヤレヤレと言った感じで言った。


超風ちょうふう 仕事は3日後よ、それまでは自由にして良いわ」

「本当か!?華桃姐かとうあねさん!!??」


その一言を聞き超風ちょうふうの体は一際ひときわ 大きくなった。


「ただし!!羽目はめを外して町の人に迷惑をかけないように!!」

「へいへい わかってますぜ~!呉鋭ごえい?テメーも行くだろう?」

「俺ちゃんパスね~相棒の手入れで忙しいのよ~」


目が見えているのか疑問なほど前髪の長い呉鋭ごえいは、愛用の弓をいつくしむように手入れをしながら言った。


「付き合いの悪い野郎だ…なら紀礼女きれいじょは?」

「アタイはパス 面食いだしアンタは問題外の外!!」

「オメー…こんな男前に向かって…じゃあ燕姫えんきは……」

「お前…一人で…行け……」


全身黒ずくめの衣装で猫耳フードをかぶ燕姫えんきは、超風ちょうふうの背後から首筋に短剣を突き付け寡黙に言った。


「ひ~っ!?テメー!!物騒な物を突き付けんじゃね~!!」

「アッシはおごりなら付き合いまさあ~勿論 食べ飲み放題でさあな?」


しゃくれあごで垂れ目をした関単数かんたんすうが、食べ飲み放題のおごりなら付き合うと言ったので皆が反応した。


「食べ飲み放題のおごりなら アタイも行くよ」

「俺ちゃんも付き合うよ~」

おごれ……」

「じょ…冗談じゃねー!!お前ら全員をおごったら俺様の金が無くなっちまう!!一人で行くぜ!!!!」


翌日 せいはキィドの町をブラついた。

かつて見た帝都センタリオにも劣らぬにぎわいを見せ、港からは忙しく物資が運び込まれ沿道には立派な店が立ち並び 何処どこを見ても人々が行き来きしていた。


「おえ~ダメだこりゃ…本当に酔いそう……」

「あの…大丈夫ですか?」

「え?」


声を掛けられ振り返ると長い髪で赤い着物を着た美少女が心配そうにせいを見つめていた。


「とても具合が悪そうなので…」


(うぐっ!?なんて美少女…可愛すぎる……)


「あの……」

「いや…だ…大丈夫です!!その…ちょっと人に酔って…アハハハ~」

「まあ、ウフフフ面白い方ですね?」

「そうですかね?…って!?危ない!!」


不意に重そうな荷物を持つ男が、少女の上に荷物を落とした。


ガン!!…鈍い音と共に荷物は間一髪 せいの頭上に落ち一瞬目の前が真っ暗になった…


「く~っ!!痛った~!!」

「キャー!!だ…大丈夫ですか!?」

「おい!!坊主!!大丈夫か!?すまねえ!!」

「いえ…平気です…結構頑丈なんです…」

「そうかい?悪いな…先を急いでるんだ…本当にすまねえ!!」


荷物を持つ男は何度もバツが悪そうに振り返りながら その場を去った。


「本当に平気なのですか?」

「いや…全然…痛い……アハハハ…」

「ごめんなさい…私をかばって…うう…」

「うわっ!?な…泣かないで!!わたし これでも傭兵だし全然平気!!」


せいは ヒリヒリする頭に耐え強がって見せた。


「本当に?…グスン…」

「ホント!!ホント!!この通り!!」


ズキズキする痛みに耐え おかっぱ頭の頭頂部を縛った部分を引っ張って面白い顔をして見せた。


「ウフフフ、面白いですね」

「うぐっ…その笑顔……この子 天使か…」

「天使?お姉さん?なんですか?それ?」

「はあ!?今なんと!?」

「え?その…天使…と…」

「その後です!!」

「あの…お姉さん…と…」


その一言を聞き感激したせいは両手で彼女の手を握り言った。


「わたしはせいと言います!!是非ぜひ友達に!!」

「え…あの…はい…私はヴァルと言います……」


せいは初対面で女だと言われ嬉しかった。そしてこの光景は恐らく周囲の人達から見れば美少女に告白する男の子に見えるだろう……

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