一樹が死で三日後
一樹が自殺した三日後まで来た。
「あきら、晶ってば!」
「ッ」
「晶?大丈夫?」
あの帰路。反対方向のはずの彩が心配そうに顔を覗きそんでいる。
「大丈夫だ」
「嘘」
彩は止まって俺の頬を撫でた。
「は?なんで嘘なんか...」
「馬鹿にしないでよ。いくら頭悪くても、人の気持ちはわかるよ」
「おすごいこって」
「ねぇ、晶…どうしたの?」
「なんでもない」
俺は彩から顔を背けると、彩は、両頬を掴んで顔を鼻先まで近づけた。
「なんでもなくない!晶、話そう?私と」
「なんでお前と...」
「話さなくちゃ、何もわかんないよ!!」
彩の顔を見ると、目に涙が浮かんでいた。
「...」
「晶、わかんないよ。ちゃんと喋ってくれないと。誰も、気持ちがわかんない!!晶、見て。私を。目を逸らさないで...」
彩の目に心配と不安の涙が伝う。ガツンと殴られた気分になった。此奴は明明後日も明日も今日もずっと同じことを言う。
(もういいか。制限があった訳でもないし)
「聞いて、欲しいことが、ある。信じられると思わない。けど、聞いて欲しい」
「信じるよ。今のアンタ、酷い顔してるもん」
俺は、安心した様に話し出す。
「はは………ありがと」
「…」
「俺は、1ヶ月後から戻ってここに来てるんだ」
〜
「なるどね」
「驚かないんだな」
「驚いてるよ。凄く」
「そうは見えないぞ」
「なら、安心してるんだと思う」
「安心...」
「晶さ、ずっと独りじゃん。教室でも、それ以外でも。ずっと一人で」
「まぁ、確かに」
「でも、今、誰かのために必死になってる晶は本来の晶な気がする」
「だろうな。俺は結局一樹っていう実態に縋ってた鏡だよ」
俺がそういった時、彩が真顔でそして力強く言った。
「違うよ。
一樹くんは一樹くん。晶は晶。どっちが実態でも、鏡でも無い。そしてどっちも代わりにならないよ」
「...でも、優先順位はあるだろ。俺より一樹の方が価値がある」
「それも無い。私は、どうして晶が身代わりになるって言う発想になるのか分からない」
「いや、でかく現実変えるんだぞ?それなりの代償がいるだろ」
「でもそれ、言われてないよね?晶次第なんでしょ?なら、晶と一樹くんが過ごす未来だってあるんじゃない?」
「...」
そうか。確かに。そうだ。自分が犠牲になることばっかり考えてた。俺次第...なら.........
「晶が本当に見たい未来は?掴みたい現実は?本当は、わかってるんじゃない?」
「...」
俺の見たい未来。行きたい現実…
「晶は一樹くんとどうしたいの?」
「俺は…」
「大事なのは、それを知る事じゃない?」
「…っ」
「向き合ってみたら?家族と。お母さんと一樹くんに」
そう言っているうちに家に着いた。門に手を掛け開く。
「そうするよ」
「晶」
「ん?」
「頑張ってね!また昨日に会いましょ!」
いつもの元気な笑みで俺の背中を叩く。
「嗚呼」
俺は家の中に入っていく。廊下を抜けてリビングを見る。母が正座で一樹の骨を抱いている。
「ただいま。母さん」
「...一樹?嗚呼、違うのね」
母は俺におかえりと言わない。
「なぁ母さん、もし、俺が死ぬ代わりに一樹が生きるとしたらどうする?」
「何それ。一樹が生き返る保証あんの?」
「確実に。でも俺が死ぬ。どっちとる?」
「ちょっと待ってよ。違うよ私はそんなの望んでないよ」
母は一樹の骨を前において俺に縋る。
「晶、違うの。ごめんね。私はそんなこと言ってるんじゃないの。私は、どっちか死ぬのは嫌よ。どっちもに生きて欲しいの。どっちか選ばなきゃ行けないなら私が死ぬから、お願いよ、そんな事言わないで。そんな、そんな...」
母がよろよろと土下座をする。
「ごめんなさい。不器用な私が悪かったから。どっちも居なくちゃ駄目なの。優しい晶に甘えていてごめんなさい...ごめん」
初めて、母がなんの服を着ているか解った。喪服だ。今、母は喪服を着ている。真珠のネックレスにボロボロの頭。相当やつれてる。
「母さん……ごめんなんでもないよ。もしもの話だから」
俺は母の背中を撫でた。弱々しく、骨ばっていた。昔よりもよっぽど小さくて、自分が母の身長を越したことにも気が付かなかった。
「ちゃんと、二人で生きる未来を作るから。待ってて」
見つけれた。今、俺は母さんの姿が見えてる。今なら、一樹を見れる気がする。向き合える気がする。
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