何かを与えたかった女子②

 腰掛けてまた、息をく。

「人偏に夢と書いて、儚いと書く」

「存じております」

「人間が見る夢なんて儚いよね。……ねえ夢斬り。誰かを救えた?」

「私にできることはしました」

 そう、と宙を見つめる。少し落ち窪んだ目は何を見ているのかわからない。

「私は夢の中でなら何にでもなれる。私は少しでも誰かを救いたい。あなたはそうおっしゃいましたね」

「そうだったかもね」

「そして、夢斬りが生まれました」

 彼女はちらりと夢斬りを見る。

「いかがでしたか?」

「何が?」

「私という存在ができて、何か変わりましたか? 誰かを救えましたか?」

 彼女は椅子の上で体育座りをして膝に顎を乗せた。ニット帽を掻く指はあまりに細い。やがて小さく首を振った。

「これは、夢だから」

「全て幻だったと?」

「そうかもしれない。わからない。どっちにしろ私はやっぱり誰のことも救えない。もらってばっか。私はこのまま、誰にも何にもお与えられないで死ぬんだよ」

 夢斬りは、これまで出会った一人一人を思い出す。その中で知った自分にはない考え方も。苦しみを消さなくてもいいと言った人、幸せを消した人、一つのことを、人を好きでい続けた人、生きられるのに死にたかった人、動物のために泣いた人、他にもたくさん。自分はその人たちから何を貰っただろう。

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