何かを与えたかった女子①

 その夢には何もない。夢を斬った後の何もなくなった世界と同じ。

「どこにいらっしゃいますか」

 夢斬りがくうを見上げて言う。やがて白い靄の奥に人影が見えた。白いガウンを羽織り、ニット帽を被った高校生くらいの女子が近付いてくる。

「呼び出して何のつもり?」

 少し冷たい声だった。

「私のことを救っていただきたいのです」

「何を言ってるのかわからない。誰かを救うのがあなたの役目。そうでしょ?」

「はい、それがあなたが私に与えた務めです」

「わかってるなら、」

「でも、それだけではいけないのです。救う側が救われていなければ、それは真の救いではありません。私は、私を救ってほしい。そして、」

 夢斬りは目の前にある、自分とよく似た瞳のさらに奥をじっと見つめた。

「あなたに救われてほしい」

 夢斬りの前に立つ彼女は、ふう、と呆れたような、諦めたような、そんな仕草で息を吐いた。

「……今までどんな夢があった?」

「悪夢も、幸せな夢も、色々。高齢の方からお子さんまで。本当に夢というのは人それぞれなのですね」

 疲れたから座ってもいい? 彼女がそう言うと、夢斬りが頷く前に椅子が現れた。

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