偽物を愛した男性④
背後に人の気配がした。
「どうしたの? また呼び出したりして」
男性が慌てて現れた女性を庇うように抱きしめる。それから、何かに気付いて泣きそうに顔が歪んだ。言葉を探す男性に夢斬りは語りかける。
「私はあなたに言われたことをします。どちらでも、あなたが決めてください。これは、あなたの夢だから」
男性はそっと女性から身体を離した。両肩に触れて向き合う。どうしたの? と首を傾げる女性。愛らしい女性だ。ふわりとした髪が風に揺れてオレンジ色の陽に透ける。男性が優しく頬を撫でる。寂しげに微笑んで、女性を強く抱きしめた。
「ねえ、本当にどうしたの?」
「好き。本当だよ、嘘じゃなく、本当に」
「……私もだよ?」
「でも、いや、だから、君を本当の意味で好きでいたい。この先君はもう僕のことなんか思い出さないとしても、僕も君を好きじゃなくなるとしても、君を好きでいたことは変わらないから。だから、本当の君を好きでいたいんだ」
女性の声がしなくなった。核が脆くなってきている。
「……大好きだったよ。ありがとう」
ゆっくりと女性から離れる。こちらを振り向く彼の目は赤い。それを隠したいのか、空を見上げる。
「ああ、日が沈むね」
「……よろしいですか、終わりにしても」
「うん、終わりにしよう」
こちらを向かない。刀を抜いた。
「苦しませることはしません。彼女さんも、あなたも」
刀がこの世界の空気を斬る。そして、首はなんの抵抗もなく刀を受け入れた。女性が、街が、夢が、消えていく。彼だけの街、彼だけの彼女は世界のどこにも存在しない。
「……ありがとうございます。これでやっと進めます、きっと」
「そうなれることを願います」
夢斬りは一礼して歩き始めた。次の夢へ向かおう。自分にしか救えない人がいるはずだ。
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