偽物を愛した男性③
「彼女が好きだった俺は偽物だったけど、俺が好きだった彼女もそうだったんじゃないかなって思ったんですよ。よく言うじゃないですか、別れた後に良さに気付くって。それって、相手を美化してるってことの気がするんですよね。よく彼女の夢を見て、ある時ふと思ったんです。あれ、俺の彼女ってこんな人だったっけ、て。自分、今本当に彼女のこと好きなのかな。今好きなのって、自分がいいように作り上げた偽物なんじゃないのかなって。なんかもう、わけわかんなくなっちゃったんですよね」
相手の全てを知るなんてことはできない。自分のことすらちゃんとわかっているわけではない。他人であれば尚更。ある程度相手のことを想像で補うしかない部分もあるが、それと偽物を好きでいることは全く違う。
「では、この夢は消してしまってよろしいのですね」
「はい、お願いします。この先も彼女をなかなか忘れられないとしても、本物を好きでいたい」
でも仮に偽物だとしても、偽物とわかっているとしても。この核を壊すのには抵抗がある。斬るのが自分の仕事、そう言い聞かせる。
「そうしましたら、彼女さんを呼んでいただけますか」
「あいつを? 別にすぐ来ると思うので構いませんけど」
「……核は、そこにあるんです」
「核?」
「この夢の核です。それを壊さないと夢は消えない。その核が、彼女さんの身体です」
「え、壊すって、」
「あの方の首を刎ねます」
これは夢で、偽物。一つの幻。そうは言っても、なぜだろう、人の形をしたものを斬るのが心苦しい。夢斬りが生まれて間もない頃、ある男性の夢を斬った。追いかけてきた男の身体を真っ二つにした。それと何が違うと言うのか。自分の心もよくわからない。
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