殺した女の子②

「この雀さんはきっと、優しい人に見守られて幸せだったと思います」

 何が幸せだったのかなんて、その雀にしかわからない。巣立ち直後に死んでしまったことは確かにかわいそうなことだし、目の前で、自分の行動ゆえに一つの命が消えてしまった彼女のショックは大きいものだろう。

「この経験を忘れようというわけではありません。これから、あなたはもっと優しい人になれます。その優しさが、ここで学んだことが、きっといつか別の命を救うでしょう。だから、あなたは前に進むべきなのです。この子が生きられなかった分も生きましょう。大丈夫、あなたはもう大切なことは知っています」

 大切なこと? と首を傾げる。いつかわかる時が来るだろう。

「この子を埋めてあげませんか」

 女の子はやがて、こくりと頷いた。夢斬りがそっと雀に手を伸ばす。

「待って、触っちゃだめ。触ったら何か、病気がついちゃう」

「……そうか、そうですね。何かで包みましょう。このハンカチでよろしいでしょうか」

「いいの? お姉さんのハンカチでしょ?」

「ええ、良いのです」

 そっとハンカチを握らせる。いつの間にかポッケに入っていたのだ。小さな青い鳥の刺繍があった。女の子が優しく丁寧に雀を包む。包んだハンカチの上から撫でた。何度も何度も撫でる。やがてまた、ぽとりぽとりと涙が落ちた。

 彼女は腕の内側でごしごしと目を擦って立ち上がった。

「私のお庭に埋めよう」

 夢斬りは黙ってついていった。小さな手にシャベルを握り、土を掘る。小さな穴ができた。

「ごめんね」

 小さくそう言って、雀を穴に置く。

「ごめんね、私……その分も生きるよ」

 やがて、小さな雀と涙が土に埋まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る