第9話 借金

 妻にLineすると、普通に返信があった。


『今、どこ?』

『家だよ』

 嘘つけ。俺の家はもう売り払っているはずだ。

『じゃあ、行ってもいい?』

『いいよ』


 僕は不安だったけど、家に帰ってみることにした。

 家に帰ると、そこには妻と子どもがいた。

 子供はしばらく見ない間にかなり大きくなっていたが、相変わらず表情が乏しかった。


「久しぶり!元気だった?」

 そこには満面の笑みを浮かべる妻がいた。すごいなぁ、と思う。平気でうそをつき続けられる太々しさに呆れた。

「〇〇〇もずいぶん大きくなったでしょ」

「うん」


 僕は久しぶりに見る我が子を見下ろした。

 僕が持っていた業を一身に引き受けてしまったような子。

 かわいそうな子。


 !!!!!!!!!!!!!!!


 あれ、おかしいな。

 全然、動いてないし、息をしていない。

 死んでる?


 そっとおでこに触ってみると、蝋人形だった。

 え?

 何となく、言ってはいけないような気がしたので、黙っていた。


「ちょっと荷物取りたくて・・・」

「え、何?」

「ちょっと、なんかさ・・・写真見たくて・・・結婚した頃の」

 普段物置にしている部屋に、僕の実印が入っている棚があったはずだ。

 すると、その部屋には、見たこともないベッドが置かれていた。

 白とピンクのシーツで、多分女の人だろう。

 誰か住んでるんだ・・・。

 

 僕はすぐにその部屋に行って、実印をポケットにねじ込んだ。

 印鑑カードがない・・・。

 どうしよう・・・いいや・・・明日、すぐ区役所行けば・・・。


「じゃあ、また来るね」


 妻は平然と僕を見送っていた。


 それから一月後、僕には消費者金融に500万円もの莫大な借金があることをその後知った。(*家族が勝手に手続した場合は、家族でも返さなくていい)


 返済が滞っていたようだ。会社に電話がかかってきて初めて知った。


「僕が借りたんじゃありません」


 僕はきっぱりと答えた。


 

  

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