第6話 友人の助言

 ある時、友達が飲みに誘ってくれた。

 君の奥さんって、どんな人?


 親友が聞いて来た。

 妻が会いたがらないから、親友ですら彼女に会ったことがなかった。


「〇〇の〇〇出身で」

「ああ。なるほど・・・。わかるよ。彼女の身辺調査をしてみたらどうかな?」

「調べてどうすんの?」

「やっぱり血筋っていうのがあるらしいよ」

「血筋?」

「障碍のある人が多い家系とか・・・犯罪者が多い家系とか」

「うん。あるね。血はつながってないけど、遠い親戚にそういう人がいた。病気の人ばっかりっていう・・・」


 僕は友人の助言を聞いてすぐに、妻の前の本籍地を訪ねてみた。


 住所の場所にあったのは、平屋のバラックのような建物だった。

 錆びたトタンの屋根で、壁もトタン。外には壊れた自転車が何台も放置してあった。

 あの人はこんなところで育ったんだ。

 僕はショックを受けていた。

 そんな人を妻にしてしまったんだ。

 見事な学歴ロンダリング。有名大学でも就職で苦労したのは、このせいなんだ・・・。


「すみません!」


 僕は通りかかった人に声をかけた。せっかく遠くから来たんだし、恥ずかしいという気持ちはなかった。


 相手は貧相な顔をしたおばさんだった。目の周りのクマがすごかった。前歯が何本か抜けていたし、足元はいかにも主婦という感じの、昔風の茶色いサンダル履きだった。薄汚れた白いトレーナーを着ていた。

「こちらのお宅、誰の家かご存じですか?」

「ああ。〇〇さん?」

「はい。どなたか住んでるんでしょうか?」


 妻の旧姓だった。


「まあ、おばあちゃんが住んでるみたいだけどね」

「その息子さん夫婦や、お子さんは?」

「みんな、いないんじゃない」

「あ、そうですか・・・引越したんですか?」

「みんな、刑務所入ってるんじゃない?」

「え?」

「前にあったの知らない。〇〇〇で、小学生の女の子が殺された事件。あの犯人、ここの息子。しばらく帰って来ないと思うよ」

「ああ・・・そうなんですか」

「父親も母親も何回もつかまってるし、妹も覚せい剤で」

「そうなんですか・・・女の子がいませんでしたか?名前はA子」

「ああ。あの子。年ごまかして、中学から風俗で働いてたけど。やく〇に付け込まれてね。借金背負わされてさ。どっか飛んじゃったみたい」

「え?東京の大学行ったんじゃないんですか?」

「この辺は大学行くような人はいないよ」

 あ、嘘の経歴だったんだ・・・。

 僕は気が付いた。卒業証書を見せてもらったわけじゃないし、いくらでも嘘はつける。

 

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