第5話 不和

 僕たちは、その子がいるから、次の子どもは諦めた。


 重度の知的障害、一生寝たきり。

 大きくなったら施設に入れないといけないだろう。

 僕の人生はもう修復不可能になっていた。

 それでも、妻は平然としていた。


「ガタガタ言うんじゃないよ。こんなことくらいで泣いててどうすんのよ!」


 まるで漫画みたいだった。

 彼女は苦労しただけあって、どっしり構えていた。

 ヤンキーか極道か。

 昔のかわいらしい感じは微塵もなかった。

 産後は太ってしまって、居ずまいがおばさんぽっかった。


 離婚したいけど、障碍のある子どもを捨てるのはあまりに身勝手だ。

 僕は安らぎのない家庭と職場をひたすら往復した。

 会社にいると楽しかった。

 仲のいい同僚や、信頼できる上司がいる健全な世界。

 僕の苦悩をみんな知らない。

 僕は仕事にのめり込んだ。


 その結果、同期では一番早く出世した。

 対外的には順調そのものなのに、家はお墓みたいだった。

 僕の人生は下り坂をどんどん降りていくだけだった。


 そのうち、どうしても、家に帰れなくなってしまった。

 会社の入っているオフィスビルは、24時間利用できたから、会社で寝るようになった。ホテルに泊まるなんて、そこまでの余裕はなかった。

 食事は三食外食。

 健康状態はみるみる悪化した。

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