第2話 送別会
時は30年前に
当時、シンとトモ、キラは大学生、ケンは高校卒業と同時に実家が経営する焼き鳥居酒屋を継ぐ為の修業を始めた。
4人は、高校時代からの親友で遊ぶ時も学ぶ時も常に一緒に行動をしていた。バンドをしたり、原付の免許を取って海まで走ったり、予備校に通いながら将来の夢について話したり、気になる異性とアレがしたいなど高校生男子特有の下世話な話までして盛り上がった。
順風満帆な青春を送っていた。
そして4人別々の人生を送りながらも毎月必ず会って近況報告をしあっていた。
しかし、その日はいつもの飲み会とは違っていた。
キラが大学をスキップで卒業し、母国の企業に就職することになり、帰国することになったのだ。
その報告がされたのが1ヶ月前だった。
報告を受けた3人は泣いた。特にケンは大泣きした。
「モう会えナいカモしれなイ」
キラも涙混じりに言う。
何をする時も何時も一緒であった4人が離れる時がきてしまったのだ。
「送別会を開こう」
シンが言う。
「そうだな。やろう!」
普段は、物静かなトモも声を上げた。
それから1ヶ月後、送別会が開かれた。
金のなかった4人はケンの実家の好意に甘えて居酒屋を貸し切って大きな騒ぎ、食べ,飲んだ。
普段はビールと焼酎しか出さないがブラッディメアリー好きのキラの為にわざわざ用意してくれた。
その後、店を出てからもカラオケでバンド時代にコピーしていた歌を熱唱しまくり、最後に締めにいこうと某大手中華チェーン店に行った。
それが始まりだった。
長方形のテーブルに並べられた料理にキラは驚愕する。
トマトだけのサラダ。
生地が赤く染まった餃子。
エビチリ
そしてこれでもかとラー油のかけられた焼きそば。
キラの手が震え、汗が一筋流れる。
「あの・・・これハ?」
動揺するキラをよそにシンとトモは冷静だった。
酒を飲みまくったケンだけがテーブルに突っ伏して鼾をかいている。
「なにってどうかしたのか?」
唇に薄い笑みを浮かべてシンが聞いてくる。
先程までのキラと別れたくないと号泣しながら十八番を歌っていたシンはどこにもいなかった。
ただ、今までに見せたことのない冷徹な目でキラを捉えている。
キラは、気圧されしたように身を引く。
そんな2人には目もくれずトモはスマホのゲームに勤しんでいた。
今流行りのエイリアンを駆逐するゲームだ。
「今日はお前の送別会だぞ。大好物ばかりを揃えさせてもらったんだが気に入らなかったか?なんならブラッディメアリーも用意されようか?」
その口調もいつものシンではない。
南極のようにどこまでも広がる冷たい声だった。
「何せお前たちは赤い色素のある食物からしか栄養が摂れないからな。まあ、調理自体は大変な物がないからいいけど苦労したろ?遠慮せず食べてくれ」
そう言って両手を組み、人差し指を上げる。
冷や汗が引く。
キラの表情から動揺が消え、能面のように目を細めてシンを睨む。
「お前、何者ダ?」
「お前の方が良く知ってるだろ?この星に来るのなら我々に知られるリスクを十分に把握しているはずだ」
「地球保安局カ」
キラは、苦々しく呟きながらため息を吐く。
ガチャリッ
鉄の重い音が耳元で聞こえた。
キラは視線だけを動かすと、黒い鉄の塊を自分に向けているトモの姿があった。
黒い鉄の塊、拳銃はブレることなくキラのこめかみを捕らえていた。
キラは、反射的に手を挙げる。
「お前も地球保安局ダッタのか?」
キラは、視線だけをトモに向けて問う。
トモは、何も答えない。
変わりにシンが答える。
「彼は保安局の人間じゃない。火消し屋だよ」
「火消し屋?」
「保安局公認の宇宙人を抹殺する殺し屋集団さ。彼は弱冠15歳でこの世界に名を馳せた天才火消し屋だ」
「凶悪な宇宙人だ」
トモは、吐き捨てるように言う。
「金さえ貰えば誰でも殺すようなゲス野郎たちと一緒にするな」
トモが今にも射殺すような視線でシンを睨む。
シンは、怯えた様子も見せず肩を竦める。
「そしてオレは保安局治安維持課の捜査官だ。5年間ずっと君を見張っていた」
5年間・・・。
キラは、2人には聞こえないくらいに小さく、切なく呟く。
「それジャあ高校の入学式カラ君達はオレを騙シてイたわケだ」
高校の入学式の時、いつ正体がバレるか分からない恐怖と闘っていたキラにシンとトモ、そしてケンは優しく声を掛けてくれた。
シンは言った。
高校3年間よろしくな!俺たちはいつまでも友達だ。
「アノ言葉はウソだっタワけか」
キラが呟くとシンの表情が歪む。
「嘘をついていたのはお前だろ。凶悪犯罪者め」
シンの目に澱んだ火が灯る。
「保安局を通さずに違法に宇宙人をこの星に密入させ、正体を隠させて違法に働かせていたくせに。どれだけの斡旋料を稼いだんだ」
「お前のその行為がこの星にどれだけ危険に晒しているか分かっていないだろう。私利私欲しか考えないクソ宇宙人が!」
トモが唇を歪める。
「彼ラは、悪イことなどシない!」
キラは、声を張り上げて否定する。
「彼ラは、惑星間戦争ノ被害者ダ!住む星ヲ追われタ難民ダ!善良ナ人々だ!」
キラは、肩を振るわせ、怒りの目を向ける。
しかし、シンの目も、トモの目も揺るがない。
「ほう。じゃあなんでその善良な宇宙人たちが保安局に捕まるのだろうな?」
キラの目に動揺が走る。
「ここ最近の強盗や詐欺、挙句殺人などの事件の犯人を追っていくと必ずと言っていいほど違法宇宙人に辿り着く。お前の言う善良な宇宙人にな」
シンがキラに顔を近づける。
「これは一体どう言うコトなんだろうな?」
「そレは・・・」
「違法で入星してきた宇宙人にまともな仕事なんて与えられるわけがない。しかも保障すらないのに生活していける訳がないだろう」
「お前タちが彼ラを受け入レナいからだロ!」
「違法で入ってくる奴らを受け入れるわけねえだろうが!」
シンは、テーブルを叩く。
並べられた料理が揺れ、トマトのサラダが床に落ちる。
「いいか!どんな事情があろうがなんだろうが守らなければいけないルールがあるんだよ!ルールを守れない奴は助けることも助かることも出来ねえんだよ!本当に人を助けたいと思うなら正当な手段をもちいろ!」
「正当ナ手段なんカ待ってル間にどれダケの人が死ぬと思ってるンだ!」
キラは、立ち上がる。
それに合わせてトモも立ち上がる。
銃口はこめかみに向けられたままだ。
シンは、座ったままキラを見上げる。
「お前のお父上って確か星の外交官だったよな?」
「あア。こノ星に駐在大使ダった」
父は20年前に母星の外交官として地球に赴任してきた。お前向きは外資系企業の社員だ。そこで地球人の母と結婚して生まれたのがキラだった。
しかし、今は2人ともいない。
父はキラが中学に上がる前に逝去し、母も半年前に病気で亡くなった。
だから母星からの外交官の話しを受けることにしたのだ。
「立派な方だったと聞いている」
「ズっと尊敬してイる」
「・・・そして殺されたんだよな。守ろうとした難民たちに」
沈黙が訪れる。
キラも、トモも、シンも呼吸すら止まっているかのように動かなかった。
ケンの鼾だけが店の中を走った。
「星の住民を助けようと保安局に何度も訴えたらしいな」
「そウだ。お前ラに拒否サれても何度モ」
「拒否した訳ではない。然るべく手段を模索している最中だった」
「対応ガ遅けレば同ジことダ」
キラは、唇を歪め、歯を噛み締める。
「それで殺された、と」
「殺されタンじゃない!あレは事故だッた!戦争に対スルテロ行為を止めようトして誤って撃たれタンだ!誰も父を殺そウトなんて思ってなカッた!悪いのハ戦争だ!」
キラの目から赤い涙が溢れる。
「お前ラは戦争ヲ許スノカ!?」
キラは,叫ぶ。
しかし、シンもトモも表情は変えない。
冷静に、冷徹にキラを見据える。
「同情はする」
シンは、立ち上がる。
「お父上の英断にも尊敬の意を表する」
シンは、ゆっくりと目を閉じる。
「しかし・・・」
ゆっくりと目を開き、涙するキラを見る。
「罪は罪だ!」
キラの瞳が大きく震える。
シンは、トモを見る。
トモは、何も言わず頷く。
「捕縛しろ」
トモは、一瞬のうちにキラの手首を掴むと思い切り引っ張り、床へと押し倒した。そして背中を足で踏みつけ、銃口をキラの後頭部へと向ける。
「殺しはしない。正当な裁判のもとにお前を裁く。それが友である俺たちのせめてもの
そう言ってシンは、2人に背中を向け、ポケットからスマホを取り出す。
本部に捕縛完了と告げるためだ。
画面スマホの画面を見つめ、
耳を
銃砲だ。
(キラ⁉︎)
「トモ、撃てなんて命令して・・・」
シンは、それ以上言葉を放つ事は出来なかった。
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