焼きそば大戦争
織部
第1話 再会
この4人で集まるのは実に30年ぶりだった。
きっかけは1年前にキラからケンに届いた通信だ。
"そっちノ近くを飛ンでるノで日本に寄れそウだ"
短い文章でその通信は送られてきたらしい。
あまりの端的な文章にシンとトモは苦笑いする。
文句の一つも言ってやりたかったがケンしか通信手段を持ってなかったので日時と場所だけケンに送ってもらい、約束を交わした。
キラから"了解"と返事が来たのは半年後のことだった。
そして約束の日当日、
その足で4人は若い頃には足を踏み入れることも出来なかった少し高めの居酒屋に入り、各々好きな飲み物と料理を頼んだ。
「それにしてもキラは見かけが変わらないな。
30年の年月の中ですっかり頭髪から主張の無くなったシンは羨ましそうに言う。
「外交官やっテ色ンなとこ飛んでるト老けてル暇がナいンだよ」
ハーフらしい片言の日本語で話し、キラは苦笑する。
「今思うと
ビールを煽りながらトモが言う。
トモも30年という年月の中で随分と皺が増え、顔にも幾つかシミが出来ていた。
「オレの国ジャ珍しクナイよ」
そう言ってキラも真っ赤なブラッディメアリーを飲む。
「トモは、今ナニやってルの?」
「消防士だよ。最近は現場でなく主に事務職だけど」
「火消シか。若い頃の性分ヲ活かシテるな」
キラに言われるとトモは少し困ったように頬を掻く。
「シンは、ナニしてルの?」
「オレは、変わらないよ。昔から同じ仕事」
そう答えて生レモンをぎゅっと手で絞り、サワー果汁を流す。
キラの表情が固くなる。
それを見てシンは、可笑しそうに笑う。
「別にもうお前を捕まえようなんて思ってないよ。それに職場は同じだけど今は生活支援課だし」
「生活支援課?」
キラは、首を傾げる。
「この国に来たばかりで生活に困ってる人達の支援をしてるんだよ。そうすりゃ馬鹿なことを考えなくて済むだろう?どんな人種だって生活が整えば安心して過ごすことが出来るからさ」
そう言ってシンは、微笑む。
「お前に習ったことだよ。キラ」
キラの目に涙が浮かぶ。そして気づいたらレモンの汁まみれの手を握られていた。
「シン!」
「止めろよ気持ち悪い」
そう言いながらもシンも嬉しそうだった。
「久々の再会だってのに話しが弾むもんだな」
すでに4本目のウイスキーを開けて真っ赤になっているケンが陽気に言う。
ちなみにケンの見かけも当時からあまり変化が見られていない。肌が少し劣化したように黒くなっただけだ。
「みんな出世して羨ましいことで」
そういうと3人は顔を見合わせてケンを睨む。
「何言ってんだよ」
「1番幸せなのはお前だろう!」
シンとトモが叫ぶ。
「まさカお前が本当ニ萌ちゃンと結婚すルトはな」
キラは、しみじみと呟き、ブラッディメアリーを飲み、トマトと赤貝を口にする。
「しかモ今度孫ガ出来るンだロ?驚きダよ」
キラがそう言うとケンが照れて舌を出す。
「オレは、子どもが出来たことの方が驚いたけどな」
シンは、当時の驚きを思い出し、眉を寄せる。
「人生でも3本に入る驚きだった」
トモもしみじみと言う。
「お前ら失礼にもほどがあるぞ!」
酒で酔ってか、怒ってか分からない赤ら顔でケンは怒鳴る。
その様子をキラは、ケラケラと笑って見ていた。
「ヤハりみんナと話すノは楽しイな」
キラに言われてシンもトモもまんざらではなさそうにはにかむ。
「そうだな」
「楽しいな」
キラは、半分になったブラッディメアリーを見る。
「あノ時、別れナくて本当二良かっタ」
「そうだな」
「本当に良かったよ」
2人も同時に頷く。
ただ、1人、ケンだけは何のことか分かっていなかった。
「おいおいなんの話だよ?なんかあったっけ?」
ケンが問うと3人は驚いたように顔を見合わせる。
「おいおい忘れたのか?」
「バグってるな」
「あんナ大事ナコトを忘れルなんテ」
3人に責められ、ケンは、赤い顔をさらに赤くする。
「だからなんのことだよ?」
3人は、再び顔を見合わせ、そして同時にケンの方を向いて声を合わせた。
「「「焼きソバ大戦争だよ」」」
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