第32話 二人きりの逢瀬(ジーク)

 シモン様からまたマリアンネ様の手紙で今度は学園内でイチャラブしないよういつも通り過ごすこと、破ったら婚約破棄と書かれていた。


 ええええー!?

 マリアンネ様が登校されて僕達もようやく想いが通じてイチャラブできると思ったのに!?

 あ、あの山小屋でのイチャラブは何だったのか!?

 でもこう言うの確か…


「もしや!ツンデレ!!?」

 そんなもの創作の中でしか見たことが無い!!


 実際テレビのバラエティーでならアイドルが可愛くやってたけど所詮あれも芝居。

 現実でやっていたらただの痛い人である。


「でも…マリアンネ様…可愛い所あるし本当にそうとしか思えない!」

 ツンデレだ!それも隠れツンデレに違いない!


 しかしそうなると学園内でのイチャラブは皆無!そうしたら二人きりっていつなるのかな?


 僕が公爵家に赴きわざわざイチャラブしに行くというのも大変恥ずかしい!デートにも護衛は付いてくるだろうし…そう言えば…恐れ多くて侯爵家には一度もマリアンネ様を招待したことが無い…。


 僕の家でイチャラブしようにも兄弟が多いし無理だ!誰かしらいつも僕の部屋に入ってきて遊んだりする。前世一人っ子だったのでそれは新鮮だったけど今度は使用人含めて一人の時間はあまり無くなっている。


「んんんー…家はダメだー…となると」

 急に前世知識のラブホが浮かんだ!いやっ!こっちの世界にも宿屋はあるけど流石にそんな大胆なことはできない!


「この世界…遊園地すらないし…。この前のような劇場で!?いや…でもあんな暗がりで余計ダメだ!!恥ずかしい!!」

 と結局考えはまとまらない。

 どうしたらいいんだ!


 いつでもどこでもイチャラブしているグレゴールとフリューカさんが羨ましい。休日も二人で堂々とデートしまくり宿屋に行ってるらしいと聞いたというか授業中に自慢してくる。うざい。


 そこで死んだ魚みたいな護衛ライアスさんに聞いてみた。


「あのー…ライアスさんなら…もしも好きな人に周りにバレずに二人きりで会う方法とか知っていますか!?」

 と言うと…


「若いっていいねぇ…。私ならお互いに変装して逢い引きしますね。それなら周囲に多少見つかってもバレにくい…。妻の目を盗み、どこかに二人だけの家を借りてイチャイチャできる…。やったことないですけどねぇ」

 と不倫全開の事を言った。しかし変装かあと納得する。


 婚約者なのにコソコソするのもおかしな話だけど、プライドの高いマリアンネ様だし、この提案なら受け入れてくれるかもしれない…。早速僕は手紙を書いてシモン様に渡しておいた。


 するとしばらくして返事がやってきた。


 ドキドキしながら中身を見ると…


 ー了解しました。学園では無理ですが…放課後少しならお互い変装してどこかの家に入れるでしょう。


 家はこちらで手配しておきます。準備できたらまた連絡致しますー


 とあった。

 良かった!受け入れてもらえた!

 別にそんなにイチャイチャ目的…と言うわけでもないけど折角想いが通じ合っていつも通りなんてちょっと寂しい。



 *

 とりあえず僕は馬車の中に変装セットを用意しておいた。

 しばらくするとマリアンネ様からの手紙を受け取り、街の中のあまり人気のない目立たない家を借りたとのことだ。最初は週一で会うことになり、学校帰りを装うことになる。


 なんか本当に秘密の逢引みたいになりちょっとドキドキする!!

 変装したマリアンネ様はどんな姿をしてるんだろう??


 指定日になり放課後に僕は変装した。茶色のカツラを被り普通の街の男に化け一応メガネまでした。

 初めて護衛を付けず目的の場所に歩いて向かう。


 あらかじめ鍵を預かっているので街の片隅の目立たない家を発見した。住所を確認してグレーの屋根の古い見た目の家で……あった!あれだ!!

 とりあえず鍵を回して中に入ると…僕は驚いた!


 外の古さとは全く違い、中は物凄い綺麗なお部屋が広がっていた!!立派な暖炉にキッチン、テーブルと椅子に大きなソファーに綺麗な絨毯、花瓶には綺麗な花や壁には高そうな絵があり、カーテンは外側はボロボロで中のは綺麗にしていた。テーブルにはなんかお菓子が置いてある。


「ま、魔法みたい!!」

 とちょっと感動しているとコンコンとノック音がして僕は


「山」

 と言うと


「薪拾い」

 と答えが返ってきたので僕は扉を開けるとそこには一人のお婆さんが!?

 あれ?マリアンネ様は来れなかったのかな?使いの人だろうか?

 と思っていたらお婆さんがいきなり腰を伸ばしてズボッとカツラを外し銀の髪が現れそして皺くちゃの顔の皮が剥がれ下から白くてハリのある肌が現れて…糸目が開かれ赤い目がパチリと見えた!!



「ええええ!?マリアンネ様!?な、なんて完璧な変装!!」


「ほほほほ!どこからどう見てもお婆さんでしたでしょ!?当たり前ですわ!カウン家令嬢たる者、やるなら徹底的にやるのです!」


「す、すごい…本当にお婆さんかと思いました……」


「ジークフリート様はダメですわね。そんなカツラと着替えとメガネだけなんてバレバレですわ!」

 と指摘された。


「ええ!?嘘っ!?」


「嘘ではないです!顔の輪郭も青い瞳も隠せていない!もっと研究してくださらないと!髭をつけるとか重ね着してもこもこマッチョにするとか!」

 と更に指摘される。変装のスペシャリストか、インストラクターみたいだ!!


「す、すみません、以後気を付けます…」

 と反省した。


「わかれば良いのですわ!小腹が空いてませんこと!?」

 とテーブルのクッキーを指差す。

 なんか山小屋での食べさせ合いっこを思い出して恥ずかしい。


「あ、わざわざ用意していただきありがとうございます…」

 と僕はささっと給仕係のように紅茶を注いだ。


「まぁちょっとした美味しいクッキーですわ」

 と言うので一口齧ると今まで食べたクッキーは何だったのかというくらいの美味しさ!!


「美味しいです!」


「ふっ当然ですわ。私が不味いものを選ぶはずありませんもの!おほほほ!」

 と笑う。…ううん、これはもはや二人きりでもいい雰囲気になりそうにないかな!?いつもと同じ感じがする。

 しかし…マリアンネ様はいきなり砂糖入れを溢してしまった!


「あっ!」


「だ、大丈夫ですか!?」


「わ、私としたことが!!」

 と青ざめた。


「失敗なんて誰でもありますって」

 と言うとマリアンネ様は首を振り


「いいえ、カウン家の者は失敗してはならずが家訓ですの!…どうか、この事は内密にお願いしましわ…」

 となんかお願いされたのが可愛くてキュンとした。


「あ、もちろんです!こんな事くらい黙っていまさよ!だって今はふ、ふ二人だし!」

 と真っ赤になり言うとマリアンネ様がぽっとした。


 それに僕は心臓がドキドキとする。

 そっとマリアンネ様の手を上から握り見つめ合っていい雰囲気になった…。


 マリアンネ様も照れてしまっているが


「ジークフリート様…ソファーに座りましょう」

 と言われてドキンとした。

 どうしようこのままだとまたキスしてもいいのかな!?


 と思いつつも二人で腰掛ける。えっと…まずはやっぱり手を握ろうと手を伸ばした時反対側に何かあるのを見つけた。


「??これなんだろう?」

 と出っぱった部分を無意識に押してしまうとマリアンネ様は


「え?何?」

 とキョトンとしてその瞬間ガクンとソファーが動いたと思うと足元から上に上がり頭が下に傾き始め何事かとマリアンネ様が悲鳴を上げ僕にしがみついた!!


「きゃあ!!?な、なんですの!?」


「ええ!?なっ何!?」

 傾いた先を見ると床に穴が開き始めている!!


 ええええ!?

 僕とマリアンネ様はソファーが上まで傾き穴に滑り落ちた!!






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