第31話 のたうち回る失態とプライド

「うううう…」

 なんてことなの!?

 あの山小屋でのひと時は夢ではなく現実!!


 私は…私は…カウン家公爵令嬢としてあんな…あんなふしだらなことを!!何度もジークフリート様としていたの!?

 いつもの妄想か夢だと思ってめっちゃくちゃだらしない顔をしてジークフリート様に甘えた…。

 何度もチュッチュッとキスしまくりーの、ジークフリート様の神聖なお膝に乗りーの、ご飯食べさせ合いっこしーの、ソファーでラブラブまどろみーの!!


「ぎゃあああああああ!」

 思い出しながら私は顔から火を吐く!!


「お嬢様!?しっかり!!」

 とシモンやメイドのジェニファーが暴れる私を止めにかかる。額に氷嚢を乗せ横たわらせる。

 熱は少しだけあった。しかし頭の中は山小屋での失態のことばかりだ。

 どうしよう……どうしよう!やってしまった!一線は超えてないしそこまで激しい情熱的な大人なキスをしたわけではないが…


 いつもの私ではなく問題はただのそこら辺にうじゃうじゃいる完全に恋する女のとろけた顔でジークフリート様に擦り寄って甘えた事だ!!


「あれは…私じゃないの…違うの、何か別の生き物が私の中に寄生しているの…人格を乗っ取られたのよ」

 シモンは眉を顰めて


「お嬢様がおかしくなられました。微熱ですが学園は数日お休みにした方がよろしいでしょう」

 とジェニファーに告げ手配してもらう。


 しばらく一人になりブツブツと考え込んでいた。どうやったらあの私をなかった事にできるのか!夢だと言い切るのか…それともこれからまたあの態度で私はジークフリート様とラブラブのイチャイチャで甘えたらいいのか!?しかし変に気取っていつものように突き放したらまた変な誤解をされまたしても婚約破棄されそうになったらどうしよう!


 そもそもジークフリート様が私の事を好きだとか愛してるとか言いまくりキスなんか受け入れるからあんな…あんな……


「ぐへへへへへへへ!」

 と気持ち悪い声を出しながら私は笑った。


「はっ!!」

 と我に帰り自分で自分をパンと叩く。


「危ない!私は公爵家の令嬢よ!その辺の小娘とは違う!あってはならない…!あんなアホみたいなだらしない顔!!」


 ……とりあえず寝ようと瞼を閉じてるとやはり山小屋での出来事が頭に繰り返し出てくる!!くっ!何回キスした!?


 と数日延々と同じ事でのたうち回っていたら…ジェニファーがノックして


「お嬢様…今しがた…ジークフリート様が心配をしてお見舞いにいらっしゃいましたよ?」

 と言いガバッと起き上がりガタガタと震えて


「な、ななな何ですって!?それは現実なの?」


「現実でございます!」

 とジェニファーが言い…


「そう…わ、悪いけどまだ会えないわ。でも折角来ていただいて悪いからこの前うちの領地で取れたほらあのジャム製品があったでしょ!?」


「はいっ!まだ試作品ですがとっても美味しくてたまらない人気のジャム製品になるの間違いなしのあれでございますね!?」


「そう…あれよ。あれをジークフリート様にお土産に渡してもらえるかしら…」


「はい!わかりました!!お嬢様!!」

 とジェニファーは出て行く。

 私はカーテンをチラッと開けてジークフリート様の馬車を確認した。やはり来ている。


 そんなの会えるわけないじゃない!どんな顔して会えばいいの!!?

 と思っているとジャムの袋を抱えたジークフリート様が護衛のおっさんと歩いて来てチラッとこちらを振り返ったので慌ててカーテンから離れた!!


 それから馬車の遠ざかる音が聞こえなくなり…やっとホッとしているとシモンが


「お嬢様ーー!」

 と花束を抱え入ってきた。


「ぎゃっ!な、何よ!?」


「あ、これはジークフリート様からのお花でございます。早く元気になってほしいと相当心配されておりましたので…私が明日には学園に行けると伝えておきました。もう微熱も下がりましたしね」


「はあああ!?あんた何勝手に学園行くとか言ってんのよ!!行けるわけないでしょ!!ぶん殴るわよ!?」


「ああっ!嬉しい!どうぞぶん殴って私の夢であるここを足でグリグリ踏みつけてください!」

 と股間を指す変態執事。


「とにかくまだジークフリート様に会えない!恥ずかし過ぎて死ぬわ!」


「しかし…いつまでも篭ってても仕方ないでしょう?やっと積年の想いが通じられたのですから普通にその辺の小娘達のようにイチャラブしていればいいではないですか?」


「そ、それが嫌なのよ!あれは夢だと思っていたからできたのよ!!しかしこの私がいきなりあんなことしたら皆のイメージが崩れるわ!


 なんだ…あの悪魔も婚約者には甘々でだらしない淫らな女じゃないか…あれなら俺でもいけそうな気がしてきた!ぐへへ、いや、俺が!俺が!俺が!…と何人もの男がたがが外れたかのように私を襲い犯し始めると思うと怖くて学園など行けないわ!!」


「お嬢様の想像力に感服致しますが…良くお考えを…何故人前でイチャラブするのが限定されているのですか!?そもそも。


 思いが通じられ恋人になったのなら二人きりの時にイチャラブすればいいのであり、別に人前でする事でもないでしょ?」


「はぁ!?何言ってるのよ!?あんた!?恋人や婚約者がいる奴等を見てみなさいよ!学園内でわざと見つかるか見つからないかのギリギリの所でイチャラブしてるじゃない!!皆わざと『俺たち、私たちはこんなに熱々だから見てください!どうぞどうぞ!』と言ってるようなものなのよ!それが恋人同士よ!


 付き合いたての奴等は何も言わなくてもラブラブのピンクオーラを周囲にばら撒き目が合っただけでブワリとピンクの幻の花が背後に咲くのよ!!それを皆に見られろと言うの!?」

 と私は必死になり言うとシモンは


「流石カウン家のお嬢様であります。私が間違っておりました!お嬢様はお嬢様でなくてはならないのですね?」


「その通りよ!私はカウン家を守らなくてはいけない!皆にただの女と思われてたまるものですか!!」

 と言うとシモンは


「ではその旨をジークフリート様にお伝えして学園では今まで通りの態度である事と二人きりの時しかイチャラブはしないと手紙を書き破ったら婚約破棄としておけばいいでしょう」

 と言う。


「まぁ!流石シモン!早速手紙を書くわ!」

 と私はペンを取った。


「あぁー、早くグリグリしてほしいんですけどぉー!?」

 とシモンは残念そうな声を出した。

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