第26話 第9の条件

 残りの条件は後二つとなってしまったわ。ジークフリート様となんだかんだ接点を持てたこの条件だけど…婚約破棄されたらもう話しかけることさえできないわ…。


 思い残すことの無いようしっかり考えなきゃ!


 シモンが本日のお菓子のマカロンを持ってきた。

 最近王都で流行っているお菓子ね。

 サクリと頬張る。うん…美味しいわ…。


 ……。そう言えば…学園ではよく好きな男性に手作りの料理を渡すのが好意的らしいわね。今まで婚約者だと言うのに私ジークフリート様にお菓子の一つも差しあげていないですわ!!


「シモン!私…お菓子作りをしてみようかしら!」

 と言うとシモンは驚く。


「……お嬢様がお料理をされるなんて…ああ、それをジークフリート様に食べていただくのが条件ですか?」


「その通りよ?考えてみたら私…一度も料理をしたことがないわ。まぁ、完璧な私だから直ぐに出来上がるだろうけど!」


「うーん、あ!そうだ!それならば、複数同じ料理を用意して、どれがお嬢様の作られた料理なのか当てられたらクリアとすれば良くないですか?」

 と言うので


「いいわね!それ採用よ!」

 久々にまともな事を言ったので採用した。


「ではいつものように手紙を送っておきましょう」

 と頭を下げてシモンは手紙を出しに行った。


 それから約束の日までに私は料理を勉強した。うちのシェフのハークから厨房を借りて教わった。

 シモンもついでに教わった。


 *

 そして約束の日…花束を持ちジークフリート様がやって来た。


「あのぅ、いつもお招きいただきありがとうございます……」

 と赤い薔薇を数本もらい、この花もドライフラワーにして永久保存しようと決めた。


「ありがとうございますわ。まぁ、綺麗でいい香り!」

 とメイドに渡し活けてもらう。


「ではこちらへどうぞ」

 とシモンが案内し、お部屋に三つの料理を並べていた。ジークフリート様は


「この中に…マリアンネ様の料理が入っているんですね?それを当てたらクリア…でも僕食べたことないからきっと外れちゃいますね…」

 と弱気だ。

 ジークフリート様になら何度だってお出ししたいわ!


 席に着いたジークフリート様を見守る。因みに料理メニューはミートパイだ。


「一つはシェフのハークが作った絶品ミートパイ…一つは私の作ったミートパイ…もう一つはお嬢様の作られたものでございます!」

 とシモンが説明してドキドキする。

 私のは左のパイなのだ!


「…わかりました。えーとでは真ん中からいただきます」

 とジークフリート様が食べた真ん中はシモンのヤツだ。


 パクリと一切れ口に入れモグモグと味を確かめながらジークフリート様が食べる。


 食べる所作も綺麗ですわ。好き!

 パイを飲み込むと


「美味しいですね!これ!!」

 と笑顔になる!ああっ!眩しい!!


「では次は左のをいただきます」

 とジークフリート様が私のパイを口に入れる。ドキドキしつつも顔に出さないよう私は平静を装い見守る。


 ああ!私が早起きして作ったパイが今、ジークフリート様の口の中にいる!私もミートパイになりたい!ジークフリート様の胃の中に入れるなんて幸せなパイね!


「ん…これも…美味しい!うーん…」

 と悩む。美味しいって言ってくれただけでマリアンネは天国まで旅立てますわ!


「最後は右のをいただきます!」

 とハークの作ったパイを食べるとジークフリート様の目がキラキラした!


「うっ!美味い!!美味しい!口の中でミートが弾けて肉汁が充満し幸せになれる…。肉になる前のウサギが野山を駆け回る光景までイメージできます…!なんだろう!この幸せなパイは!間違いなく絶品です!」

 と料理評論家みたいなコメントを残してついハークの口元が歪んだ!

 それを見てジークフリート様は…


「あ、これはハークさんのお料理なんですね!?さすがプロです!凄いなぁ!こんなの毎日食べているんですね!!マリアンネ様!」

 と感心した。結婚したら毎日ハークの料理食べ放題だけど婚約破棄されるなら無理でしょう。


「…お見事です!流石ジークフリート様!」


「いいえ…残りはこの二つどちらか…」

 と悩んでいる。ジークフリート様は真ん中の皿と左の皿を交互に見て悩む。悩む姿も可愛いし素敵!


 でも当たったらクリアしちゃうわね。シモンの料理と私の料理の違いはほとんど無いかしら?お互いに練習時に味見したが味も似ていた。私の方が少し塩分控えめなくらいだわ。


 これは難問である。

 ジークフリート様も首を傾げている。僅かな差ですものね。


 正解でなくとも次あるのよ?

 とドキドキしながら待つ。

 そしてジークフリート様が選んだのは…。


「僕が選んだのは……こちらの少し塩分控えめのやつです!さっぱりして美味しくて女性らしさを感じました!!違ったらすみません!!」

 となんと私の作った右のパイだった!!


 当てたーーーー!!!


 なんなの?ジークフリート様は変な力でも持ってるの??


「あ、やっぱり違っていましたか?あはは…」

 と笑うがパチパチと拍手するシモンとハーク。


「正解でございます!ジークフリート様!それがお嬢様の作ったミートパイです!!」


「凄えな!ジークフリート様は!舌がこえてるぜ!」

 とハークも褒める。


「ええ!?本当に?当たった…!?」

 と驚くジークフリート様。


「ええ…私も驚きましたわ。よくお気付きになられましたわね」


「ほとんど勘ですけどね。よく似ていたので…」

 と照れる。


「これで第九の条件もクリアしてしまいましたわね!流石ジークフリート様ですわ」


「あ…はい」

 と元気が無さそうだ?

 まさか私のパイを食べて実はそんなに美味しくなくて食当たりでもしたのかしら!???


「残り一つだと思うと…何というか…寂しいですね。……えとすみません、僕が婚約破棄したいと言ったのに…」

 と言うジークフリート様。


 そんなの私だって寂しいわ。


「まぁ、婚約破棄後にジークフリート様に良き人が出来ましたら私ご相談に乗りますわよ?」

 このくらいならしてあげてもいいの。ジークフリート様には幸せになっていただきたいし。


「あ、はあ…。…それであのう…不躾ながら…このミートパイはまだありますか?お土産にして持ち帰りたいのですが」

 とジークフリート様が言う。シェフのものかしら?


「ええ、いいですわよ。ご家族が多いので包ませますわ」


「ありがとうございます!では全ていただきます!!うちは兄達が多いので!!」

 えっ、まさかの全部持ち帰りだった!!


 ジークフリート様はパイの包みを護衛のグレゴールに持たせて馬車へと乗り込み私に手を振った。


 残り一つとなった条件にどうしたものかと悩む私だった。





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