第25話 第八の条件

 婚約破棄の条件は残り3つとなってしまった。はぁ。後少しで婚約破棄なのね。ぐすん。

 婚約破棄されたら私はもう他の男性と結婚などしたくも無いし…女公爵として生き、適当に養子を貰い、その子を後継にするしかないわね。ぐすん。

 ああ…ジークフリート様と結婚したかった…。ぐすん。隣に立つのが私ではない誰かなどと考えたらその女を崖から突き落としてやりたい。ぐすん。


「お姉様…大丈夫ですか?」

 カフェでルミナとランチをしているが浮かない顔の私を心配してくれている。なんて優しくていい子で私に少し似て可愛らしいのかしら!シモンという変態執事に恋していなければもっと良い婚約者探しをしてあげるのに!

 当のシモンはやはり私に踏まれたがっているし。


「大丈夫よ…。はぁ…」

 とため息ばかりだ。


「こないだの擬似監禁生活満喫されましてしばらくは浮かれて何も手につかなかったと言うのに正気に戻ると後三つで婚約破棄してしまうという現実に打ちのめされ落ち込んでいるのですね?


 ストレス発散に私を踏んづけるのお勧めですが…」

 無視である。


「放置プレイも中々でございます」

 無視である。


「第八の条件はどうしましょうかしら?何か案がある?」

 と聞いてみる。


「…ここまで来たらもうお嬢様とのお子を作られるとか?」

 無視である。


「…うーん?ジークフリート様に踏んづけてもらう?」

 とルミナが言う。シモンに感化され過ぎてるわ。


「困ったわねえ。はぁ」

 とため息をつくとシモンは


「では絵などどうでしょうか?」


「「絵!?」」

 私とルミナが揃って声を出す。


「はい、絵でございます。そう言えばお嬢様はお見合いの時の姿絵一枚しかお持ちになっていないと気付きました。腕のいい画家にいくつか描かせておきましょう。ジークフリート様には婚約破棄後にストレス発散に絵を切り刻む為とか言っておけばいいでしょう」


「うーん…そうね…絵ねぇ…」

 確かにお見合いの時の姿絵しかないし、しかもそれは子供の頃の絵だし。

 婚約破棄されてもジークフリート様の絵があれば会えなくても寂しくないかも。


 するとルミナはパンと手を打ち


「そうだわ、どうせならジークフリート様にお姉様の絵を描いてもらったら?」


「え?ジークフリート様に私の絵を!?」


「はい!画家にはこっそりとジークフリート様の絵を描かせておき、お姉様はジークフリート様に絵を描いてもらう。絵を描いている間はジークフリート様はお姉様のことを見つめるしかありませんのよ?」

 と言う夢のような時間を想像して思わず


 ブッ!!

 鼻血吹いた!!


 シモンが直様布で抑えた。


「採用するわルミナ!」

 と言うとシモンは


「お嬢様…その間倒れたり鼻血出したりはしないでくださいね?」


「もちろんよ。ジークフリート様の前でみっともない真似するわけないでしょ?私のプライドが許さないわ!彼の前ではいつも完璧なの!私!」

 内心では鼻血大洪水だろうけどみっともない姿を見られたら死んだ方がマシですわ。きちんとしないと!


 こうして私は第八の条件を手紙に書き渡してもらった。


 *


 次のお休みに私のお部屋にジークフリート様を招いた。ジークフリート様は学園で使う絵の具などを持ち青ざめてやって来た。


「ジークフリート様?顔色が悪いですけど体調が悪いなら別の日にしますか?」

 と心配すると


「い、いえ…あの…そ、そうではなくてですねぇ。ほ、本当に僕がマリアンネ様の絵を描いていいのでしょうか?専属の腕のいい絵師に描かせた方が良いのではないでしょうか?


 僕…そんなに絵を描くことは得意ではないので…」

 と言う。


「そんな事を気になさっていたのですか?いい機会ではないですか?練習だと思って描けばいいのです!私どんな絵だろうとも気にしませんわ!」

 と言うとジークフリート様は


「わ…わかりました……描きます…」

 と準備に取りかかる。

 私はソファーに座らされて完璧なスマイルを作る。


「うぐっ!」

 とジークフリート様が心臓を抑えて呻く。


「どうかしましたか?」

 と言うと


「な、何でもありません。準備出来ましたので描き始めますね!」


「よろしくお願いしますわ!」

 とジークフリートは真剣に絵を描き始めた。蒼の綺麗な瞳が私を何度も見ている!くっ!耐えるのよ!マリアンネ!!

 ああ!ジークフリート様が私を隅から隅まで見てくれている!嬉しい!

 恥ずかしいけど幸せ!


 しばらく経つとようやくジークフリート様は筆を置いた。


「一枚目ができましたけど…」

 と自信なさげに言う。

 私は立ち上がり


「まぁどんな感じに仕上がったのかしら??」

 とジークフリートの方に近寄り絵を覗き見た…。絶句した。


「………」

 これは…一体!?何の生物かしら?と言うほどには下手くそだった。

 灰色の毛皮に赤いのがチョンチョンとついててドレスらしきものが首を絞めている。


「…ど、独特の筆遣いですわね…」

 と言うとジークフリート様が涙目で


「いいんです!下手なのは自覚してるので!!ごめんなさい!こんな絵燃やしてくださいね!!」

 とジークフリート様が言う。


「そんなことしませんわよ!まだ一枚目ですしそんなに落ち込まないでください」

 と励ましハンカチを渡すと


「ありがとうございます…」

 と言う。するとそこでシモンは


「お嬢様…私も描かせてもらってもよろしいでしょうか!?もちろん私の夢を形にしたお嬢様が私を踏んづけている絵を!」

 と言う。


「は!?どんな絵よ?…まぁいいわ、あんたの絵なんてどうでも。好きに描けばいいわ。ジークフリート様より下手そうだし」


「酷い…ですが嬉しいです!」

 とシモンもジークフリート様の横にキャンバスを置き描き始めた。

 二人はこちらに視線を寄越し描いている。


 そうしてジークフリート様の2枚目とシモンの変態的な絵が出来上がった!

 一枚目と同様に毛皮がいる。

 そしてシモンの絵は…


「な、何ですって!?嘘でしょ!?」

 見ると私がシモンを踏みつけシモンは恍惚な顔をし。また構図も凝っており完璧な踏みつけをしている私の絵で……。


 めちゃくちゃ上手い!!?


「わ、わぁー!シモン様上手いですね!こんな才能がお有りとは裏ましいです!!」

 とジークフリート様が関心した。


「お褒めに預かり光栄でございます!


「ど、どうしたらそんなに上手く描けるのですか!?」


「ジークフリート様の場合…まずお嬢様を人と捉えてください」


「わぁぁん!捉えてますううう!!」

 と泣き出すジークフリート様。


「ちょっとなんてこと言うのよシモン!確かにモップみたいだけどこれは私なの!」


「わぁぁぁん!ごめんなさいいいい!!」


「ううむ…ではお嬢様の画力はどうなのです!?」

 とシモンは言う。


「私?普通よ?」

 結局私も絵を描くことになった。ジークフリート様をモデルにしてジッとしてもらう。


「……」

 なんだかプルプルしているジークフリート様。


「ジークフリート様?動かないでくださいね?」


「あっ、はい!!」

 ビシっとしたが数秒後にやはり小ギザミに震えてるような??


 とりあえず私も描き終わってシモン達に見せた。


「ほう…お嬢様の絵は何というか…描けておりますが…なんでしょうこの背景の薔薇は?薔薇この部屋にありませんけど!?」


「うっ!これは!背景が寂しいからよ!!」


「でも…上手くも下手でもなくて羨ましいです!ちゃんと人だってわかるし…僕のなんて…、こ、これクリアできないんですか?うっ!」

 と泣き出すジークフリート様。

 胸が痛いわ!


「あ、安心なさって!絵は誰しも個性があるものですもの!クリアでしてよ!!ありがとうございますわ!ジークフリート様!」


「ほ、本当に!?こんな下手くそな絵…クリアしてもいいのですか!?」


「お嬢様…本当に?」


「ええいいのよ。これで第八の条件もクリアね」

 と私はジークフリート様を慰め帰らせた。それから絵を飾り、更にこっそり隠れてジーフリート様を描いていた本物の絵師に絵を貰い買い上げそれも飾る。


「うう、美しいわ!ジークフリート様!!」

 と絵師の描いたものにときめいているとシモンがジト目で


「やっぱりこのモップみたいな絵と比べたら…」


「ジークフリート様が一生懸命描いてくれた私を馬鹿にしないで!!」


「申し訳ありません」

 とシモンは謝り自分で描いた絵を飾り付けようとした。


「ちょっと!あんたの変な絵は飾らないでよ!!」


「私の方が上手いのになぁ…」

 と文句を言いつつもシモンはその絵を持ち部屋を出て行ったのだった。





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