第19話 私の理想の王子様のために(ルミナ)

 私…ルミナは…貧民街のスラムに住んでいた。赤ん坊の時にお母さん?に捨てられて泣いているところを親切なお爺さんショーン爺さんに育てられた。

 赤ん坊の私にミルクを飲ますためにショーン爺さんは必死に僅かなお金を稼いで飲ませてくれた。それが例え街ですれ違った人の財布を盗む行為であっても…。生きていく為には仕方がないことだった。


 スラムではそれは普通の生き方で誰もかれもではないが悪い事をして食い繋いでいる人が多い。ショーン爺さんは私にも盗みのテクニックみたいなものを教えた。

 何があっても生きて行けるようにと…。


 そして10歳になる頃にはショーン爺さんは永眠した。


 悲しかったけど…お爺さんが小さい頃誕生日のプレゼント…(私を拾った日)に前から欲しかった絵本をくれた。私はそれを夢中で読み聞かせてもらった。


 貧しい少女にある日天使からいつか王子様が迎えにきて女の子は王子様と幸せに暮らしました。というお話に目を閉じて想像した。

 スラムの子供たちは皆バカにしてそんな奇跡みたいな事は起きないと言ったが夢を見るくらい許されるだろうと毎日必死で生きてきた。


 そして…15歳となった私の元に…何か本当に王子様ではないか?と思えるくらいに身なりをきちんとした紺色髪で琥珀色の瞳を持って優しそうな笑顔を向けてくる人が私を迎えに来た!


 カッコいい!

 第一印象で私は彼を見て心臓が高鳴った!

 本当に王子様…いや私の王子様に違いない!


 彼は私を知り合いの伯爵家の養女にする手続きなどをしてくれた。レンブラント夫妻はとても喜んでいた。

 私はこれから貴族となるんだ…。

 シモン様には感謝しかない!!


 そしてある程度日にちが経った頃にシモン様に連れられて大きな公爵家に行った。そこで私の腹違いのお姉様とこっそり面会させられた!!


 初めて見たお姉様は私と同じ銀髪に血のような赤い瞳で少し怖い印象を受けた。


「貴方が私の妹ね。初めまして。マリアンネよ。よろしくね」

 と言われたので怯えつつも私達は密かに仲良くなる。


 そして…


「貴方には…私の婚約者の次の婚約者候補になって欲しいの。私はもうすぐ婚約破棄されるの…。ジークフリート様と言うの。侯爵家の六男よ」

 と言われた!


「ええ!?私が?な、何故ですか!?」

 するとシモン様が今までの経緯を説明してくれた。私はその為に養女となったの?いや、お姉様は純粋にあの暮らしから助けてくれたと言うのに…


 でも私はシモン様の事を…。

 と彼をチラリと見ると熱い眼差しでお姉様を見ている事に気付いた。……そうか…シモン様は…お姉様のことお好きなんだわ。私では敵わないわ…。


 私は覚悟を決めた。


「わかりました。私の役目を全うします。お姉様が婚約破棄されたら私はジークフリート様の婚約者となってみせます」

 と言い、次のお休みにお姉様とシモン様、ジークフリート様という綺麗な顔の方とお会いした。


 ジークフリート様は第六の条件の説明を受けてチラリと私を見て青ざめた。


「えっ…婚約破棄後はこの方を婚約候補にする事が第六の条件…ですか!?」

 とジークフリート様は手が震えていた。


「そうです。この子…私に似ているでしょう?実は内緒ですがお父様の隠し子で本当に私の妹なんですの」

 とお姉様が言うと更に驚き


「ええっ!か、隠し子!??」

 とジークフリート様は驚き、またシモン様は丁寧に私のことを説明した。すると今度は申し訳なさそうにこちらを見るジークフリート様。


「では…ルミナ様も納得しているのですね?」


「は…はい…よろしくお願い…します」

 と頭を下げた。お姉様とシモン様の言うことは聞かないといけない。またスラムに戻りたくない!悲しくて堪らないけど私は我慢する事にした。


 ジークフリート様は考えるように私を見ていた。そして


「マリアンネ様…この第六の条件は…飲めません!!」

 と言った。なんで…。

 お姉様も驚きジークフリート様を見た。


「あらそれはどうしてかしら?私との婚約破棄後に幸せになってもらいたくてこの条件にしたのに…クリアできなくてもよろしいのですか!?」

 とお姉様は言うと


「……この条件は…クリアできないです!だって!!…ルミナ様は無理をしています!!たぶん他に好きな人がいるのでしょう」


「まぁ…そうなの?ルミナ」

 とお姉様がこちらを見る。私は震えて


「わ、私如きがそんな!」

 嫌だ!スラムに戻りたくない!!


「ルミナ…貴方の好きな人は………もしかしてシモンなの!?なんかチラチラシモンの方を見ているけど」

 となんかバレバレで私は真っ赤になった。シモン様は


「おや…そうなのですか?どうしましょうか…」

 と普通に返してきた!!きゃあああああ!!こんな形で私の気持ちがバレるなんてええ!!


「ふふ、やはりそうなの?困ったわねえ。ジークフリート様には清楚可憐な方をご紹介して幸せになってもらいたかったのだけど、妹にも幸せになってほしいわ。でもシモンはあまりお勧めしないわよ?ルミナ」

 とお姉様は困ったように言う。まさか!反対されてる!?私は血の引くような思いだ。まさか、お姉様とシモン様は愛し合っているのだろうか!??


 ジークフリート様は


「あ、あの…な、何故ですか、マリアンネ様?ももももしやシモン様と貴方は…」

 と言うのでお姉様は首を振る。

 そして怒る。


「ジークフリート様もルミナも勘違いしている様ですわね?この男は私の執事ですわ。まぁ確かにシモンは私の事が好きなのですが、その私への愛情は捻じ曲がっておりますの!


 このシモンはね?私に痛ぶられることを何よりも生き甲斐にしているど変態なのです!そんな者を妹とくっつけるわけにはいきませんわ!


 ルミナ?考え直した方がいいわよ!?」

 と言うとシモン様が恍惚な顔をして


「ああっ!お嬢様がとうとう私の本性をお二人に暴露してしまった!恥ずかしい!ああっ!その美しい御御足で私の事を踏んづけてほしい!!」

 と言った!


 私とジークフリート様はその変貌にポカンとしていたが


「ルミナ…これがこの男の正体よ。普段澄ましているけど本性は自分を踏んづけてもらいたいって言う変態な夢を持ってるのよ?全力でやめたほうがいいわよ?ねっ?」

 と言われた。

 しかし私は…


「お姉様…確かに意外でしたわ。シモン様の本性がそんな事だなんて……。でも…私…私だって見た目はお姉様に少し似ておりますわ!頑張ってお姉様の真似をしたらシモン様も振り向いてくれるかもしれませんわ!!」

 と言うとお姉様が今度は青ざめた。


「えっ!?ルミナ!貴方本気なの!?そこまでこの変態を想って!ちょっとシモンあんたのせいよ!何変なフェロモンを妹に振り撒いてるのよ!冗談じゃないわよ!このど変態!」

 と怒るとシモン様はブルリとして


「お嬢様のお怒りが私のご褒美です!!」

 と言う。ジークフリート様もなんか青ざめてひくひくしていた。お姉様はジークフリート様の手を握ると


「ジークフリート様!お願い!第六の条件は妹をまともに戻す事にしてくださる!?」

 と言うとジークフリート様は握られた手を見て真っ赤になっている。

 あれ?

 なんで?

 ジークフリート様って…お姉様と婚約破棄したいんじゃないの?てっきり嫌いなのかと思ってたけどこの反応は明らかにお姉様に恋をなさっていて矛盾してるわ?お姉様も何で気付かないの?めちゃくちゃわかりやすいのに!?


 するとシモン様と目が合い彼は楽しそうに目を細めしっと口元に指を持って行った!!


 こ、この状況を楽しんでらっしゃるわ!シモン様がそう言うなら私も言いませんわ!


 結局第六の条件は保留になったけど私は複雑な恋の矢印に悩まされたのだった。


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