第18話 スラム街の少女(シモン)

 私…シモン・デ・ペッチ伯爵家三男はカウン公爵家の一人娘マリアンネ様に恋しております。彼女の美しい足でグリグリと私のを踏んでもらうのが夢であり結ばれるとは思っておりません。忠実な下僕として執事として彼女の願いは叶えてあげたいのです。


 マリアンネ様はジークフリート様との婚約破棄の為の条件…第六の準備のため私にこうしてスラム街を捜索する様に言い付けられました。


 マリアンネ様はカウン家の一人娘…。将来は婿を取り家を継いでいく身。

 しかしながら…マリアンネ様のお父様であられるドランド公爵様には実はお母様のヒルデリア様の目をたった一度盗み…たった一度の秘密の過ちを犯してしまったのです。


 そう…浮気…。たまたま喧嘩した公爵様と公爵夫人。ドランド様はむしゃくしゃしており高級娼館へ行き、娼婦を抱いてしまったのです!たった一度の過ちでございました。


 しかし…その娼婦は後にドランド様の子を身籠もってしまわれました。


 当然ながらその子を認知することなどできませんでした。ドランド様もたった一度でできるものかと疑っていました。金目当ての娼婦はたくさんいるのです。


 娼婦が押しかけて奥様にバレましたがドランド様は娼婦に金をやり返しました。そして娼婦は生きていくために子供を産みましたが育てることは出来ず…スラム街に放置したのだそうです。


 ここまでが調査に残っております。

 そう…マリアンネお嬢様もこの事を知っています。聡明なあの方は妹の存在に気付いていてこれまでもスラム街の捜索を影達にさせており…たまに支援の手を差し伸べていました。もちろん名乗らずに。


 *

 ということで私はスラム街に住む少女ルミナ様を迎えにきました。彼女は成長しマリアンネ様に容姿が似ているはずです。影達からの報告でも面影はあるとなっています。年はマリアンネ様より二つ下ですね。


「さて…確かこの先を曲がった所でしたかね?スラムは入り組んでいてわかりにくい…」

 と歩いていると前から柄の悪そうな奴らが歩いてきました。


「おいおい!こんな所に綺麗な服着た男がいやがる!服を剥いで売っちまおう!」

「いいねえ!今夜は酒奢れよな!」

「なぁ、兄ちゃん…大人しく財布と服を寄越したら痛い目見なくてもいいぞ?」

 と言う男達。


「…痛い目に合うのはお嬢様からがいいのでむさ苦しい男性からはお断りですよ」

 と言うと男達はゲラゲラ下品に笑い


「おいおいおい!こいつ…痛い目に遭いたいらしいぜ!変態かよ!」

 と言う。これがお嬢様の口から出たらご褒美ですが男に言われても嬉しくない!


 男の一人がナイフを取り出して向かってきたので私はひょいひょい避けて足を引っ掛け転ばせてやると男は真っ赤になり手下達に


「ちょこまかと!おい!てめえら!そいつを取り押さえろ!」

 と指示し両脇から男二人が挟み撃ちのように私を捕まえようとするので俊敏な動きでしゃがみ込み両手でそれぞれの男達の足首を私の袖から除く細い鉤針で切り付けると男達は痛がり地面に転がりました。


「なっ!畜生てめえええ!」

 指示していた男は再び起き上がりナイフを持ち突っ込んできます。


 私のお腹目がけてナイフを振る男。ナイフを持った手を掴み男の動きを止め私は思い切り足で男の顎を蹴り男は白眼で地面に倒れました。


「ひいっ!!」

 手下達は逃げ出してしまいました。置いてかれた男可哀想。


「さて…ルミナ様の元へ」

 パンパンと服についた埃を払い狭い道を通りとある掘立て小屋のような所へ来ました。

 トントンと戸口を叩くと


「はい…」

 とボロボロの扉がギイイと軋んだ音を立てて開き…中から…銀の髪に赤が霞んだような薄桃の瞳の少女が出てきました。顔は煤が付いていたりしているが中々マリアンネ様に似て面影がある。マリアンネ様はどちらかと言うと父親のドランド様に似。ドランド様は銀髪で薄桃の瞳です。


「初めまして…貴方はルミナ様ですね?」

 と私が丁寧ににこりと言うとルミナ様はビクっとしながらも


「ど、どうして私の事を……」

 と消え入りそうな声で言う。


「驚かせてすみません。貴方を…迎えにきました」

 と言うと…彼女は薄桃の瞳を大きく開き

 ポッとして


「ふぁ……おおおお王子様が…現れて私を迎えに…きた!?絵本みたい…」

 と言った。


「残念ながら私は絵本の王子様ではありませんが…貴方にはこれから貴族の養女になってもらいます」


「えっ!?…よよよ養女…ですか?」


「ええ…この生活から抜け出したいでしょう?」

 不衛生、道端にゴミや糞…病気や変な薬を飲み廃人になる者…、日常的な暴力にここの環境がいいわけがなかった。


「ほ、本当にここから抜け出せるんですか?」

 怯えたように言う彼女に優しく私は微笑むと


「ええ…知っていますか?貴方は本当はお姉さんがいるのです。お姉様は貴方をずっと探しておりいい暮らしをさせたいと念入りな準備を整えてきました。貴方が幸せになるようにと…」


「お…お姉さんが私に…いるなんて…」

 彼女は驚いていた。

 実の母親にゴミのように捨てられた赤子の彼女を救ったのはスラムに住むお爺さんだったようだ。彼はもう既に亡くなったが赤子を育てるために必死にミルク代を稼いでくれたらしい。


 彼女の誕生日になけなしの金を使い絵本を買い読んで聞かせていてそれは貧しい家の女の子に天使からいつか王子様が迎えにきて女の子は王子様と幸せに暮らしましたと言う物語だ。


「貴方はお姉さまの計らいでレンブラント伯爵家の養女となります。私の兄の嫁の弟の友人の親のそのまた友人の伯爵家です。子供ができない伯爵夫婦なのです」

 と言うと


「そ、そんな!私が伯爵家の養女…本当に…」


「さぁ、行きましょう。ルミナ様。綺麗になりお姉様とお会いしてみたいでしょう?」

 と言うと彼女は私を見てポッとしてうなづいた。


 こうして私はレンブラント伯爵家にルミナ様を連れて行った。

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