第4話 デートの準備は完璧に

 次の日また放課後人気のない所でジークフリート様を呼びつけ私は条件を突き出した。


「え?…デート?それが…第一の条件ですか?」

 紙を見てポカンとするジークフリート様。


「…ジークフリート様?まさかただのデートと思っていません事?よく見てくださいまし!条件として…ここに!ただし私を満足させときめかせる事ができた場合のみ第一の条件はクリアとなる。第一の条件がクリアできない場合は第二の願いには至らないとね!!」

 と指差すとジークフリート様は紙をよく見る。ふふ!相当小さい文字で付け足してるからですわね!


「ほ、本当だ!ちっさ!!…いや、すみません!ときめかせるとは…キュンとさせるってこと!?そんな…僕にはマリアンネ様をキュンなんてとても出来そうにない…どうしよう…」


「ふっ…情けないですわね?それでは婚約破棄など到底できませんわね。そのキュンを私が出来るまでは何度でもデートしてあげてもよろしくてよ?まぁ出来ませんがせいぜい頑張ることね」

 と冷たくあしらう。内心では既にキュンキュンのドキュンでこれで何回もジークフリート様とデートできると浮かれている私ですわ。

 常に私の態度が保たれていれば可能。絶対に本人の前でキュンなど見せるものですか!公爵家令嬢の名にかけて!


 いざ!デートですわよ!ジークフリート様っ!


 と私は気合を入れることにした。


 *


「まずデートのドレスね!!シモン!ドレス職人に手配を!最高のドレスを選ぶわよ!!」


「はいっ!お嬢様!」

 とシモンはドレス職人を呼びつけ流行のモノをこれでもかというほど試着させ私はゼェハァ言いながらも必死にデートのドレスを選ぶ。ジークフリート様に何としてでも


「綺麗です」

 くらいは言って頂かないと!!

 これは乙女の戦いよ!!全力で挑むわ!


 そうして私は街歩きでも目立つ流行の素敵な緑の春ドレスを着ていくことにした。


「おー!お綺麗でございます!!お嬢様!!ああ!そのドレスを着て踏んづけていただきたいほどに!」

 と言うシモンに


「あんたに綺麗とか言われても嬉しくないのよね」


「ああっ!辛辣なお言葉ありがとうございます!!」

 とお礼を言われる。


 そうしてドキドキしながらデートの日を待つ私。乙女すぎるけど周りには私が恐ろしい顔をしながら物凄いオーラを放っている様に見え、近寄ってこない。


 しかし一人だけ噂を聞きつけた憎きライバル公爵家の男色変態教師(顔だけは女生徒を虜にする変態)コンスタンティン先生が話しかけてきた。


「おい、どういうつもりだ。聞いたぞ?いたいけなか弱いジークフリート君をたぶらかしデートに誘ったそうだな!はしたない!流石カウン家の令嬢だ。命令すれば何でもできるというその思い上がり!許せん!」

 と言いがかりをつけてくる。


「あらコンスタンティン先生…生徒に目をつける方がいかがわしいですわよ?それに男色の気持ち悪いベッケル家に言われたくないですわね!」


「なんだとぉ!?プライドだけは一人前だな!大体好きになるのに男や女教師生徒など関係あるか!」

 いや、大有りよ。問題になるわ。


「いいか!?マリアンネ君!ジークフリート君を救えるのは俺だけだと思っている!今は高慢な女に囚われているが必ず救い出してみせるからな!!そして彼と幸せになるのは俺だ!


 カウン家なんかに渡してたまるか!!」

 と宣戦布告される。くっなんて忌々しいの?変態ベッケル家はこれだから嫌なのよ!!


「はぁ?救い出す?何を仰ってるのかしら?こんなのが教師だなんて恥ずかしいですわね?私とジークフリート様は正式な婚約者ですわ!デートの一つや二つ当然のことですわ!


 女の私に負けるのが悔しいみたいですわね!!先生?」

 と牽制してやるとコンスタンティン先生はギリギリしながら


「教師に楯突く君も態度が悪いな!」


「あら?私のカウン家に味方する教師陣も多いことお忘れなく?」


「そっくりそのまま返すぞ!ベッケル家に味方する教師陣も多いからな!」

 ふんとお互いに顔を背け私は去る。カウン家とベッケル家は言わば天敵同士。仲良くする事はない。


 するとひょこりと顔を出す私の取り巻きのリア・ジビーラ・チェコヴァ伯爵令嬢が現れる。

 茶髪緑目の愛想が良い女のだが、私のジークフリート様に恋をしており隙あらば奪い去るつもりで動向を探り取り巻きのふりをして側にいる事を知っている。したたかな女である。


「ご機嫌よう!マリアンネ様!聞きましてよ!ジークフリート様とデートされるとか?」


「あらやだ何故そんなに噂になっているのかしら?」

 まぁ流したの私がシモンに命じたからだけどね!こうして噂を流し私とジークフリート様はデートもする仲だからとアピールをしているのだ!!


 乙女舐めんなよ!?ですわ。

 誰であろうと私とジークフリート様の仲は引き裂けなくするんだから!!例え本人であろうともね!


「でも…ジークフリート様にはその気はあるのかしら?ああ、聞いた話ですわ、ほほほ!」

 何がほほほだ!調査したに決まっている。この女抜け目がない!このハイエナ女が!


「まぁでも簡単ではありませんわねぇ、知ってまして?一年の例の王女様が噂を聞きつけてジークフリート様に泣きついてらっしゃるのよ?見苦しいったらありませんわ!」

 とリアは笑う。敵に塩を贈るとはこのこと。


 一年のニーナ・フランクフルト・エーレンリーダー第四王女。

 あろうことかジークフリート様に目をつけた王女はジークフリート様を


「お兄ちゃん」

 と呼び媚びて甘えジークフリート様もその可愛さに妹の様な感情を持っているのだ!何故なら!彼は6人兄弟の末っ子で下に兄弟姉妹がいないので甘えてくる妹みたいな王女を邪険にしないのだ!

 そこにつけ込んだ腹黒王女恐るべしである!とシモンの報告書で読んであらかじめ知っている私だ!


 私はツカツカとリアと中庭の方に行くと…ジークフリート様の護衛騎士の友人のグレゴール・ヨーゼフ・アタライ様が横に立ちベンチにはジークフリート様とニーナ王女があろうことかジークフリート様の膝でころんと横になり甘え顔で


「お兄ちゃんーー!!デートなんかしないでえ!?あの人ー!すっごく怖いのよー?いつもーニーナのこと睨んでくるのよ?」

 と私の悪口を吹き込んでいた!!いやそんなことよりジークフリート様の膝でよくもそんな話を!リアも震えながら


「王女様がなんてはしたない!!…シネ…いえ…婚約者のマリアンネ様をあんな風に仰るなんてぇ!」

 と誤魔化していた。


 ジークフリート様はそんなニーナ様の髪を撫でてやりながら


「ニーナ様…そんな…た、確かにマリアンネ様は恐ろしい方ですが……僕がキュンとさせればきっと婚約破棄に一歩近づけて…相応しい方ができるでしょう!」

 とにっこりした。

 グサリと剣が突き刺さったような敗北感!!くっ!ニーナ王女はニヤニヤして


「そっかあ!別れるためのデートなんだね!じゃあニーナも応援するね!頑張ってねお兄ちゃん!」

 と言い、リアも


「頑張ってくださいね。ぶふっ!いえ、マリアンネ様?」

 と言った。こいつら!!私とジークフリート様とをそんなに婚約破棄させたいかあ!?まぁさせたいわよね!ライバルだし!


 私はジークフリート様の前に出た。ビクっとジークフリート様がこちらに気付いて青くなる。


「随分と余裕があるのですわね!ジークフリート様!ニーナ王女をお膝に乗せるとは!」


「あ…えと…あのニーナ様は妹…」


「妹ではありませんわ!血が繋がってないなら他人ですわ!!王女もはしたないですわね!どういう教育を受けられたのかしら?


 まぁいいですわ!ジークフリート様!私はデートを楽しみにしていますわ!果たして何回デートする事になるのかしら!?せいぜい頑張ることね!!」

 と言いリアを放置して私はその場を去った。


 ふん!何よ!こうなったら結婚するまで意地でもキュンなんてしないわ!ジークフリート様のバカあ!


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