第10話 開会式

 馬車から順番に試験の参加者が降りていく。


 参加者のほとんどは血の気が多い『狩人』のため、順番を守らずに我先にと降りてしまう人たちも結構いた。


 俺は真ん中付近に乗っていたので、人を押し退けて無理やり降りることができないので、大人しく自分が降りる順番を待つことにした。急に動くと吐きそうだったし丁度いい。


 ふと、他の馬車を見てみると、正座をしながら微動だにせずに降りる順番を待っている人がいた。全体的に白い装備に身を包んでいる、どうやら女性のようだ。


 女性の参加者自体は珍しい訳ではない。もちろん筋肉量などは女性よりも男性の方が生物学的に多いため、モンスター退治には男性が向いていると思われがちである。だが、筋肉による怪力が要らない魔術師と言う職業もある。また、体内の魔力を操作することで莫大な力を生み出すことも可能である。なので、魔力の扱いに長けている女性が狩人になるのは良くある話である。


 それよりもあそこまで綺麗な姿勢を維持しているのはすごいな、と横目に見ながら俺は馬車を降りるのだった。


 馬車を降りた俺は、他の参加者の流れに合わせて歩いていった。まだ歩くんだったら、もう少し馬車で進めばいいのでは?なんて思っていたが、すぐに馬車から降りた理由に納得することになる。最初のうちは舗装された道が続いていたが、少し進んだだけで巨木や草が生い茂った場所になっていた。さっきから歩いている道も道とはいえず、巨大な木が転がっていたり、起伏が激しかったり’している。確かにこれだと馬車は通れないなぁ。


 その状態で5分ほど歩くと、突如開けた空間に出た。これまで俺の前を歩いていた参加者の集団はその場所で止まっており、広場の奥の方にはお立ち台のようなものが用意されていた。どうやらここが目的地のようだ。


 そこからさらにしばらく待って、参加者が全員広場に集まったぐらいだろうか、豪華な鎧に身を纏った兵士がお立ち台の上に登った。


 これから『勇者選抜試験』の説明が始まるのだろう。


「これから、『勇者選抜試験』を開始する!!」


 その兵士は、遠くにも響きそうな声で話し出す。


「そして、『勇者選抜試験』の詳細な説明をこれから始める。皆、心して聞くように。」


 俺の周りにいる参加者が、一斉に視線を兵士に向ける。


「おっしゃ〜!!モンスターの討伐か!?みんなでトーナメントか!?どんなものでもかかってこいよぉ!!!」


 一人の参加者が大きな声を上げる。


 その声に反応して、他の参加者も「ウオォぉ!」といった、自信を鼓舞する声を上げる。


 俺もこれからの作戦を考えるために、耳を傾けた。



「これから、皆にやってもらうのは宝探しだ。」



 兵士ははっきりとそう言った。


「は?」


 さっきまで異性のいい声をあげていた参加者が素っ頓狂な声を出す。


「おいおいおいおい。待て待て。宝探しかよぉ?こんなクソでかい森の中でか?そんなの『勇者』に関係なくないか?」


 だが、兵士はそんな声には全く反応せず、淡々と説明を続ける。


「皆に探してもらう宝は一振りの剣だ。我々はそれを『勇者の剣』と呼んでいる。」


 兵士が手を挙げると、その背後に大きなイメージが浮かんできた。空中に絵を移すことができる魔道具を使っているようだ。


 そこに浮かび上がった剣は、一般的な剣と見た目にあまり違いはなかった。強いていうなら、全体的に青っぽい装飾が施されていることが特徴だろうか?これをこの広くで深い森の中から見つけなければならないのか。


 そして、この試験を難しくしている要素は、それだけではない。


「当たり前だが、ここ『グランドフォレスト』にはあらゆるモンスターがうじゃうじゃといる!」


 そう、モンスターの存在だ。


 モンスターは基本的に人間以外の生き物を指す。あるいは、人間に有効的なものたちと区別するために、あえて人間に敵対する生物だけをモンスターと呼ぶものたちもいる。今回の参加者のほとんどである『狩人』に対してならば、後者の意味合いが強いだろう。


 モンスターは、小さいものは人間の膝くらいまでの大きさから、大きいものになると全長が10m以上になるものまでいる。


 小さいモンスターは集団になるとそのまま人里を襲ったり、大きなモンスターは1匹でもお腹が空いて暴れ始めると、近くの村が壊滅したりする。そのため、『狩人』たちはそうなる前に依頼を受け、モンスターを討伐しに向かうのだ。


 話を戻すと、試験の場である『グランドフォレスト』は凶暴なモンスターが多いことで有名だ。なので、ただ単に『勇者の剣』を探せばいいというものではなく、襲いかかってきたモンスターに適切に対処する必要があるのだ。


「参加者のすべてが、ここのモンスターと対峙することは確実だろう。だが、モンスターとの戦いにおいて命を落としたとしても、我々は責任を一切負わないことを承知してもらおう。」


「命を落とすって・・・。そんなの聞いてないよ!」


 兵士の言葉に、そんな声が上がる。


「いや、我々はちゃんと皆に伝えているはずだ。誓約書にしっかりと記述していたはずだが?」


 そういえば、試験を受ける前に名前を書かされたなぁ。あの時何やらびっしりと注意事項が書いてあったなぁ。俺はざっと目を通したが、目を通していない人がいても何も不思議ではない。


 むしろ、兵士が言うように、目を通していなかった方が悪い。


 兵士が、これまでの話をまとめるように、次のように言った。


「参加者である皆は、この巨大な『グランドフォレスト』の中で、凶暴なモンスターの攻撃から掻い潜り、『勇者の剣』を見つけてもらう。そして、制限時間は誰かが『勇者の剣』を見つけるまでとする。なので、他の参加者が『勇者の剣』を見つけた時点で、それ以外のものは試験は終了となり、直ちにこの森から出てもらう。」


 つまり、『勇者の剣』が見つからなければ、この試験は何日でも何ヶ月でも続く、と言うことか・・・。


 兵士が大きく右腕を上げる。


 投影されていた『勇者の剣』のイメージが消える。



「これより!『勇者選抜試験』を開始する!!」



 その掛け声とともに、たくさんの参加者が『グランドフォレスト』の入り口に向かって走っていった。

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