第7話 魔道具

 俺は自分の家のベッドの上で、リクからもらった透明な球体を眺めていた。


 ベッドの上に綺麗に横並びになったそれらは、夜で暗くなった部屋の中にある蝋燭の光を映していて、とても綺麗に見える。


 綺麗に見えるこれらは魔道具と呼ばれ、見た目ではわからない力を持った物たちだ。


 この世界には、魔法というものが存在している。魔法とは魔力を使って、火を起こしたり、水を生み出したり、電気を発生させるテクニックのことだ。

 

 魔法を使う時に必要な魔力は、この世界の至るところに存在している。大気中に漂ってもいれば、植物や動物も持っている。もちろん、俺たち人間の体内にも存在している。魔法は自分の中にある魔力をコントロールし、頭の中に描いたイメージを転写することで発生させると言われている。


 一般的な人間でもそこそこの魔力は持っているが、扱いが難しく少しの火種を生み出しただけで魔力が尽きてしまう。しかし、そこで練度を高めて魔術師と呼ばれるようになった人たちもいる。彼らは魔力のコントロールに長けているため、無駄な消費が抑えられ、モンスターを倒すほどにまで威力を高めた魔法を使える。魔法は遠くにまで飛ばすことが可能なため狩りと相性も良く、狩人になっている魔術師も少なくない。


 火を生み出すなどが可能な魔法はとても便利な存在であるが、やはり魔術師と呼ばれる程まで魔力のコントロールを身につけることは難しく、一朝一夕では不可能だ。一部の天才を除いては、10年近くの歳月をかけても小さな火の玉を生み出す程度しかできない。だから魔術師は基本的に年寄りが多い。そこで生み出されたのが、魔道具だ。


 魔道具とは、その中に魔力と術式を埋め込んだ、いわば小さな魔法発現装置である。魔法が得意でない人も魔道具に魔力を込めれば、それがトリガーとなり、事前に用意されていた魔力が使用され、特定の魔法を発現できる。あくまで魔道具の中の魔力を使うため消耗品ではあるが、その利便性からさまざまな魔道具が開発された。火を起こす魔道具、そのまま飲めるほど綺麗な水を生み出す魔道具、風を起こして髪を乾かす魔道具。そして、武器となる魔道具。


 俺はまた改めてリクからもらった魔道具を見る。


 これはどうやら、魔力をこめると高速で飛ばされる魔道具のようだ。俺は火が出ているうちに外の林にある木に向かって射出してみたところ、木の幹に5cm程度の深さの穴を開けることができた。また、その威力から考えると有効射程は少なくとも100m、単純に飛ばすだけなら少なくとも300mは飛びそうだ。一撃でモンスターを倒せるほどの威力はなさそうだが、遠くからの牽制には使えそうだ。


 しかし、欠点もあった。この実験に使った魔道具は既に使えなくなってしまった。実験で2回程度使用したが、どうやらこれによって魔道具内の魔力が無くなってしまったことが原因だろう。この魔道具に魔力を注ぎ込むことができれば復活させられるかもしれないが、残念ながらそんな技術は俺にはない。むしろ、それができる人がかなり珍しく、記録が残っている過去50年のおいて、それができるほどまで魔力のコントロールに秀でていた人物はたった一人しか居なかったらしい。そもそも、300mも飛んでいく小さな物体を実践で射出したならば、回収は困難だ。もとより使い切りの魔道具なのだろう。


 使えなくなった魔道具は仕方ないが、お守り程度の気持ちで持っておくだけ持っておこう。

 俺は使えなくなった魔道具をポケットにしまった。


 残りの魔道具は2つ。貴重品だ。大切に使うことにしよう。


 俺はこんな貴重な魔道具を譲ってくれたリクに心の中で感謝することにした。

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