第3話 シュンの噂
眩しい光が目に入る。前が見にくい。
だが、自分の家は小さな村の僻地に建っている。だから、多少目をつむって歩いても物にぶつかることはない。そう思っていた。
しばらく歩いていると、
「うおっ!」
何かにぶつかり、前方から自分よりも低い声がした。
しまった。今日は珍しく、家の近くを人が歩いていたようだ。
ようやく太陽の眩しさに慣れてきた目で、声がした方をよく見てみる。するとそこには皮でできた鎧を身につけた大男がいた。
「あ、すみません。」
自分の不注意でぶつかってしまったのだ。ここは素直に謝る。そして大男の横を素早く通り抜ける。
幸いにも肩がぶつかったら脅される、というようなことはなかった。どうやら見逃してくれたようだ。だが、その大男の隣にいたエプロンを着た男がにやけ顔でこちらをジロジロ見ている。
「あれぇ?あれってシュンかぁ?まだ生きていたのかぁ。」
エプロンの男は腕を持ち上げこちらを指差しながら、大男に話しかけた。
大男は低い声で答える。
「なんだ、あいつはよ?有名なやつなのかよ?」
そんな問いかけに、エプロンの男はにやけ顔のまま答える。
「あー、まぁ、一応有名だなぁ。この辺りに住んでるシュンってやつでぇ、ぼろっちい家に住んでいるんだぁ。あんな所に住んでてまだ死んでなかったのかぁ。どうやって食って生きてんだろうなぁ?」
あの服装を見る限り、あの大男は「狩人」だろう。
この世界では「狩人」が存在する。彼らのほとんどはギルドと呼ばれる、「狩人」をまとめる団体に所属している。ギルドから発行されるクエストを受注し、それを達成することで報酬を受け取る。クエストの中には物探しや要人の護衛といったものまで多岐にわたるが、もっとも多いのは彼らを「狩人」たらしめる狩猟である。あるときは可食部が多いモンスターを食料として狩り、あるときは薬や道具の材料となるモンスターを狩り、またあるときは街に被害が出そうな危険度の高いモンスターを狩る。彼らは狩ったモンスターをギルドに納品することで、クエストを達成した証拠とする。
大男の方は分厚い鎧を身につけていたので、おそらく近接系の職業だろう。腰に剣を携えていたので「剣士」あたりだろうか。
となると、もうひとりの方は「商人」だろうか?クエストの準備のために「狩人」である大男が、商人のところでアイテムを買いに来たというところだろうか?
そんなことはどうでもいい。だが、あの2人がどうやら俺のことを話しているようだ。しかも「商人」の方は若干含みがある言い方をしている。気になるので、足を動かしながらも聞き耳を立てることにした。
続けて商人が話す。
「俺もこの辺りに店を構えてから随分経つがぁ、シュンの奴いつもボロボロだなぁ。あんだけ弱ってると北のに取り憑かれるかも知れないなぁ!ワハハハハハ!!」
「商人さんよ、そんな恐ろしいこと冗談でも言わねえでくれよ。「北の悪魔」らは俺もクエスト中にたまに見かけるが、あんなにも恐ろしいものはもう見たくねぇよ。」
ーー「北の悪魔」。
その言葉に足が止まる。
「・・・北の悪魔。」
先ほどみていた夢を思い出しながら、無意識にそう呟いていた。俺が立ち止まっていることに気がついた商人がまた口を開く。
「しかし、シュンの奴は本当にしぶといなぁ。1年前にここら辺に住んでいた奴ら全員が死んだと思っていたのになぁ。あいつだけは生き残って、今もどうやって食ってるかは知らないがぁ、かろうじて生きてやがるなぁ。」
「ちょっと待ってくれよ、1年前に全員死んだってどういうことだよ?ここで何かあったのかよ?」
全員死んだ、という言葉に、大男の狩人は驚きながら商人に疑問の言葉を投げかける。大男の方は俺が立ち止まっていることに気がついていないみたいだ。
「そうかぁ。あんたはここに来てそんなに経ってないかぁ。そうさぁ。ここはちょうど一年前に自然災害があったんだぁ。」
ーー自然災害。
商人が身振りを入れながら説明をし始める。
「竜巻っていう珍しい奴さぁ。風がこう、渦状になって巻き上がるんだぁ。そうだぁ、魔術師らが使う魔法で『ストーム』ってのがあるだろぉ。あれがめちゃくちゃデカくなったものらしいなぁ。なんでも、近くにあるものを全て巻き込んでぶっ壊していくんだとなぁ。1年前のその自然災害でここが辺り一面、まっさらになったらしいなぁ。」
ーー竜巻。
「そりゃすごいな。ここに住んでた人たちは災難だな。しかし商人さんよ。それだけのことがあったってのによ、あんたはよく無事だったな。」
「いや、俺もみてないんだぁ。その自然災害が起こって物を売る奴らもいなくなったからぁ、チャンスだと思ってねぇ。こうやってここで店を開くようになったってわけだぁ。」
ーー自然災害。
ーー竜巻。
またそれか。
「・・・・・・がう。」
商人と狩人の話は黙って聞くつもりだったが、思わず口から言葉が漏れてしまう。
「んぅ?なんか喋ったかぁ?」
少し離れた位置にいた2人にシュウの声は届かなかったのか、商人が思わず聞き返してきた。
「・・・がうんだ。・・・・・・ここは・・・。」
これを言ってはダメだ。
また、変なやつだと思われてしまう。
いや、もう変なやつだと思われているな。
でも。
2人の間に割って入ろうとした俺の言葉は、
「シュンーーーーーーーー!!!!!」
急に聞こえた甲高い声によって遮られた。
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