第2話 シュン

 大きく目を開く。

 急に視界が白くなる。眩しい。


 しかし、そんな細かいことは気にしていられない、と、反射的に体を起こす。


 じわじわと視界の焦点があっていき、目の前にいつもの風景が広がる。

 所々が黒く滲み、押したら指の形に凹みそうな木材でできた部屋の壁が見えてくる。

 裏が透けそうなほど薄くいたるところが破れている布が、足先から腰にかかっている。


 そこで気がつく。


「そうか・・・。またあの夢か・・・。」


 口から飛び出そうなほど跳ねている心臓が、苦しい。吐き気がする。

 全身から大量の汗で肌がじっとりとしていて、薄い服が体に張り付いている。気持ちが悪い。

 心臓を落ち着かせようと、体を起こしたまましばらく時間が経つのを待つ。


 それでもどんどん呼吸が荒くなる。

 少女が助けを呼ぶ声が、どんどん頭の中でリピートしている。


「落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け・・・!」


 呪文のように何回も繰り返しながら、自分に言い聞かせる。

 深く息を吸い込み、長く吐き出す。深呼吸を繰り返す。


 しばらくそうすることで、時間と共に段々と呼吸が落ち着いてくる。


「ふぅ・・・。ふぅ・・・。」


 汗だくになった額を手で拭う。

 服も汗をたくさん吸ってしまったため着替えたいが、換えのシャツはない。もうひとつの方は、昨日着てしまったのだ。

 まぁ、外に出れば日の光で乾くだろう。今は気持ち悪いが、なるべく気にしないように決めた。


 そう考えたところで、ぐうぅぅ〜と一際大きい音が鳴り響く。


「腹が・・・減ったなぁ・・・。」


 そういえば昨日の夜は何も食べていない。そうだ、昨日は1ヶ月くらい働いていた仕事場をやめさせられたんだ。


「あいつもまた1年前の話を聞いてから、俺を変な目で見るようになりやがって・・・。」


 そうだ。


 いつもそうだ。


 みんな同じだ。


 誰も俺の話を聞こうとしない。


「・・・って、愚痴ってる場合じゃないな。今日の晩御飯にありつかないとだ。」


 このことを考え始めると、むしゃくしゃが止まらなくなる。

 強制的に思考を止めるために、元からボサボサだった黒い髪をさらに掻きむしる。


「朝ごはん、食べに行くか。」


 そう言って無駄に甲高く大きい音がする扉を開けて、家から外に出た。

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