第12話 事務所にて

 「三花ちゃん、その話は本当かい?」


 「はい、これが相手が出して来た名刺になります。」


 幼稚園が終わり、僕は両親と共に所属事務所に訪れて、ピアノと歌のレッスンの先生、事務所の社長と話をしてスカウトマンが来て勧誘してきた事を伝えた。


 「確かにこの名刺はうちの会社で合っているね。そしてこの名前の従業員もいるね。スカウトマン本人にも聞いてみるよ。」


 「お願い致します。」


 「まあ、三花ちゃんにはいずれは演劇も勉強して貰いたいとは思っていたんだ。演劇すると聞いて何か思い浮かべる物は無いかい?」


 「声優がいいと思います。声の演技だけで、人々の心を魅了してキャラクターに命を吹き込む事が出来ますから。それにアニソン歌手もいいと思います。」


 僕は演劇と聞いて、顔出しNGと来て閃いた事が声だけの演技を要する声優を思い付いた。


 「三花ちゃんのデビュー曲の売り上げがすごい事になっているから、第二弾はアニソンで行ってみようかね?」


 「売り上げがすごいのは先生の作詞作曲が素晴らしいからだと思います。私はそれに乗らさせて頂いただけです。」


 「いやいや、三花ちゃん。君の歌唱力が素晴らしいからだよ。」


 「ありがとうございます。今後も精進していきたいと思います。」


 僕事三花ちゃんの歌唱力が高く評価されてとても嬉しい。前世でも歌う事が好きで、よくアカペラで歌っていた事がある。でも小学生高学年になり声変わりをして音痴になり人前では歌わなくなったという過去を持っている。


しかし三花ちゃんの美声はとても透き通りよく響く声をしている。


それを活かして今後も喉を大事にしていきたいと思った。


 「ではピアノと歌のレッスンを〇〇先生事丸々先生に今後とも指導していただいて、演劇の先生もつけようかな。三花ちゃんは大丈夫?」


 事務所社長が僕のスケジュールの事が心配になり聞いてきた。


 「はい。三花なら大丈夫です。」


 「それなら良かった。後で詳細をご両親に相談させて頂きます。」


お父さんが答え、社長と両親が後程話し合いをする事になった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 僕とレッスンの先生は事務所のある一室に来ていた。


そこで、とある楽譜を渡される。それは出来立てほやほやの新曲だった。


デモテープを聴かせてもらうと、この曲もなじみのある歌で思わず僕はその曲をBGMに登場するアニメキャラを思い出していた。


 「先生、この曲は?」


 「ああ、三花ちゃん。この曲は今度放映されるアニメの主題歌だよ。ぜひ君に歌って欲しいと思う。」


 「先生。私が歌ってもいいのでしょうか?」


 「もちろんだよ。この曲も君に歌って貰っているイメージで作成したのさ。ぜひ試しに歌ってみてよ。」


 他のスタッフ。音響監督の方等が来てスタンバイされる。そして僕はブースに促された。


 「では三花ちゃん。まずは練習で歌ってみようか。一応録音しているけどね。」


 「はい、わかりました。こちらは準備OKです。」


 「では、よーいスタート!」


 イントロが流れる。そして僕が曲に合わせ歌いだすとスタッフの方々は聞きほれていた。


そうして収録が終わると、思わずと言った感じで握手を求めらてきて、前回にお会いした方は笑顔で迎えられ、今回初めての方は畏怖の表情を浮かべていた。


 「いいよ~いいよ~三花ちゃん。素晴らしい~。まさにイメージ通りだよ。


そうそう、三花ちゃんが望むならちょい役でも出演させてもらえるように制作会社に連絡しようかい?」


 僕は大変うれしく思ったが、本来の役を獲得するはずの声優さんに悪いと思い返事を躊躇した。


 ≪雄蔵さん、どうしたの?≫


 ≪いや、ここで僕が役を願いだしたら、本来の役の人に悪いと思ってね。≫


 三花ちゃんが聞いてきたので僕は躊躇している事を話した。


 ≪でも雄蔵さんの記憶を見た限り、出演しても問題無いわよ。≫


 ≪ええと、どういう事?≫


 ≪つまりわね、本来の役の人はこの世界では存在しないの。いいえ、私。すなわち貴方のもう一人の自分。それが鏡原三花。つまりは私が本来の役どころなのよ。でもそれは雄蔵さんの前世での話。


この世界では正々堂々としていればいいのよ。何を言っているかわからない顔してるわね。


簡単に言うと、私の代わりに貴方がなっているだけよ。≫


 ≪では問題無いのだね?≫


 ≪そうよ。問題無いわ。≫ 


 僕は三花ちゃんと相談して、その結果問題無いと分かったので先生に了承の返事をした。


 「はい、わかりました。よろしくお願い致します。」


 「わかったよ。三花ちゃん。君にとっておきな役があるからね。楽しみにしていてね。」


 「先生、宜しくお願い致します。」


 ぺこりとお辞儀してお礼を言った。その後歌の収録が終わり、僕と先生は両親と社長の元へと向かって、事務所を後にした。

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 「スカウトマン君、鏡原三花。もといみかんに逢っての感想はどうだい?」


 「確かに可愛くて、礼儀正しくまさにドル箱の様な存在に見えましたぜ。うひひ。」


 「そうだろう。そうだろう。彼女はまさにわが社の宝。うちの丸々君の弟子だとは都合がいいね。


今の内から色々と面倒を見ておいて損はないと思うよ。まさに金の生る木。大事に。大事に育てないとね。ところでどうだい?他社からはスカウトが来ていたかい?」


 「いいえ、おいらが初めての様でしたぜ。うへへ。他の事務所のスカウトマンは遅れを逸して後悔していることでしょうよ。」


 「その砕けた口調は私の前だけにしたまえ。」


 「へいへい。あなたもお人が悪い。悪い。ぎゃはははは。」


 「所でみかんには演劇をすすめたんだって?」


 「だって昨晩のニュースを見た時の愛くるしさ。まさに天使の様でしたぜ。是非とも勧誘してTVに露出させたいと誰もが思いますぜ。」


 「いや、我々もすぐにでもTV出演させたいとは思うけど、本人たっての希望を断るわけにはいかなくてね。」


 「あの敏腕と言われた社長が躊躇する程の事ですかい?」


 「ああ、そうだよ。」


 「それほどまでに?」


 「うむ。そうなんだ。彼女からの企画でいくつかの案件がある。これを見たまえ。」


 そうして社長がおいらに書類を見せてくれる。


 「ええと、なになに?カバー曲?それも既存の歌手のや丸々さんの曲を歌って出すだって?」


 「ああ、そうだ。既に企画がスタートしているのもある。あとは収録待ちや権利関係で話し合っている段階だ。」


 「すげえぜ。まさにドル箱。」


 おいらは数日前に見て話した彼女を忘れられないだろう。また会えたらいいのだけどな・・・。


でも裏を返せば、おいらの事務所の後輩に当たる。会える機会はいくらでもあるさ・・・。


その時はぐひひ・・・。


 いけないいけない。おいら改め僕は素の口調が軽薄だとよく言われる。根は至って真面目なのだが、どうも言葉使いがまずい様だ。スカウトマンと言う仕事柄、相手が委縮しない様に砕けた言葉使いをしているのだが、どうやら癖になってしまったようだ。


気を付けないといけないな。


 そしてその願いが通じておいらがみかん事、鏡原三花に会うのはそう遠くない日であった。

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