第9話 ピアノの練習、そしてデビュー

 「三花、いったぞ。」


 コロコロとボールがこちらへと転がってくる。それを受け取り家族の元に転がし返して遊んだ。


今の僕事三花ちゃんの服装は体操服とブルマである。そして今は7月の暑い盛り、帽子も忘れない。


庭でしている為、腕や足を少々日焼けをして少しばかりかゆみを生じた。すぐに冷水で冷やして様子を見た。


兄達も短パン、半袖のシャツで日焼けしていた。


 それは日曜日の午前中の事、ボール遊びが終わったら水着に着替えレジャー用のビニールプールに入り日焼け後のかゆみの対処と汗を流すのも兼ねて水遊びをした。


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 午後から僕はピアノの練習の為に防音室に向かった。


そしておもむろにピアノの椅子に座り、一息つくと三花ちゃんが話しかけてきた。


 ≪椅子に座る位置は肘が90度になる様にしてね。≫


 ≪わかったよ。≫


 位置を定めいざ鍵盤を弾こうとする。実は前世に鍵盤ハーモニカを弾いた事がある。


腕の程は言わずもがな下手であったが・・・。


ちなみに基本となる『ド』の位置はどこだろうと思い、鍵盤を眺めていると三花ちゃんが教えてくれた。


 ≪鍵盤をじっくり見渡してみて。並び方になんか法則性がありそうに思うでしょ?白い鍵盤の間に黒い鍵盤が交互に並んでいると思うけど、ところどころに黒鍵が挟まっていない箇所があるよね。で、黒鍵が2本と3本となってるのが解ると思うけど、黒鍵2本の所の左が『ド』なのよ。そして、中央の『ド』。つまり左から4番目の『ド』が基本の音階なの。では『ド』の位置を探してみて。≫


 ≪わかったよ。≫


 僕は言われた通りに『ド』の位置を見つけた。そうして順番に鍵盤を鳴らしていく。


『ド』、『レ』、『ミ』、『ファ』、『ソ』、『ラ』、『シ』、『ド』と、


 ≪基本の音階の鍵盤の場所を覚えてね。≫


 なんとか基本は覚えた。問題はここからである。


 ≪まずは『ドレミの歌』から練習しましょう。≫


 そうして僕事鏡原雄蔵初のピアノ弾きの時間が始まった。セーブ&ロード能力を使用して練習時間の短縮に繋げた。反復練習なので、とにかく数をこなす。肉体的には疲れていないかもしれないけど、精神的には慣れないからだいぶ疲れた。


 しばらくすると、だが実際の時間的には練習を始めてから5分もかからずにマスターした。


5分程休憩してから『きらきら星』、『猫ふんじゃった』等弾いて身体に覚えこませた。


そもそも三花ちゃん自身が弾けるので、身体がしっかりと覚えており苦労をしたけどなんとかマスターした。


 そうして他にも数曲、休憩を挟みながら弾いてから音楽のレッスンの曲を練習する事にした。


流石に三花ちゃん用の曲の為、難しかったが弾きごたえがあった。


なにしろ、三花ちゃんの教え方やサポートがうまくなんとかうまくなってきたと思う。


 そうこうして休日が終わり、何日間かが過ぎてピアノのレッスンの日が来た。

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 「こんにちは、三花ちゃん。まずは先週に頼まれたサインを書いた色紙を渡すよ。」


 「こんにちは、先生。どうもありがとうございます。」


 ぺこりとお辞儀をしてお礼を言う。


 「それにしても三花ちゃんがサインを欲しがるなんて珍しいね。今までは無かったと思うけど。」


 「はい。この瞬間の思い出として残しておきたいと思いました。一生の宝物でとても嬉しく思います。」


 「三花ちゃん、僕もそう言ってもらえてうれしいよ。後からでいいので僕からもサインのお願いしてもいいかい?」


 「別にかまいませんけど、色紙とペンが手元にありません。」


 「いや、僕が持ってるからこれを使ってよ。」


 先生に色紙とペンを渡される。僕は三花ちゃんに、


 ≪サイン頼まれたけど、なにかサインのいい案ある?≫


 ≪いいえ。まだないわよ。ひとまずなまえを書けばいいんじゃないかしら?≫


 そうして僕は色紙に、『鏡原三花』と日付、先生江と書いて渡した。


 「ありがとう。僕もお宝にするよ。」


 先生はカバンに色紙を入れると、代わりに書類を出して言った。


 「実は先週三花ちゃんが言っていた、僕の曲のカバーを出したいという案、会議した結果許可するよ。


さしあたって三花ちゃんのデビュー曲を考えてきたんだ。題名は、『氷のララバイ』、『恋する冬の岬』だよ。


そしてデモテープを聴かせてもらった。初耳のはずだが僕にとっては聞き覚えがある。過去の名曲でものすごくヒットしたのを覚えている。本当に僕が歌っていいのだろうか・・・。


 曲が終わり、先生が歌詞とメロディーの書かれた楽譜を渡してきた。


 「では三花ちゃん、歌えるかな?これが今日のレッスンといこうか。」


先生はピアノの前に準備をして僕を待った。


 「でも先生、いいのでしょうか?私が歌っても。」


 恐る恐る聞いてみる。が、


 「いいんだよ。この歌は君をイメージした曲なんだ。むしろ歌って欲しい。」


 僕は驚いた。まさか三花ちゃんをイメージした曲だったなんて。早速歌ってみる。リズムは有名な曲なのでなんとか覚えていた。すると先生が、


 「やっぱり三花ちゃんはすごいね。今日初めて聴いた曲なのにマスターするなんて。」


 先生は拍手喝采で褒めてくれた。が、僕は複雑な心境だった。


 『いや・・・。この曲は既に何回か聴いた事があるからな・・・。』


 「よし、本格的に歌手デビューの事を考えないかい?」


 元はと言えば僕が言い出した事なので嬉しい反面、今後の事を考えると困ったなあと思った。


 「嬉しい話ですが、まずは家族と相談したいと思います。それと今はまだ顔出しNGでお願いしたいのですが・・・。」


 前世で顔出しNGの歌手の方々を何人か見かけたような記憶があるのと、大々的にデビューしてこけたとあっては目も当てられない為、保留する旨の回答をした。


 「いや、もうご両親とは先日の内に話はついているんだよ。で、快諾してくれたよ。一応君の要望である顔出しNGにするけど、被写体がいいのに勿体ないな・・・。」


 僕はふと思った。


 『そういえば、この曲はヒットソングであったにも関わらず歌手は表に出てこなかったな。これでなんとなく謎が掴めたぞ。』


 「所で、私の芸名はどうなっているのでしょうか?」


 僕は聞いてみると先生は既に解決済みだという感じで、


 「それはもちろん考えてあるよ。以前、三花ちゃんが言っていた、三花をもじって『みかん』に決定したよ。ちなみに所属事務所だけど希望はあるかい?」


 もちろん答えは決まっている。


 「先生の所がいいです。」


 「別にいいけど理由はあるかい?」


 先生が質問してきたので返答する。


 「私は先生が好きです。ファンでもあります。今後、先生と一緒により一層盛り立てたいと思います。


ですから先生、今後ともよろしくお願い致します!」


 お辞儀をして希望を述べた。


 「嬉しい事を言ってくれるね。そこまで言うなら僕の事務所所属でいいんだね?ではもうしばらく時間がかかると思うけど、期待して待っていてね。少し早いけどこちらこそ今後ともお願いするね。」


 と、先生は右手を僕の前に持ってきて目線を合わせてくれた。


すぐに意図を理解すると僕も右手を出して先生と握手した。そして僕は左手も添えて両手で握手した。


 レッスンが終わると先生は両親と正式に歌手デビューの話をした。その時は僕も同席して契約書を親がよく確認して契約が成立した。ちなみに現段階では兄達には内緒にしている。どこで情報が洩れるか分らないからだ。


 幼稚園が夏休みに入ってしばらくした頃、ピアノのレッスンの先生から連絡がありレコーディングの日程が知らされ、それまでは普通のレッスンに加え先生の曲も歌った。


そして当日になり僕事三花ちゃんは両親と共にスタジオに訪れていた。先生とレコーディング会社のスタッフの方と廊下を歩いているとすれ違った方々は会釈してきたり、通り過ぎたた後振り返りこちらを見ていた気がする。


 収録はどうにか一発撮りすることが出来、見学者の度肝を抜いた。そうしたらスタッフからもサインをせがまれて何枚か書いた。この時は単なるスキンシップであっただろうし、何気ないその他大勢の1枚としてのサインだったかもしれない。だがこのサインは後にお宝になったのであった。

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 そうしていよいよ、レコード、カセットテープの発売日。すなわち僕の歌手デビューの日が来た。


初日こそまずまずの売れ行きだったが、有名な作曲家並びに作詞家のネームバリューと口コミによって、うなぎのぼりな売り上げを記録した。


 顔出しNGにしているので、TV画面には出ていないが歌謡番組のランキング上位に入ったり、ラジオのリクエストで流された。


 幼稚園の友達が口ずさんでいる時は焦ってしまった。後、『歌声が似てるね。』と指摘された事もあった。


幼稚園側は知ってか知らずか運動会の時流され、誇らしくもあり気恥ずかしくもあった。

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 「『みかん』ちゃん。の歌手デビュー並びに売り上げ大ヒットに乾杯!」


 「「「乾杯!」」」


 ピアノと歌のレッスンの先生が所属する事務所の社長が音頭を取り、先生、僕の両親、自分、スタッフの方々がデビューと売り上げパーティーをしていた。


 でも残念ながら兄達は来ていない。いまだに歌手デビューの事を内緒にしているからだ。


それは兄達が自慢をしてしまい、僕の事が露見してしまうのを避ける為に相談した結果だ。


 『ごめん、兄貴達。』 心の中で僕は謝った。


 なので、実の妹の歌を聴いてファンになっているのも皮肉な事であった。


 『いずれ、時が来たら言うから・・・。』


 「では、『みかん』さんより挨拶してもらいます。どうぞこちらへ。」


 と社長が僕にこちらに来て挨拶する様にうながした。


 「ご紹介にあずかりました、『みかん』です。まずは社長並びにスタッフの皆様方、お疲れ様でした。


そして今後とも宜しくお願い致します。」


 僕はつつがなく挨拶を終え安心していると、社長が驚きの言葉を発した。


 「『みかん』さんのデビュー曲は好評です。と言う事で、第二弾を発売したいと思います。」


 と、発表した。


 「「「おお~」」」


 スタッフの方々も驚きを禁じえなかった様だが、やる気に満ち溢れているのがわかった。


 「『みかん』さん、既に準備は出来ています。後日すぐにでも収録できますがどうしますか?」


 と、社長が僕に対し言ってくる。もちろんイエスだ。


 「はい。わかりました。よろしくお願い致します。」


 そうして僕の歌、第二弾の発売が決定した。

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 祝賀パーティーのあった後日。もとい、翌日に早速レコーディングが始まった。


楽譜とデモテープを視聴すると、これもまた有名曲であった。


すなわち、以前の僕。もとい三花ちゃんが歌っていた事になる。


確か何枚かシングルで出した後、アルバムになっていた記憶がある。


僕にとっては過去の曲で有名なので一応はメロディーは覚えてるが、まさに運命的なものを感じていた。


 何回か練習したのち、収録を済ませ発売を待った。そうして発売されたが、話題性が有り、店頭から売り切れ続出が頻発して入荷待ちの状態になっていた。


 後から聞いた話だけど、社長は笑いが止まらなかったらしい。


 そうして、続いて第三弾、第四弾、第五弾・・・と発売し続け集大成であるアルバムを発売するにまでこぎつけた。


 そしてかねてから打診してあった、先生のカバー曲集も出せる様になった。


 そうして僕事三花ちゃんは『みかん』として世間の話題に上がっていた。


 『兄貴達、内緒にしていて本当にごめん。』

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