第6話 邂逅(かいこう)とピアノ、そして・・・
僕は通園バスで揺られ帰宅のさなか、昨日三花ちゃんが言っていた事を思い出す。
≪明日はピアノの日ね。先生に驚かないでよね。でもあなたはきっと喜ぶはずよ。今から楽しみにしていてね。≫
≪そうよね。楽しみよね。今から私もあなたの驚き喜ぶ様を期待しているわよ。≫
そう言い三花ちゃんの微笑が聴こえてくる。彼女も僕に先生と早く対面させたい様だ。
「ばいばい、じゃあね。三花ちゃん。」
「ばいばい。」
僕の隣に座っていた子が僕に挨拶してバスを降りた。そして更に揺られること数分後、三花ちゃんの家事、鏡原家の近くまでバスが到着して僕は降りて、お母さんが待っているので近くまで向かった。
「三花ちゃん、今日は良い事でも有ったの?顔がニコニコしてるわよ。」
「えへへ~。今日のレッスンが楽しみなの!」
「確か、今日はピアノだったわね。」
「そうなのよ!とても楽しみにしてるのよ。早くおうちに帰って着替えなくちゃ!」
家までの道中、お母さんと会話して今日のレッスンが楽しみである事を強調した。
玄関に到着して靴を脱ぎ揃えて置き、部屋まで一目散に向かい幼稚園の制服、靴下を脱いで普段着のワンピースを着用して靴下を履き替えて、お手洗いに行き用を済ませレッスンの時間になるのを心待ちした。
ちなみにブルマは履きっぱなしである。
ピアノの有る防音室まで向かい、椅子に座り先生が到着されるのを待った。
しばらくして、僕のはやる気持ちが落ち着いてきたと思う頃、先生が部屋に入ってきた。
「やあ、お待たせ。三花ちゃん、熱で数日間寝込んでいたらしいけどもう治まったかい?」
と、気さくに声を掛けて来てくれた。どうやら体調を心配してくださってるみたいだ。
でもそれ以前に僕は驚きを隠せなく、動揺してしまった。
「ん?どうしたんだい?僕の顔に何か付いているのかい?」
ピアノの先生の顔は以前見た事がある。若かりし頃の写真や動画でだが。そして約40年先の先生の顔を知っている。なぜなら後世でゲーム音楽の第一人者として活躍している作曲家だからだ。現在も売れっ子作曲家であると記憶している。前世では画面越しにしか見る事が出来ず、話する事も夢のまた夢であった。
その様な方と生で会話して、僕の為に忙しい時間を割いて下さりとても嬉しい反面、怖い気持ちもあった。
まさかこれこそ夢ではなかろうかと・・・。
≪どう?驚いたでしょ?私もあなたの記憶から今後の先生の功績を知りとても驚いたわ。≫
≪そうだね。確かに驚いたよ。まさか生で見て会話してレッスンしてもらえるなんてね。歌も教えてもらってるの?≫
≪ええ、そうよ。ピアノの後は歌のレッスンも受けてるのよ。≫
「三花ちゃん、どうしたんだい?顔が赤いけど、まだ熱があるのかい?」
「いえ、先生に出会えた喜びを噛みしめていたところです。」
「いきなりどうしたんだい?大げさな事言って・・・。」
僕は先生に会えた喜びで興奮してしまい舞い上がってるのがわかる。そう、たしかに熱があると言ってもいいだろう。まさに先生に対し、お熱の状態であった。
考えてみてほしい。出会う事の無い憧れの人が目の前にいるのだから。
「まあ三花ちゃんも元気そうだし、では早速レッスンに入ろうか。」
「はい、先生お願い致します!」
「いい返事だね。では先週に出した宿題の曲は弾けたかな?」
「ええと~・・・。」
≪ねえ三花ちゃん、先週の宿題とやらの練習は出来たのかい?≫
≪無理よ。だって昨日まで数日間熱で寝込んでいたんだもの。≫
先生に先週に出した宿題の成果を示す様に言われて慌てて三花ちゃんに確認を入れた。
「すみません。昨日まで寝込んでいたので練習していません。」
ぺこりとお辞儀して謝った。
「わかったよ。熱で寝込んでいたのは僕も聞いていたから大丈夫だよ。では来週までの宿題としておこうかな。」
「はい、わかりました。すみませんがどういった曲だったか弾いてはいただけませんでしょうか?」
「仕方ないね。では弾いてみるとしようか。」
三花ちゃんは先週のレッスンの時に聴いていたであろうが、僕は初めての事で先生にお願いして弾いてもらった。この曲は聴き覚えがある。先生の代表曲の一つである。おもむろに僕の口からは、
「ラ、ラ、ラ、ラ~」
先生の伴奏に合わせつい僕は歌いだしていた。それ程好きな曲である。
しばらくして曲が終わり、先生が言ってきた。
「まだ歌のレッスン時間じゃないのだけどね。まあ、三花ちゃんは歌うのが好きなのはわかっているけど、その歌詞はどうしたんだい?この曲はBGMとして作曲していてまだ歌詞は付けていないはずだと思うけど。」
あちゃ~、しまった~。つい歌ってしまったが、この時点では歌詞がまだ無かったらしい。未来では有名な曲であったがこの時点ではそれ程でもないみたいだった。
「すみません。つい先生の曲を聴いている内に歌詞が浮かんでしまい即興で歌ってしまいました。」
「そうかわかったよ。でもいい感じの歌詞に聴こえたけど、どの様なフレーズか覚えているかい?」
「ごめんなさい。また曲を聴けば浮かぶかもしれませんが、同じ物とは限らないと思います。」
「ではもう一回弾くよ。でもちょっと待っててね。」
と言い、先生はかばんから二つの物体を取り出した。そうラジカセとマイクである。おもむろに準備をしてマイクを僕に渡してきた。
「録音するから歌ってもらえるかい?最悪ワンフレーズだけでもいいから。」
そうして即興の唄会が始まった。結果としては、最初から歌ってしまっていた。先生には曲を聴いたので歌詞をイメージしていたと伝えた。そして録音した音源を先生と僕は聴いた。
「そうなんだね。三花ちゃんにとってはこの曲のイメージはこういう感じなんだね。とてもいい歌詞だよ。このまま発表したいくらい完成されてるよ。」
「ありがとうございます。」
僕は再生されている曲を聴いて、三花ちゃんの歌声はこの様な声なんだな。と思った。前世で聞いた事がある。確か、骨の振動で自分が発声していて実際の声と耳に聴こえる声が違うらしいと。
とにかく三花ちゃんは天使の様な声で魅了されてしまう。三花ちゃんがもし歌を発売していたらファンになっていただろうと思う。それ程可愛らしい声をしていたし、歌が好きなだけありとても上手だった。
「そうそう、では先生のとっておきの新作。出来立てほやほやのを三花ちゃんにだけ特別に聴かせてあげるよ。」
先生が弾き始める。途中で僕はあの曲だな。と思ったが言うわけにもいかず悶々としていた。そうして先生は曲の題名を教えてくれた。『ああ、やはりか・・・。』と思っていると、
「もしかしたら三花ちゃんはこの曲弾けるかもしれないね。ちょっと弾いてごらん?」
先生と僕は場所交代してピアノを弾いた。その際、ピアノ経験の無い僕にはどだい無理な話であるが、僕はこの曲を何回も聴いていた記憶。三花ちゃんのピアノの演奏力でどうにか乗り切った。つまりは演奏は三花ちゃんに身体の主導権を渡し弾いてもらった。
「すごい、すごい。初めて聴いた曲なのにもうマスターしてるなんて。」
先生が褒めてくる。が、実は試しにセーブ&ロード能力を使い僕の記憶と違い、または覚え間違いが無いかと念の為、複数回聴き直していた。そして、この曲も後世人気のある歌になり大ヒットをはくした。
僕は先程のミスの繰り返しが無い様にと先生に確認をした。
「先生、この曲は出来立てとお伺い致しましたが、歌詞を聴かせてもらえませんでしょうか?」
「三花ちゃん、よく聞いてくれました。まだ作詞はしていない状態だけど、三花ちゃんには何か良い案は無いかい?君ならいいのが浮かぶと思うんだけどね。」
無茶ぶりだと思うが、例えば。と言う感じで僕は先生に答えた。
「ありがとう。三花ちゃんの歌詞はこの曲の良さを向上させてるね。また頼む事になるかもしれないね。」
≪雄蔵さん、今日の2曲は別に良かったかもしれないけど、仮定の話だけど既に作詞は終わらせてるけどあえて聞いてくる場合も有るかもしれないから注意しないといけないと思うわよ。≫
≪そうだね。僕もそう思う。今回はたまたま良かっただけで追及される恐れがあるからね。それにあまり未来知識をひけらかしたくないからね。≫
そうして僕は今度は安請け合いしないでおとなしくしておこうと思った。
そうこうしている内にレッスンの時間が終わろうとしていた。
「先生、お願いと言うか希望があります。ぜひとも先生が今まで作曲されてきた楽曲を集めてカバー曲を作成したいと思います。ちゃんと先生の許可を得てからと思いまして・・・。」
「カバー曲と言うと響きからして他人の楽曲を歌う事・・・。それはカラオケとは違うのかい?それに作成するといってもどうするんだい?」
「他人の曲を歌うのは同じでしょうけどもカラオケは余興の範囲。カバー曲はその名の通りカバーして共有し、金銭を取得します。それに作成は私一人の力では出来ないでしょうから、先生のお力を借りたいと思います。」
「まあ、考えとくよ。」
「ありがとうございます。」
先生はメモ帳になにやら記載していた。そして、
「まだ他に何かあるのかい?」
「ぜひともご迷惑でなければ先生のサインを頂けませんでしょうか?」
「別にいいけど、色紙が今無いけどそれでもいいの?」
「ぜひとも色紙で頂けたらとてもありがたいと思います。」
「なら来週に持ってくるから期待していてね。」
「ありがとうございます。」
そう、サインがとてもほしかったのだ。
楽しい時間は過ぎて行き、レッスンの先生が帰られた。とても充実した時間で、いつの間にやら疲れも蓄積されており、部屋に戻り風呂の準備をして浴室に向かった。その後夕食を済ませ就寝した。
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一方その頃。
「本当に4歳の子が作詞して歌っているのかい?嘘じゃないだろうね?」
「気になるのはごもっとも。」
「しかし、2曲も即興で作詞したのか・・・。」
「しかも短時間の内に・・・。」
「それにカバー曲集を作成したいですか・・・。それにカラオケとの違いも指摘している。」
「この子が未来人だと言われても信じられるかもしれないよ。」
「まさかそんなはずはないでしょう。」
「今度試しに既に作詞済みの曲を見せてみましょうか?」
「どういう歌になるか興味があるね。」
「歌と言えば、この子可愛いね。歌声も悪くないし、希望通りカバー曲を出した方が我々にも得かと思いますが・・・。」
「ではデビューの話をしてみましょうか。」
「その件は前向きに検討しよう。本人の希望も聞いてみるが芸名をどうするかだな。」
「それならいい考えがあります。以前にも本人が言っていましたがあだ名を付けるとしたなら、
名前をもじった感じにして欲しいと。『三花』だから『みかん』と。」
「『みかん』かそれはいいね。では、彼女の芸名は『みかん』という事で皆さん、いいですね。」
「それにしても彼女の歌声はなんとなく気分を落ち着かしますな。」
「いや、自分も感じましたよ。」
「私も同感ですな。」
「例えばいやし?」
「言いえてみょうですな。」
「では彼女の売り方の方向性としては、いやし系アイドルという事で。」
そうしてこれが、『いやし系アイドルみかん』の誕生の瞬間であった。
机の上には鏡原三花の写真。そこには笑顔を振りまいている彼女が写っていた。
そしてラジカセから響き渡る彼女の歌声。
「では、解散。 の前にもう1回。」
彼女の歌声に魅了されていた。
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