第5話 幼稚園にて

 ≪起きて・・・。≫


 ≪ねえ、起きてよ・・・。≫


 ≪ねえねえ、早く起きてよ・・・。≫


 むにゃ、むにゃ・・・。ぐう・・・。


 ≪早く起きてと言ってるでしょ!≫


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 翌日、目が覚めると三花ちゃんが怒っていた。


 ≪もうっ!いつまで寝てるのっ!女の子は準備に時間がかかるのよ?≫


 ≪いやあ、ごめん。ごめん。≫


 片方の手を腰に当てて、僕に指を指して注意してる様をイメージしたらとたんに笑みがこぼれてきた。


 ≪何笑ってるのよ?笑い事じゃないのよ。≫


 切羽詰まった(せっぱつまった)状態の三花ちゃんが言ってくる。


 ≪ほらっ!早く時計を見て!6時半になっているでしょ?早く着替えて!着替えて!それにブラッシング!と、その前に洗顔しないとね。≫


 よほど慌ててる様だ。


まずはお手洗いで朝一の用を済ませ、手を洗うとついでに歯磨き、洗顔をした。


 『うんっ!今日も可愛い!』


 部屋に戻り、昨晩準備していた幼稚園の制服に着替えた。


が・・・。


 幼稚園の女子制服の着方がわからない・・・。すると三花ちゃんが、


 ≪まずはパジャマの上を脱いで、ブラウスを着て。そうしたらパジャマの下も脱いで吊りスカートと指定の靴下をはいて、リボンタイを付けて上着を着ればいいのよ。あとこれも忘れずに履いてね。≫


 三花ちゃんが渡してくれた物。遠い昔の学生時代に見た記憶のある存在。それはブルマ。多分だろうけどパンチラ防止の為かな?そういえば前世で幼稚園児の時、女子が鉄棒の逆上がりした時にスカートがめくれてパンモロしたのを見た記憶がある。


 ≪もしかしてこれはブルマじゃなかったっけ?≫


 ≪もしかしてじゃなく、正真正銘ブルマよ。≫


 ≪パンチラ防止の為かな?≫


 ≪ええ。それもあるけど、ブルマを履いたら包まれているみたいで安心感があるのよ。≫


 ≪ふう~ん。では早速履いてみるよ。≫


 確かに安心感がある。様な気がする。そういえば、はみパンとか聞いた事あったな。と思い、太ももの付け根の部分に指を入れてショーツがはみ出さない様に注意した。そして指を抜いたら、パンッ!と良い音がして太ももに密着した。念の為、姿見鏡で確認する。はみ出しが無い事を確認したら、制服の着こなしチェックをして帽子とかばんを持って急いでダイニングに向かった。


 「おはよう!」


 と言うと、お母さんが反応してくれる。


 「一体どうしたの?そんなに慌てて、寝坊でもしたの?」


 「まあ、そんなところ。」


 図星を付かれたが、なんとか平静を装って返答した。


 「ならなるべく早めに食べなさいね。でもよく噛むのよ。」


 「はあい。頂きます。」


 僕は合掌した。


 ちなみに今日の朝ご飯は、トーストでジャムとマーガリンを付けて牛乳で流し込んだ。


あと、コーンフレークに牛乳がかかった物や野菜のマヨネーズあえがあった。


 「ご馳走様でした。」


 「はい、お粗末様。三花、ちょっと待ちなさい。今お母さんがブラッシングをしてあげるから。」


 そうして僕の髪をとかした。ブラシの感触が気持ち良い。


 「三花の髪はいつ見ても綺麗ね。」


 「ありがとう。お母さん。」


 うとうとしてくるのを我慢しているとどうやら髪ときが終わった様で、


 「三花、終わったわよ。」


 「はあい。ありがとう。」


 と言い、食後の歯磨きの為に洗面所に向かった。


そこには既に、お父さんと兄達がいて歯磨きや準備をしていた。


 「どうしたんだい?三花。あわててもろくな事にしかならないよ?」


 「おはようございます。わかっていますが、今はあわてていましてすぐに歯磨きがしたいと思います。」


 「わかったよ。」


 お父さんが注意喚起をしてきた。どうしてこんなに慌てているのだろうかと兄達も不思議がっていた。


歯磨きが終わると急いでリビングのTVの前に座り、電源を入れチャンネルを回し、待つ事数分。希望の番組が流れた。朝の幼児、子供向け番組で、確か前世では僕が成人していても放映されていた長寿番組だと記憶している。恐竜の男の子と雪男の男の子が着ぐるみとして登場していた。その番組は三花ちゃんもファンであり、楽しく視聴していた。


 「「いってきまーす。」」 


 「では行ってくる。」


 「いってらっしゃーい。」


 僕がTVに夢中になっている時、兄達が小学校へ、お父さんが通勤していった。


無意識に挨拶していた。


 もうそろそろ通園バスが来る時間が近づき、玄関に向かい通園靴に足を通して忘れ物が無いか確認をして問題が無い事がわかるとお母さんが、


 「三花ももうすぐね。そろそろ外に出て通園バスを待ちましょう。」


 そう言い、僕の手を引いて先導した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「やあ三花ちゃん、おはよう。」


 「おはようございます。」


 僕がバスに乗り込むと運転手が挨拶してきたので、ぺこりとお辞儀をして僕も挨拶した。


すると同乗の幼稚園の先生が、


 「おはよう三花ちゃん。無事熱は治まったかい?心配していたんだよ?」


 「ご心配をおかけして申し訳ありません。本調子ではないかもしれませんが、なんとか元気です。」


 と、帽子を外し、お辞儀をして元気アピールをした。すると先生は、


 「三花ちゃんは普段から大人びている感じだけど今日はより一層そう思うよ。とにかく元気になって良かったよ。」


 「ありがとうございます。」


 そうして座席に座り、待つ事しばらくして幼稚園に着いた。


 「三花ちゃん、元気になったかい?心配したんだよ?」


 「三花ちゃん、大丈夫?」


 幼稚園に着いてからでも先生や他の園児から声がかけられた。


 「ありがとうございます。おかげ様で元気になりました。」


 僕は三花ちゃんに先導され、自分のクラスに向かい制服の上着を脱いでスモックを着込んだ。


そして教室に入ると三花ちゃんを見たクラスメイト達がおもむろに話しかけてきた。


 「三花ちゃん、元気?」


 「三花ちゃん、調子はどう?」


 三花ちゃん、三花ちゃん、三花ちゃん。みんなが心配してくれて声を掛けてくれる。


 「はい。皆様のおかげで私は元気になりました。ご心配をおかけして申し訳ありません。」


 ぺこり。とお辞儀して元気アピールした。


 「なら良かったよ。」


 みんなが解散していく。


 しばらくすると、とあるグループで『パンッ!』と何だか懐かしい音と歓声が聞こえてきた。


また心地よい音が聴こえた。僕はそちらを見ると何人かが集まり、振りかぶっては振り下ろすと言う行動を繰り返し、音を鳴らしていた。そう、昔友達と作って鳴らした記憶のある好きだったおもちゃ。紙鉄砲。


思わず僕は近づき、紙鉄砲を見せてもらった。


 「ねえ、その紙鉄砲見せてもらえないかしら?」


 初め紙鉄砲と聞いて何の事かと思った様で、所持者はきょとんとしていたが、僕の指した手の方向でこれの事かと理解したみたいだった。


 「別にいいけど紙鉄砲てなんだ?これはそう言う名前なのか?」


 「ええ、そうよ。ちょっと貸してもらえないかしら。聞いての通りこの様に振りかぶってまっすぐに振り下ろすと・・・。『パーン!』て、鳴るの。」


 僕はおぼろげな昔の記憶で紙鉄砲を鳴らすと、大きい音がした。


 「すげえ~!こんなに大きい音初めて聴いたよ。」


 「三花ちゃん、僕にもコツ教えてよ。」


 みんな期待の視線を投げかけてくる。そして大きな音に反応した他の子達がこちらに注目してきた。


 「いえ。私そんなにうまくないから教えれないよ。ただの偶然だよ。」


 「ならもう一回鳴らしてみてよ。」


 僕はまた振った。すると先程の様な音がまたして、皆の目がキラキラしていてこちらを見ていた。


 「ちょっと貸して。」


 と他の子が僕が持っていた紙鉄砲で鳴らしてみた。が、幾分音が小さい様な気がする。


 「ねえ三花ちゃん、本当にコツとか知らないの?」


 「コツと言われてもただこの様にしただけよ。」


 と振った。


 「試しに他の紙鉄砲?を鳴らしてみてよ。」


 僕に他の子が持っていた物を渡してきて、それを振るう。やはり僕がしたら大きな音がする。


 「ではこれも念の為、鳴らしてみて。」


 更に別の紙鉄砲を鳴らす。結果は明らかに僕が鳴らした時だけ大きな音がしており、僕自身もどうしてだか分からず困っていた。


 そうこうしていると、担任の先生が教室に入ってきて、


 「立て続けにここから大きな音がしていたから何事が起ったのだ?」


 と心配していた。


 「はい、先生。この紙鉄砲なるおもちゃ三花ちゃんが振った時にだけ大きな音がしました。」


 「ふうん、では三花ちゃん振ってみて。でもその前に先に数人がそれぞれ振ってみて。」


 先生に言われ、数人が紙鉄砲を振るう。そして僕が全部を振るった。


そうしたらどれも大きな音が鳴り響いた。


 「わかったよ。みんな、三花ちゃん、ありがとう。つまりは大きな音のコツが知りたいと言うのだね。」


 僕も何気なく振るっているだけなのでコツを教えようがない。


 「では三花ちゃん。前に出てまた数回振ってもらえるかい?」


 「はい、わかりました。」


 僕は数回振る。流石に腕が疲れてきた。すると最初は大きな音だったが、徐々にごく普通の音になった様だ。つまり、フォームが変わったと言う事だ。


 「なるほどね。なんとなくだが先生はわかった気がする。最初は大きな音をしていたが、しばらくして小さくなった。それに伴い三花ちゃんの腕の動きも変化していた。つまり多分だが最初は思い切り振れたのだと思う。だが、疲労がたまり振り方がおぼつかなくなった。皆も思い切り振ってみたらいいと思うよ。」


 決果として、先生の読み通り思いっきり振ったら大きな音が出ていた。


ので、僕に追及される恐れが無くなったのだが・・・。


 「先生、何回も大きな音を出してどうしたのでしょうか?子供達も集中できませんからね。」


 と、隣の教室の先生が来た。


 「ええと、実はこれなんですがね。」


 紙鉄砲を担任の先生が隣の教室の先生に見せて話していた。


 「ああ、これなら先程まで僕の教室でも遊んでいましたよ。で、こちらから大きな音が聴こえるので子供達は気になって、気になって。それで僕が来たわけです。」


 「そうでしたか。実はこちらの三花ちゃんがね・・・。」


 と、僕を指さして事の顛末を説明していた。


 「なる程・・・。大体のコツは分かりました。その様に子供達にも教えます。いやあ、うかがいに来て良かったよ。では僕はこれで失礼しますよ。」


 ちょっと僕の方を見てほほ笑んで自分の担当の教室に帰っていった。


なんだかんだ言って時間が過ぎて行き、お昼ごはんの時間になった。


 「いただきます。」


 「「「「「いただきます!」」」」」


 皆で合掌して、給食を食べた。昼食の時間が終わるとお昼寝タイムになり雑魚寝をした。


皆すやすやと寝ており、気持ちよさそうに寝息もしくはいびきをかいてる子もいた。


つかの間のお昼寝タイムが終わり、帰宅の時間になった。スモックから制服の上着に着替え、通園バスの乗車順番を待つ。そして待っている間、僕は鉄棒をして時間を潰した。


けど、やはりというか僕の周り、すなわち三花ちゃんの可愛さに見学者が集まり、注目の的になった。


逆上がりをしてスカートがめくれたけど、前もってブルマを履いているのでパンモロはしなかった。


他の女の子達も下にブルマを履いていて安心だった。だが、不幸な事に忘れてきたらしき子は鉄棒の輪に入ってこなかった。


なにしろ初めてのスカート。ひらひらして足がスースーしていたけど、ブルマのお陰であたたかく思ったのと、『パンチラしない』と言う安心感がずいぶんあった。


 パンモロと言うと思い出した事がある。昔TVで観たが、両手を叩き『パン』、Vサインをして『ツー』、親指と人差し指で輪っかを作り眼鏡の様に目の前に持ってきて『丸』、おでこに手を持ってきて『見え』。


すなわち、つなげると『パン』『ツー』『丸』『見え』のジェスチャーになるという話だ。


 そうこうしている内に自分の乗車順番になり、列に並んで通園バスに乗り込んで帰宅した。

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