第4話 葛藤(かっとう)

 ≪三花ちゃんの家は結構大きいみたいだね。≫


 ≪大した事ないわよ。まあ、雄蔵君の前世の家に比べたら大きいかもね。≫


 今、僕は三花ちゃんに案内されてお手洗いに向かっている。そして現状把握の為、道中家の中を案内してもらっていた。とにかく広い、大きい、廊下が長い。部屋数も一杯ある。そして三花ちゃんの部屋から一番近いお手洗いに近づいていてまもなく目的地が見えてきた。


 そして僕は三花ちゃんが着ているパジャマを褒めた。一見質素ながらも、可愛いデザインをしており色も似合っていた。


 ≪可愛いパジャマだね。一見質素に見えて三花ちゃんの魅力を引き立てているよ。≫


 ≪ふふふ、雄蔵さん、ありがとう。≫


 しばらくするとお手洗いに着き、便器を前に躊躇ちゅうちょしていた。迫りくる尿意。でもかっとうがあり、なかなかパジャマのズボンとショーツを下げる事が出来なかった。


現在身体を操っているとは言え、元は他人の物。早く尿意から逃れたい反面、三花ちゃんの身体なので、


そわそわして中々その一歩が踏み出せないでいた。そんな僕に三花ちゃんは、


 ≪何してるのよ。早くズボンとショーツを下ろして用を済ませなさいよ。それとも私に膀胱炎になれとでも言うの?≫


 ≪いや、とんでもない。すぐするよ。でも緊張して出来ないんだよ。≫


 なんだかんだ言っていたら我慢の限界近くまで迫ってきた。僕は意を決しズボンとショーツを下ろし用を足した。『和式便器なんて、なんて久しぶりなんだろう。』 


感慨にふけっていると、


 ≪用を足し終わったなら、ちゃんとペーパーで拭き取ってね。≫


 ≪わかったよ。≫


 そう言えば聞いた事がある。終わったら拭かないといけないと。


そして拭き終わり便器の水を流した。そして後は手を洗う段階になり、ふと備え付けの鏡で三花ちゃんの顔を見た。


 そこにうつっていたのは黒髪ロングで目鼻立ちがすっきりとしてまつ毛が長く、まるで広大な砂漠のオアシスに咲く一輪の花と言っても過言では無い程の美少女がいた。


まるで、アイドルと言っても納得する程だ。


 ≪どうしたの?≫


 ≪三花ちゃんはとても可愛いね。ほれぼれするよ。≫


 ≪ありがとう。自分磨きに余念がないもの。所でこの後は寝汗をかいたからお風呂にしましょうか。


お父さんとお母さんに言ってお風呂の準備をしてもらわないと。≫


 手を洗い拭いてから三花ちゃんの部屋に戻って休んだ。その戻る途中で両親の元により、


 「汗を流したいからお風呂の準備してください。」


 「お風呂の準備はもうしばらく時間がかかるよ。もうあと30分くらいだと思う。」


 「三花、もうしばらくの我慢だよ。部屋に戻って着替えの用意しておいてね。」


 「はい。わかりました。」


 聞けば、風呂の準備の最中の事だった。少しの休憩の後、着替えを持って風呂場に向かった。


そして脱衣所に着いてまたもや僕は半ば棒立ちになる。既に兄弟は風呂場に入り身体を流したり浴槽に入っているみたいで、僕事三花ちゃんが1人たたずんでいた。


それに心配したお父さんが怪訝そうな顔をしてこちらを見ながら言ってきた。


 「三花、あんなに風呂に入りたい様な事を言っていたのにどうしたんだい?三花とお父さん以外は風呂に入ったけど、脱衣所に突っ立ったりなんかして。」


 「ううん、なんでもない。私も今から入るわ。」


 そう答えるので精一杯だった。


 ≪どうしたの?早くパジャマと下着を脱いで風呂に入りましょうよ。≫


 ≪うん、わかってるんだけどね・・・。≫


 ≪何してるの?私はすぐにでも汗を流したいのだけど。≫


 三花ちゃんが催促してくるが僕の手は止まったままだ。


 『緊張するな。』


 ≪もしかしておじけづいたの?これからは私の身体で過ごさないといけないのよ?≫


 ≪うん、わかっているんだけどね。≫


 三花ちゃんが僕に対しはっぱをかけてくる。


 ≪いやね、緊張していてね。それにボタンが逆に付いてるから外しづらいんだよ。それにいいの?≫


男向けに慣れた僕にとって、三花ちゃんのパジャマは右前になっていて四苦八苦していた。


 ≪いいに決まってるじゃない。あなたと私は一心同体。いいえ、この場合は二心同体というべきかしらね。ほらほら~ただでさえ汗をかいているというのに、このままにしてまた風邪をひかせて熱を出させたいの?≫


 ≪いや、そんなつもりはないよ。では、意を決して脱ぐよ。≫


 そうしてなんとかパジャマのボタンをはずして、上着とズボンを脱いで肌着もはずした。


終わってみたら実にあっけなかった。そしてなんとか風呂場に入り、かけ湯をして浴槽につかった。


するとお母さんと兄弟達から、


 「いったいどうしたの?脱衣所でしばらく固まっていたみたいだけど。具合はまだ悪いの?」


 「そうだよ。心配だよ。」


 「ううん、なんでもないの。大丈夫よ。」


 「それならいいけど・・・。気分が悪ければ早めに上がりなさいね。」


 「はあい。でも、もう大丈夫・・・。」


 僕はしばらく肩までつかった。その際の髪型は頭にタオルを巻いて湯に触れないように注意した。


 「ふう~。極楽。極楽。」


 つい言葉に出てしまったが、家族は微笑ましい顔をしていた。


 そして髪の毛、身体を洗う為浴槽からあがり風呂椅子に座ってから、三花ちゃん用に用意されたシャンプーを使い洗髪した。だけど僕は女の子の髪の洗い方を知らない・・・。という事で、身体の主導権を三花ちゃんに渡し手本を鏡越しで見ていた。


 まずはブラシを使い梳いて(といて)髪や頭皮に付着したほこり等を落とした。


 ≪ブラッシングの強さは頭皮が気持ち良いと感じるぐらいにしたら、血行を促進し健康的な毛髪を生む効果も有るのよ。≫


 との事。男の頃はそこまで考えていなかったな。その後シャンプー前にお湯で頭を洗い髪についた余分な水分を切った。


 ≪シャンプー剤が流れない様にする為よ。≫


 そして適量のシャンプー剤を手の平で軽く泡立て、頭皮を揉み洗いする。ここの頭皮を揉み洗いと言う工程は同じだなと思った。


 ≪頭皮全体を指の腹でマッサージをする様にまんべんなく洗うのよ。そしてロングヘアの毛先は傷みやすい為シャンプー剤が毛先に付かないようにするといいの。≫


 そしてシャンプー剤をお湯でしっかりと洗い流す。


 ≪そうしたら次はトリートメント剤を使うの。髪の内部まで浸透して、内側から補修してくれる働きが有り、潤いと養分を与えるのよ。そして注意事項。せっかく洗って綺麗になった毛穴が詰まらない様に頭皮に付けては駄目だからね。≫


 髪の中間から毛先にかけて揉みこむ様にして付けていく。そして熱いお湯で絞ったタオルで髪を包みしばらく放置した。


 ≪このひと手間で浸透力が高まり、毛先のパサつきをおさえる事が出来るの。≫


 その後トリートメント剤をお湯で洗った。


 ≪しっとりと。つまり湿る程度に濡れていたり、適度に水分を含ませいる状態の事ね。


そのしっとり感が少し残る程度まで洗い流すのよ。たまたま今日はトリートメントだったけど、


リンスを使う事もあるのよ。それも一応の手順があるのだけどね。≫


 ≪女性の頭髪の洗い方を覚えるのが大変だね。≫


 しみじみと僕は思った。


 ≪つややかでサラサラの毛先まで美しいロングヘアを維持するのは大変なのよ。≫


 トリートメントを付けて待っている間に身体を洗う。タオルに石鹸をなじませて泡立てて腕、上半身の前、後ろ、下半身、足の順番。すなわち身体の上から磨きあげる。


ここでも僕はちゅうちょして鏡から目をそらしてしまう。


 ≪なにしてんのよ?しっかりと見て洗い方を覚えてね。今後はあなたが私の身体を洗う事になるのだから。≫


 ≪いや、三花ちゃんはとても神々しいからどうしても見るのをちゅうちょしてしまうんだよ。≫


 ≪ふふっ!ありがとう!うれしい事言うわね。でも早く女の身体に慣れないといけないわよ。≫


 どうにか返答すると、三花ちゃんが言う。


 ≪次は洗顔ね。お風呂を上がったらすぐに化粧水をかけると言う目的があるのよ。だから最後にするの。≫


 手は顔に触れない様にしている。泡だけを滑らせて洗っているみたいだ。


 ≪洗いすぎは必要な皮脂まで奪ってしまうので、丁寧かつ迅速にするのが大事よ。≫


 なんだかんだと顔と身体を洗い終わると、トリートメント、身体中の泡を流しだした。


肌にかかる水滴が弾け飛ぶ。ふと触るとつるつるして弾力があった。


そして風呂からあがり、柔らかいバスタオルやフェイスタオルで優しく押さえるようにして顔や身体をふいた。そして頭髪にブラッシングをかけてからドライヤーで乾かした。


その後化粧水や美容液、ボディークリームを付けて肌のうるおいを保つ様にする。


そして新しいパジャマと肌着に着替えて各自部屋に戻った。


 ≪どう?覚えられそう?≫


 ≪色々覚えるのが大変だね。≫


 ≪まだまだ覚える事が沢山あるわよ。≫


 ≪うへぇ~。≫


 部屋に戻る道中僕と三花ちゃんで話した。


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 改めて三花ちゃんの部屋の中をみまわすと色々な人形やぬいぐるみに囲まれており、ふと姿見鏡を見ると湯上りで火照った状態の三花ちゃんを確認した。それはまるで着物を着るとまるで日本人形にも見間違える程の魅力にあふれ、見る者を引き付ける力を感じた。


 見まわしていてふと棚に兄達から借りた漫画本、雑誌、小説等が置いてあるのを確認した。その一冊をふと読んでみる。僕は思わずその内容に懐かしくなりひとりでに涙が頬をつたった。


 ≪急に泣き出してどうしたの?≫


 ≪いや、つい懐かしさのあまり涙が出てきたんだと思う。≫


 慌てた様子の三花ちゃんが聞いてきて返答した。


 ≪そういえばあなたが大きくなったらここに有る本たちは処分されていたり、増刷されていて一部セリフが変わっている箇所もあるわね。今ここにあるのは初版本ばかりなのよ。まさにお宝といっても過言では無いわね。≫


 僕は一心不乱に読書をしていた。しばらくして・・・。


 ≪お楽しみの所悪いんだけど、読書の時間は終わりね。あなたはわかっているはず。ちゃんと時間管理をしてメリハリのある有意義な時を過ごさないとね。熱でここしばらくは寝込んでいたけど、回復したし早速明日からお稽古のレッスンを再開するからね。ピアノや水泳、その他もろもろよ。≫


 よく見ると壁に予定表が張られており、日中は幼稚園。夕方から稽古と言う感じだった。


 ≪明日はピアノの日ね。先生に驚かないでよね。でもあなたはきっと喜ぶはずよ。今から楽しみにしていてね。≫


 ≪そうなんだ。楽しみにしているよ。≫


 どことなく含みの有る言葉を発した三花ちゃんは、僕の態度を予言していた。


一体ピアノのレッスンの先生は誰なんだろう?とてもワクワクしている。


 そうして、もう寝る時間になり歯磨き等して眠りについた。

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