第2章 10 「白ぴよ……」
「あ、それ嘘ですねー時速さん。もし最終位置が宿直室ならその下の通路にある残骸を通過しないといけないので」
「それはアレよ。俺が通った時にはまだそこに残骸無かったし、俺もタスクやってただけだから。セルフ通報しか考えられんかなー」
「はいはーい、ひょうごさんから。彼女のセルフじゃないって言うのは僕が証明するよ。カメラが光ってたけどついでに見たって感じかな? それなら――」
MANE DE KILLでのとある一戦。壊された蹴部ロスの残骸について議論が行われている。
――――――――。
――――――。
ゲームは続き、生存しているマネキンは残り5体。
「――待て待て待て待て。絶対そこ2人繋がってるだろ!?」
「ん、そう? じゃあ先に時速さんが吊れたら、次に僕も喜んで吊られよう」
「ごめん、時速さん。クロエですけど私もちょっと時速さんが怪しいなって」
時速150kmはかなり苦しい境遇に立っていた。他の生存者はひょうご、クロエ、料理長、そして――
「ぴよぴーですけど、私も時速さんキラーだって前から思ってたので入れますね!」
頭に出し巻き卵を乗せた、薄ピンクのマネキンのぴよぴー。投票結果は時速150kmに4票、ぴよぴーに1票で、時速150kmの金色のマネキンがダストシュートに放り込まれてしまった。
「あーもー納得行かんけど頑張っ――」
時速150kmが散り際の言葉を放ち終える直前、画面はリザルト画面に切り替わった。マネキラーはぴよぴー、ひょうご、一番最初に操作ミスで現行犯を起こし真っ先に吊られた漬物石の3人だった。
「ひょうごぉ! おいひょうご! お前またとんでもない人連れて来たな!」
「えーそこまで言っちゃうぅ? ひょうごさんイジけちゃうなー」
真っ先に時速150kmがひょうご――御影に物申す。勿論本気では無いことは承知している御影は茶化して返す。
「いっやーナイス過ぎるわ2人とも。あそこからよく2人でやってくれたもんだ」
「いやそう言うけど漬物石さん。折角キラーになって初手キルは無いなと思ったら結局初手で吊られるのはアカンて」
「あっはっは、スマンスマン」
調子の良い漬物石は時速150kmにこう言われるも、心底楽しそうな反応をしている。次に時速150kmはぴよぴー――灯夜に声を掛けた。
「え、ぴよぴーさん。本当にこのゲームほぼ初めて?」
「はい。何なら普段ゲームはしないので、このゲームが人生でほぼ初めてですねー。ひょうごさんに誘われてなかったら一生やってなかったと思います」
「へー……」
「動画を漁ったり野良で数戦やったりってくらいなので、これからもっともっと場数を踏んで強くなりますよー!」
「お、いいねいいね。それじゃあ次、やって行きますか。はいよろしくお願いしまーす!」
…………………………。
「だーからさあ! まーた漬物石さん初手キルされてるやんけ!」
「……兄さん」
「んー?」
時速150kmの配信が終わった後、道瑠が御影の部屋へとやって来た。
「誘ったんだ。平木さん」
「時速さんんトコ? まーねー」
「うーん、あのサーバーに居づらくなったなあ。僕があの人苦手なの知ってるよね?」
「うん知ってる。そこは悪いね。でもあのゲームを勧めたのもあのサーバーに招待したのにも、ちゃーんと理由があってね」
「理由……?」
「如何にも。僕の、そして僕たちの正義のためさ」
「またよくわからないことを……」
実の兄弟ながら、道瑠は兄の発言が時々理解出来ないことがある。しかし深追いはしない。
(でもまあ、兄さんだからなあ)
常人には理解不能な時がある、それ相応の賢さと器用さを御影は持っていることをよく知っており、この一言で片付いてしまうからだ。
(何れわかるだろうしね。それよりも……)
「ところで兄さん。配信の時の平木さん、僕の知ってる平木さんじゃなかったんだけど……。声とか喋り方とか」
「あー。僕も最初笑い堪えるの必死だったよ。彼女、バイト先の長年の常連で多少キャラ変えてるのは知ってたけど、あそこまで明るくはっちゃけるなんてね。あっひゃっひゃっひゃ……」
「僕はゾッとして鳥肌立っちゃったよ……」
「そんな道瑠くんにも愉悦を感じるねぇうんうん。まあ慣れてきゃいんじゃない? あるてさんと関わる以上灯夜ちゃんとも会うだろうし、その時の彼女は配信の時みたいな白ぴよ状態だと思うし」
「白ぴよ……」
「そそ。いつぞやのアレが黒ぴよと言ったトコロか。本人に言ったらヌッ殺されそうだけどねー。あそうそう、あのサーバーの『しじみん』が道瑠くんだってコトは灯夜ちゃんにちゃーんと言ってあるからね」
「ちょっと!」
「まあそれはそれとして」
「それじゃないが!?」
「あっひゃっひゃ。そんな道瑠くんに頼みがあるんだ」
「……何?」
おちゃらけた声色から一変、御影は真面目な声でこう頼んだ。
「あるてさんに会わせてくれないかい?」
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