第1章 36 「……えーと。だから、その。これからもよろしく、道瑠」

「ねえ、ふと思ったんだけどさ」

「うん?」

 あるてが乗る電車の自動改札機付近。まだ少し時間があったため、2人は立ち話を始めた。始めたのはあるてからだった。

「さっき話した私たちのあの謎、1つだけじゃなさそうだよね」

「うーん。それはわかんないけど、否定もし切れないね」

「……7つ集まったらさ、龍を呼んで一気に解明出来そうじゃない?」

「謎はボール状だった……?」

「いやそれは冗談だけど。でも短い付き合いとは行かなさそうだね」

「そうだね。だからこそ、友達になれて良かった」

「ちょっと! 今それ言おうとしてたのにもう!」

 口では「ふんす」と言わんばかりのあるてだったが、心の中では同じこと考えてくれていたんだなと捕らえ嬉しく思った。

「……えーと。だから、その。これからもよろしく、道瑠」

「こちらこそ」

「っと、そろそろ行かないと。それじゃあまた。本当にありがとね」

「うん。気を付けて帰ってね」

 道瑠の言葉にあるては軽くお辞儀をすると自動改札機へと向かい、パスケースを押し付けて通過する。道瑠はあるてが見えなくなるまで改札の前に立ち、見送った。

「……帰るか」

 やがてあるてが見えなくなった。直後、唐突な虚無感に襲われながら道瑠は呟くと、彼もまた自身の乗る電車の改札へと歩き始めた。



 電車の中。あるては電車に揺られながら、今日の出来事の余韻に浸る。道瑠と繋いでいた右手を眺めると、彼の手の感覚がまだ感じるようにも思えた。

(楽しかったな。また絵、頑張ろ)

 友達――増して初めての異性の友達と遊び、それは即ちデートでもあって。男友達とは、デートとは、どういうものかまだわからなかったが、取り敢えずはとても楽しかった。これはあるてにとって確かなことだった。

(……ん? でも何か忘れてるような……。――あっ!)

 しかし余韻に浸ると大体何かしらの邪魔が入るものであって。

(道瑠の写真撮るの忘れてた……!)

 喫茶潔白で撮り損ねて以来、そのまま撮っていないことに気付いたあるてはスマートフォンを取り出した。


あるて

今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったですし、また遊びたいです。

そしてあれから道瑠の写真を撮り忘れていたので、申し訳ないけどまた自撮りして送っていただけると助かります。


 会って話せば遠慮無くタメ口なのに、思わず敬語になってしまう文面でチャットを送った。――それから6分後。


しじみ

こっちこそ有難う

写真は帰って落ち着いたら送るね

なかなか自分を撮るなんてことないし恥ずかしいから、変な顔になってたらごめん


(ズルいなあ、もう……)

 道瑠からの返信を見たあるては申し訳無く思いながらも、微笑ましく思ってしまったのだった。




 翌々日となり、月曜日。

「おはよー……ふあ……」

「おはよ。眠そうだね、珍しい」

 いつもより遅くに教室に入った灯夜は、明らかに眠たそうな顔をしていた。

「ちょっと夜更かししちゃってねー。あるちゃんは一昨日ぃ……」

 灯夜が話をフェードアウトさせ、あるての顔をジッと眺めた。

「………………」

「なっ、何!?」

「……なるほどぉ。眠気、少し覚めちゃった!」

「何で!?」

(あるちゃんから今まで感じたことの無い幸せオーラ……。あの男、あるちゃんをどのようにここまで……?)

 2人の間に首を突っ込んだ前科が最近あったこともあり、一昨日のデートの話は心情的に切り出せない。それだけでは無く、親友の幸せは私の幸せでもあると思っていたはずなのに、灯夜の心中は何処か複雑だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る