第1章 35 (……なんて、意味無い妄想か)
(全く。面倒なことに巻き込まれちゃったな……)
ただ漫画を買うためだけの外出から、こんなことになるなんて――。こう思いながら、御影と別れた灯夜は一人帰路を辿る。
(まあ取り敢えずやるだけやってはみるけど。もし仮に面白くても、無理強いはしないって言ってたし断れば良いわけだし)
立ち止まり、歩きながら買った漫画の入った袋をバッグから取り出す。白いビニール袋を街灯が照らすと『
(『MANE DE KILL』か。昔の
袋をしまい、再び歩き始めた。
(……なんて、意味無い妄想か)
「っあー楽しかった!」
「良かった。僕も楽しかったよ。まあ最初はどうなるかと……」
あるてと道瑠がカラオケ店を出ると、あるてが伸びをしながら言う。そんなあるてを見て、道瑠も安心した様子を見せる。
「いやー……お騒がせしました」
「いやいや、僕も無理矢理誘っちゃったみたいで申し訳無い……って思っちゃったけど、杞憂だったようだね」
「最終的に吹っ切れちゃったからね。あーでももっと道瑠の歌聴きたかったな。歌ってみたとかやって投稿すれば良いのに」
「ちょっとそこまでやる勇気は無いかな。ごめんね?」
「なあんだ。でも、道瑠の圧倒的歌唱を独り占め出来たのは大きいってことだ」
「買い被り過ぎじゃない……?」
楽しそうに会話が続く。
「ところで夕飯はどうしようか?」
「うーん……一緒に食べれたら良かったんだけど、あまり遅くなると心配掛けちゃうし難しいかな。門限は無いんだけど……あっ、でも次遊ぶ時は一緒が良い」
「それもそっか。じゃあ今日はこれで解散かな?」
「ん。ほんとはもうちょっと楽しみたいんだけどなあ……。時間って生きてる人間と同じくらい残酷だよね」
「あはは……。取り敢えず駅まで行こっか」
2人はそれぞれ同じ駅の違う電車で反対方向に向かって帰るので、そのための駅へと向かい始めた。
暗い空の下の、市街の人込みの中。道瑠があるてに話し掛けた。
「今日はほんとに有難う」
「ん、あ、いや私こそ。……ねえ。私たちってもう友達なんだよね?」
「えっ、違うの?」
「いやだってさ。知り合ってまだ間も無いのに、何故か今も手ぇ繋いじゃってるよね」
「あ……ご、ごめん!」
道瑠が手を解こうとするが、それをあるてはきゅっと握って阻止をする。
「ううん、良いよこのままで。でも最悪な出会い方だったのに仲直り直後の実質的な初デートでここまで距離が近くて、友達ってこんななのかなって。私、友達ってぴよくらいしかいなかったからさ」
「それは……うーん、どうなんだろう?」
「でも、慣れておくのも悪くないかな? 流石に踏み入ったことは断固NGだけど」
「僕も流石にしないよ」
道瑠が焦った表情を見せるが、あるてはそれを面白がるわけでなく、優しく笑む。
「信じてる。勿論男の人と容易く手を繋ぐことだってほんとは嫌なんだけど……やっぱり道瑠となら平気なんだよね。チャラ男に変装してた時に手首掴まれた時もそうだったんだけど。どうして?」
「僕が知りたいよ。僕だって女慣れってそんなしてないから。でもあるてはすんなりと……。その謎を解明するんじゃなかったっけ?」
「そうだった。でも意外だな。身長とか骨格とか、よくよく見るとやっぱり男の人なんだなって。でもそれさえ除けば女性的だからさ。……ねえ、生まれる性別間違えてない?」
「言われても気にしないけど、それもよく言われるよ。もしも僕がさ、もっと『THE 男』って外見だったらどうなってただろうね?」
「THE 男……」
あるてがそんな道瑠の姿を想像してみ――
「――やっ! ちょっ! 無理、ギヴ! やっ、ははははは――!」
「何想像したの!? 何想像したのねえっ!?」
ここでも結局楽しそうな2人の会話が繰り広げられるのだった。
――そして、2人は駅に着いてしまった。
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