第1章 34 「はーいはい。放課後職員室に来なさいなっと」
「そう言えばその話だったね。や、勿体ぶってたワケじゃないんだ。言い訳をするでも無い。前置きが長かったね」
御影が手に持っていたスマートフォンをズボンのポケットにしまい、話を続ける。
「この前、僕の弟……道瑠くんとあるてさんの件で君と僕とが対峙した時。前々から君のことはバイトしてて時々見掛けたから顔は知っていたけど、話をしてわかったんだ。君は賢い、頭が切れるってね」
「とんでもございません」
謙遜する灯夜に、御影は手をいやいやと横に振る。
「とんでもあるんだな、これが。それでいてアレは対象があるてさんだったからかもしれないけど、他人のために本気になってた君に僕は義理堅さを見た。そして思ったんだ。この人ならきっと――って」
「うーん……。でもそれって、貴方の一方的な都合ですよね? 無関係な私を巻き込んで、私に何か得でもあるんでしょうか?」
「……君は、将来弁護士になりたいんじゃないのかい?」
「――!?」
予想外の言葉に灯夜が驚く。当然御影にそれを話したことは無い。驚きを通り越して、恐怖を覚えた。
「ど、どうしてそれを……?」
「普段ウチの店で買ってる本さ。法律関連の本とか、漫画も推理モノとか買ってるよね? 『Like a――』のような無関係な恋愛モノも買ってるけど」
「の、覗いてたんですか?」
「覗いてたと言うか……何が売れたかってのは店として当然見るし、そうでなくても離れた所から背中が見えるし。そこから察した」
「………………」
「このゲームも何時何処で誰が何をしていたのか時系列でまとめて、それを証拠にキルが起きたら突き付けたりこの人はマネキンと置いたりして議論を重ね、詰めていく。自分がマネキラーだったとしても、立場の主張を押し通すことは大事だと思うし、仲間のマネキラーを被告人と思えば護ってあげたいよね?」
「このゲームでその力が培える……と?」
「それは努力次第だけど、少なくともそんな君には持って来いなゲームだと思うな」
灯夜にとって御影の話は嫌なくらいに饒舌で、それが尚更癪に障っていた。
「お断りします」
そして、灯夜は結論を述べた。
「……そっか。わかった」
そして御影の反応はこれ以上無いくらいにあっさりとしていた。
「えっ、いいんですか? そんなあっさりと」
「だって部外者を巻き込んでるのは事実だしね。無理強いはしないよ。それとも……理由を聞いて欲しかった?」
「もう少し話を聞いていただけますか? 現段階で協力するのはお断りって話です。ゲームはちょっと齧ってみますが話はそれからです。合わなかったらやめますし、協力するかもわかりません。保留と捕らえて下さい」
「初めからそう言ってくれれば良いのにいけずぅ。でも有難う。基礎的な知識をじゃあ、教えとこうか?」
「はい、お願いします」
こうして御影による、MANE DE KILLの基本講座が始まった。
――――――。
「――そう言えばさっきの独り言。アレはどう言う意味で?」
灯夜に教えている最中、ふと御影が質問した。
「極端な話、貴方はその不正疑惑の配信者たちを『悪』と見なしてるってことですよね? 悪には悪の正義がありますし、誰かの正義は、ともすると誰かにとっては悪となるものです」
「うんうん」
「……その人たちにとっての『正義』とは? 憶測ですけど不正を働かせてまでも『勝つ』ことに意味があり、それが正義なのかもしれません。それでも貴方は彼らを『悪』と思いますか?」
「勝てるならそれに越したことは無いけどね。そこは悪じゃないよ。ただ、
「なるほど……」
「まあ、わかってるつもりだよ。争うってことは法廷でも何処でもそう、互いの正義と正義のぶつかり合いさ」
「……そうですか。まあその、独り言ですし。気になさらないで下さい」
――――――。
「――っと、ここまでにしとこう。あまり帰りが遅いと親御さんも心配するよね」
「ですね。そろそろ帰らないといけません」
時計は19:05を指していた。
「Discover入れてくれてありがと。時速さんのサーバーの招待もしたから後で入ってね」
「わかりました。有難うございます」
そして2人は退室の準備を始めた。
「あ、そうそう」
「はい?」
「『君』と『貴方』で呼び合うのはもうやめようか。僕たち、今後ともよろしくってことになるから。ね? 灯夜ちゃん。敬語も要らないよ」
唐突なちゃん付けに灯夜は驚き戸惑う。
「ああ、それとも『ぴよちゃん』の方が良かっ――」
「それは絶対にやめて下さい」
そしてそれは即答だった。
「まあそうですね。呼び方の件はわかりました。私も御影さんと呼ばせていただきます。敬語は……追い追いでお願いします」
「おけまる食堂。……照れてる?」
「そ、そんなワケな――ッ!?」
異性からちゃん付けて呼ばれることに不慣れで、正直照れていた所に不意打ちで正面から御影に抱き締められた。
「あっ、ゴメン。つい可愛くて……」
「……はぁあ、もうわかりました。鳴らしま……って、あれ?」
防犯ブザーを手に取ろうとする灯夜だが見当たらず、
「――あっ!」
(挿絵)
https://kakuyomu.jp/users/ankm_aaua/news/16817330651325367215
気が付けばいつの間にか御影が持っていた。ナスカン部分をつまみ、本体をぶらぶらとぶら下げている。
「こんなの持ってたら校則違反だぞー。没収!」
「このっ、このっ! 返して下さい!」
「はーいはい。放課後職員室に来なさいなっと」
しかし背の低い灯夜にはどんなに頑張っても届かない。結局返してもらったのは、会計を済ませて外に出てからだった。
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