第1章 33 「だから懲らしめたいんですか?」

「まず聞きたいんだけど、流石にゴースティングってわからないよね?」

「はい。幽霊……?」

「例えば僕が時速さんのマネキルの配信に参加してて、ゲームをやりながらバレないように時速さんの配信を見てたとしよう。これをどう思う?」

「どうって……。それってその時速さんって人の役職とか動きがバレバレってことですよね? 不正じゃないですか」

「そう、それがゴースティング。言い換えるとカンニングに近いかな? 公道をまさに時速150kmで走るレベルの違反行為で、配信者となれば炎上は必至と捕らえてくれて良い」

「そのゴースティングってのが、何か関係あるんですか?」

「……許せない奴らがいるんだよ。とある配信者がいるんだが、そこの放送の常連リスナーの皮を被ったとある奴と2人でグルになって、ゲーム中にゴースティングや情報共有を行ってるって噂があるんだ」

 御影の許せないという気持ちが声になって、灯夜にも伝わって来る。

「ただ飽くまで噂は噂。証拠は一切掴めていないし、何なら真偽すらわからないのが現状。それでいて流石に常勝不敗は怪しまれるんだろう、時々負けることもあるんだが僕から見たらどうも勝ってる時より議論が弱い……恐らくそっちが本来の強さなんだろうと睨んでるよ」

「なるほど。確かに、もしも本当に不正を働かしているのだとしたらそれは許されないことです。その人とは何か関わりがあるんですか?」

「いんや、無いよ。向こうも僕のことを知っているのか、どう思ってるのか知らない」

「でしたらどうしてそこまで……。正義のヒーローだから、ですか?」

「ヒーロー……。そうだそうだ。Discoverディスカバーってゲーム配信に特化した通話チャットサービスがあるんだけどね。僕が参加している時速さんの配信は、時速さんが作ったグループの中で行われてるんだ。ほらこれ」

 そう言うと御影は灯夜にスマートフォンの画面を見せる。Discoverのアプリの、『法定速度150km地帯』というグループの画面が映し出されていた。そして一度スマートフォンを手元に戻すと、画面を上から下へスワイプさせてチャットのログを遡る。

「んっでえ…………あ、ここここ」



やさしいおじさん(やさおじ) 2週間前

昨日例の村に乗り込んでみた


時速150km 2週間前

マジか どうだった?


やさしいおじさん(やさおじ) 2週間前

上手く説明出来んが違和感あるプレイングだった

2戦やって抜けたんだが

その後で「何だったんだアイツ」って配信に乗せて言ってた

アーカイブちらっと見て


漬物石の下にもう3年 2週間前

あーそりゃアカンわ、配信中に言うんは最悪やん

俺が殴り込み行くわ


クロエ 2週間前

漬物石さんが行っても初手キルされて終わるんじゃ……?


漬物石の下にもう3年 2週間前

またまたぁw


時速150km 2週間前

うーん 前にロスさんもボコボコにされたって言ってたしなあ


蹴部ロス@ケルベロス系Tuber 2週間前

嫌なぁ…事件っしたぁ…がくがくぶるぶる…


ひょうご 2週間前

@やさしいおじさん(やさおじ)

不正疑惑の噂は何か掴めたかぇ?


やさしいおじさん(やさおじ) 2週間前

@ひょうご

いやさっぱりだ

すまぬ


ひょうご 2週間前

ゑゑええのよ謝らなくて



 再び見せられた画面に映っていたチャットのログに、灯夜は目を通す。

「これは……」

「僕はここの副管理人を任されているんだが、このサーバーの人たちは全員大切な仲間だと思っていてね。今はこんな風に言ってるけどロスさんなんて裏でガチ泣きしちゃったみたいだし、他にも嫌な思いをした人がここにいる。許せないよねぇ」

「だから懲らしめたいんですか?」

「炎上させるのが目的じゃないけど、そうだね。配信で声と画面載せながら、不正してまでも遊ぶなんて危険な綱渡りをせず、堂々と安定した足場で楽しまないかって伝えられたらそれで良いんだよ」

「そうなんですね」

「僕が楽しめるのが僕の人生で一番大切なのは知ってるよね? これがデスゲームとか賞金が懸かってるとかなら別だけどそうじゃない。ゲームをゲームと楽しみ、不正の無い、泣く人もいない環境でワイワイ楽しめる世界。そこで僕は楽しみたいのさ。綺麗事かもしれないけど、それを望んでる人は少なくないと思うね」

 御影の話を聞いた灯夜は少しだけ考えて、言った。

「話は大体わかりました。1つ質問と、1つ独り言など言っても良いでしょうか?」

「ほう。何だい?」

「それでどうして私にもこのゲームをやって欲しいのか、まだ明確な回答を得られていません。そして……それは本当に、正義のヒーローのやることなんでしょうかねえ……?」

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