第1章 30 「私は、回復専門の魔法少女ですから」

 灯夜は本屋から徒歩8分程の所にある公園のベンチに座り、道中のコンビニで買ったおにぎりを昼食としていた。何故かいつも人のいない海星児童公園とは異なり人が数えられる程度にはいて、灯夜はやや離れた所で遊ぶ子どもたちを微笑ましく眺めながら食べている。

(んーっ、のんびりとした良い休日だなー。……厄介な約束事さえ無ければ)

 しかしそんな様子とは裏腹に、17時半からの御影との約束に多少気を重くさせていた。

(もうじき13時……どう時間潰そっかな。買った漫画読んでも時間が余るし、一旦家に帰るのも面倒――)

「あっ!」

 それだけでは無い。約束の時間までの行動にも頭を悩ませていたが、その思考は強制的に中断された。眺めていた子どもたちの内の一人の、小学校低学年と思われる女の子が転んでしまったのが見えたからだ。痛みに耐えられない女の子の泣き声が灯夜の耳まで聞こえてくる。

「…………よしっ!」

 残り一口程度だったおにぎりを口に入れ、バッグとコンビニの袋を持つと女の子の元へと駆け付ける。

「君、大丈夫? ちょっと見せて」

 素の落ち着いた、しかし真剣な声で灯夜が女の子に声を掛ける。幸い大きくはないが、女の子の膝に擦り傷が出来ていた。

「痛いよね。冷たいしもうちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね?」

 一緒に遊んでいた子供たちに見守られる中、灯夜は――。


「……よし。これで大丈夫だよ」

 買っていた未開封のペットボトルの水を傷口を中心に掛け流して拭いたのち、非常用に持っていた絆創膏を貼った。そして灯夜は優しく女の子に声を掛ける。

「お姉ちゃん、有難う……」

「うんうん。君も頑張ったね。ねえ、お母さんかお父さんは?」

「おうち。皆で遊びに来てたから」

「そっか。じゃあ、ちょっと待ってて?」

 そう言うと今度はメモ帳を取り出し、何かを書き始める。

「お姉ちゃん」

「んん?」

 書きながら、女の子の声に反応する。

「かっこいいね、お姉ちゃん。でも可愛い、その服とか。ヒラヒラしてて魔法少女みたい!」

 その声は、すっかり元気を取り戻しているようだった。

「ありがと。可愛いでしょ? お気に入りなんだ」

「傷を治すタイプの魔法少女かなあ?」

「それは違うなー……と言いたいけど、そう言うことにしとこっか。はいこれ」

 灯夜は書いていたページを切り取ると、女の子に手渡した。


お子さんが公園で転んで膝を擦り剥いたので、勝手ながら洗って絆創膏を貼らせていただきました。応急処置です。

どうか家でももう一度よく洗ってください。また、なるべく乾かさないようにしてください。

お節介なのは重々承知していますが、放っておけなかったので。よろしくお願いします。


「…………文字も可愛いなー。でも漢字、難しいの多くて読めない。これ何て書いてあるの?」

「まだ読めなくて良いんだよ。これをお父さんかお母さんに渡して欲しい。どうしても気になるのなら……その時に読んでもらって?」

「うん、わかった」

「それじゃ、私は行くから。皆も気を付けてね」

「うん。有難う、魔法少女のお姉ちゃん!」

 灯夜は子どもたちと別れると、気持ち的に些か居づらくなったためそのまま公園を後にした。

(魔法少女……か。悪くないかも)

 魔法少女と呼ばれて満更でも無かった灯夜は、お節介ながらも良いことをしたことに気分を良くした。

(…………よし、行こう)

 そしてそれを機に興が乗り、ある場所を目指して歩き続けた。



 ある場所……灯夜がやって来たのは先程も訪れていた本屋だった。店内を見回しながら歩き回り、やがて一人の店員を見掛けるとその人に近付いた。

「いらっしゃ――おや?」

 それは御影だった。

「まだいたんだ」

「面倒なのでそれで良いです。それよりもお伝えしたいことがありまして」

「うんうん、何だろ?」

「『愉悦CLUBクラブ』ってネカフェをご存知でしょうか?」

「うん知ってる。なぁに? 待ち合わせそこにしちゃう?」

「この中途半端な時間を潰すのには最適ですから」

「いやー実はね? その見せたいもの的にネカフェは好都合だから助かるのよ。よーくわかったねぇ、どんな魔法を使ったのやら」

「魔法……」

 先程助けた女の子が脳内に浮かぶ灯夜。

「いや、この場合寧ろエスパーか? エスパーだね、うん」

「別に何も使っちゃいませんよ。そんな魔法もエスパーも」

 御影の冗談を否定して、そしてちょっとドヤ顔気味の顔で続けた。

「私は、回復専門の魔法少女ですから」

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