第1章 22 「何それ……電波?」

「えーと、あるてさんの高校に赤西って人いないかな? 同じ学年の赤西義陽よしひって」

「赤西……。あー、私は全く関わったことないからアレだけど、生徒会やってるよね? あ、生徒会……」

「うん。どうしたの?」

「あ、いや……」

 道瑠の問い掛けに何でもないように言うあるてだが、

(ぴよのことも謝らないと)

 同じく生徒会役員の灯夜が道瑠に勝手な行動をしたことも、謝らないといけないと感じた。

「う、うん。それでその赤西と友達なもので、今年度の文化祭に誘ってくれたんだ。去年の6月にあったでしょ?」

「うん。来てたんだ」

 あるては赤西のことはよく知らないが、灯夜曰く『陽キャでオタッキーで常識人』という話を聞いている。そんな彼と道瑠が仲良いのが意外に思えたが、

(でも私にもぴよがいるしな……)

 あるての知る限りの灯夜を思い出すと、考えることをやめた。

「それで美術部の展覧で絵を見て回って、あるてさんの絵に何処か惹かれたんだ。こう懐かしさを感じるような。顔も知らないはずなのに、『あ、あの人だな』って言うのも顔を見て一目でわかって」

「何それ……電波?」

 道瑠の発言に色々とツッ込みたかったが、それら全ては『電波』と言う言葉に集約された。

「気持ち悪いようなこと言ってるんだけどね。でも、本当にそうだから他に言いようが無いんだ」

「変なの。まあ絵を気に入ってもらえてたのなら、ありがと。気になられるのも悪い気が……気が…………しない! 電波なのに! 何で!?」

 普通だったら引く話なのに、やはり何かが違うとあるては困惑する。

「何でと言われても……。でも引かれないで良かった」

 そして道瑠は安心する。

「…………良いよ」

「え?」

「よくわかんないけど、そう言う経緯だったんだって受け入れる。どうして私に惹かれたのかを私も知りたいし、解明してくのも面白そうだよね。だから、その……」

 あるての言いたいことをそれとなく道瑠は察した。しかし何も言わず、あるての言葉を待つ。

「友達に……ならない?」

「喜んで。僕も同じこと望んでたから」

 それは、思った通りの言葉だった。


「あ、そう言えばこの前私の友達が失礼なことしたね。私からも謝る」

 2人はジャングルジムから降りると、あるてがすぐ灯夜のことを謝った。

「友達……平木さん?」

「うん。本人から話は聞いた」

「謝らなくて大丈夫だよ。平木さんはあるてさんのこと、本当に大切な友達に思ってただけだから」

「あの馬鹿、いつもふわふわしてるのにすんごい頭良いからなあ」

「ふわふわ?」

「うん、ふわふわ」

「………………えっ?」

「ん……?」

「……あー、そっか。そう言えばそうだったね、ふわふわしてた。ちょっと怖くもあったけど、今となっては話せて良かったって思ってるよ」

 話を合わせながら、道瑠は思った。

(絶対あるてさんに本性隠してる……!)

「それなら良いんだけど。ところでこの後どうしよ? 仲直りしてさよならってのも勿体無いよね」

「そうなんだよね。となると考えられるのは…………一緒に遊ぶ?」

「でもさ、それって……デートだよね? ぴよが――ああ、灯夜のことそう呼んでるんだけど、以前言ってたんだ。『男女が揃って出掛けたらそれはデートなんだよー!』って」

(ふわふわした平木さん……そんな感じなのか)

 道瑠にとっても『デート』と言う言葉は強かったが、それよりもそこが気になった。

「で、俄に信じ難かったんだけど『広辞苑にも載ってるからー』って言われてさ、調べたらほんとにあったの。……嫌じゃないけどさ、私男友達っていなかったし、抵抗と言うか……恥ずかしいと言うか……」

 と言いながら実際に恥ずかしがるあるてに心打たれる道瑠だが、その時、道瑠は閃いてしまった。

「ねえ、あるてさん」

「……何?」

「じゃあさ、今僕たちがここでこうしている時点でもうデートしてるんじゃ……?」


 ……………………………………。


「ああーなるほど。そっかー――って、ああッ!?」

 道瑠の言葉を完全に理解したあるては、セルフノリツッ込みと共に両手で頭を抱えた。

「お、落ち着いてあるてさん!」

「はあッ、はあっ、はあ……。ねえ、デートって案外ハードル低いんだね……」

「あはは……そうだね」

「あー。じゃあさ、同じデートならもっと楽しみたいよね」

「そうだね。でもその前に……僕まだ一度もあるてさんから名前で呼ばれたこと無いんだよね。だから、名前で呼んでくれるなら」

 あるては今までの道瑠への呼び方を思い返す。

「ずっとアンタって呼んでたねそう言えば。うーん、恥ずかしいな…………」

 しかし後には退けないとあるては感じ、

「………………道瑠」

 小さく、顔を見ずに、名前を呼んだ。

「有難う。呼び捨てにするなら、僕もこれからあるてって呼ぶけど良いかな?」

「うん。呼ぶのも呼ばれるのも、慣れるように頑張る。行こっか、道瑠」

「そうだね、行こう。で、何処に?」

 こうして2人は公園を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る